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- 回想 ジョルク 1-
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悪魔を討伐したのは、人外の強さを持つ、まだ15歳の少年、クラークスだった。
俺は生を受けてからずっと、王族として、帝国最高峰の教育を受けてきた。
面倒くさいことに俺の髪と目の色が、神が王になれると認めた人間にしか現れないものだったため、親父と兄貴が熱心に俺の教育係を発掘し続けていた。
王になるためにと言われても、統治にはまったく興味がなかったし、勉強もサボってばかりだったが、剣と魔法の腕は17歳にして、すでに宮廷魔導士と近衛兵の中でも上位クラスだった。
兄弟の中では最強で、王宮内では、生意気で鼻持ちならないヤツだったと思う。
悪魔の討伐隊のメンバーに選ばれた時は、俺が悪魔を倒してやると息巻いていた。
討伐隊の指揮者には、経験豊富な帝国軍警備兵団の団長が選ばれた。
仕方がない。
俺は実戦経験では、団長には遥かに及ばない若造だ。
悪魔を倒して武勲を立てて認めさせてやる、そう思っていた。
悪魔は小さな村が点在している地域で、膨大な数の魔物を集め、村への攻撃を仄めかしてきた。
悪魔は、攻撃しようと思えばすぐに村々を蹂躙しつくせる規模の魔物達を従え、こちらの兵力が整うのを待っていた。
舐められている。
ふつふつと怒りが湧いてくる。
村人達は、どこに避難すれば命が救われるのか分からず、避難することができない。
魔物の瘴気に影響を受けて、体調を崩す者が続出し始めている、との報告が上がっていた。
討伐隊には浄化の光魔法の使い手はいない。
討伐隊が悪魔と魔物を討伐、もしくは退けてから、土地の浄化のために、数日遅れで派遣される予定だ。
討伐隊には戦いに秀でた者と、最低限の戦いができる、戦いの役に立つ能力である索敵や鑑定、バフやデバフが使える者しかいない。
今回の相手は悪魔。
強い相手と戦うことのできない、後方支援組は参加していない。
物資や食料は、全てマジックバックの中だ。
馬車も馬もない。
身軽に移動できる身体強化の使える者ばかりで、今回の討伐隊を組んだ。
帝国の討伐隊が現地へ到着する前の、最後の野営場所で、その少年に会った。
少年は、野営をしている討伐隊から少し離れた場所で、見慣れないテントを張って寛いでいた。
(怪しい)
そう思った。
こいつは、悪魔の斥候ではないのか?
少年はこちらを見て、にこにこ笑っている。
まるで「ご苦労さん」と言われている気がした。
後から本当に「ご苦労様」と思っていたと聞いて、ブチ切れたもんだ。
こちらが緊迫しているというのに、その緩さが怪しかったんだよ!
俺は団長が止めるのを聞かずに少年にケンカ腰で尋問を始め、埒が明かないことに腹を立て、剣を抜いて切りかかり、返り討ちにあった。
討伐隊の中に特級鑑定師がいて、クラークスを鑑定し、
「彼は正真正銘、人間です。ステータスも、悪魔みたくぶっ千切れてませんよ。」
と、のほほんと言った。
俺が叩きのめされる前に言えよ!
特級鑑定士は、俺の乳兄弟の1人、ウィルの兄だった。
ウィルもウィルなら、兄貴も兄貴だ、クソッたれ。
治癒士の治療を受けながら、団長とクラークスの話を聞く。
クラークスは、悪魔に襲撃されそうな村に残してきた知人が心配で、様子を見に行くところだと言う。
嘘くせぇ。
俺はクラークスから目を離さないと決めた。
人間でも、悪魔の手先にはなれる。
結局、クラークスは悪魔の手先ではないが特別な人間で、クラークスから目を離さなかった自分を自画自賛しまくることになるのだが。
討伐隊がある村の近くで陣地を布き、迎撃の準備を始める中、クラークスが「ちょっと様子を見てくるよ」と悪魔がいると思われる森へ入って行った。
「やはりクラークスは怪しすぎるので、追いかける。」
と言うと、団長が自分も付いていくと言い出した。
「ご自分のご身分をご自覚ください。貴方様は王弟殿下なのです。帝国にとって大切なお方なのです。」
指揮を討伐隊の副隊長2人に任せ、団長と部下2人が俺に付き添う形で、クラークスの後を追った。
部下の1人はムカつく特級鑑定士ヴォルフ、もう1人は索敵のステータスが高いエスタという女だ。
「団長。村人らしき女が1人、この先を走っておりますが、いかがいたしますか?」
「危ないな。声をかけて村に戻るように言おう。」
この村人らしき女は、クラークスを追って森の中を必死で走っていた。
彼女は、村で瘴気に侵された人々を救うために、たった1人で懸命に光魔法をかけ続けていた聖者だった。
俺は生を受けてからずっと、王族として、帝国最高峰の教育を受けてきた。
面倒くさいことに俺の髪と目の色が、神が王になれると認めた人間にしか現れないものだったため、親父と兄貴が熱心に俺の教育係を発掘し続けていた。
王になるためにと言われても、統治にはまったく興味がなかったし、勉強もサボってばかりだったが、剣と魔法の腕は17歳にして、すでに宮廷魔導士と近衛兵の中でも上位クラスだった。
兄弟の中では最強で、王宮内では、生意気で鼻持ちならないヤツだったと思う。
悪魔の討伐隊のメンバーに選ばれた時は、俺が悪魔を倒してやると息巻いていた。
討伐隊の指揮者には、経験豊富な帝国軍警備兵団の団長が選ばれた。
仕方がない。
俺は実戦経験では、団長には遥かに及ばない若造だ。
悪魔を倒して武勲を立てて認めさせてやる、そう思っていた。
悪魔は小さな村が点在している地域で、膨大な数の魔物を集め、村への攻撃を仄めかしてきた。
悪魔は、攻撃しようと思えばすぐに村々を蹂躙しつくせる規模の魔物達を従え、こちらの兵力が整うのを待っていた。
舐められている。
ふつふつと怒りが湧いてくる。
村人達は、どこに避難すれば命が救われるのか分からず、避難することができない。
魔物の瘴気に影響を受けて、体調を崩す者が続出し始めている、との報告が上がっていた。
討伐隊には浄化の光魔法の使い手はいない。
討伐隊が悪魔と魔物を討伐、もしくは退けてから、土地の浄化のために、数日遅れで派遣される予定だ。
討伐隊には戦いに秀でた者と、最低限の戦いができる、戦いの役に立つ能力である索敵や鑑定、バフやデバフが使える者しかいない。
今回の相手は悪魔。
強い相手と戦うことのできない、後方支援組は参加していない。
物資や食料は、全てマジックバックの中だ。
馬車も馬もない。
身軽に移動できる身体強化の使える者ばかりで、今回の討伐隊を組んだ。
帝国の討伐隊が現地へ到着する前の、最後の野営場所で、その少年に会った。
少年は、野営をしている討伐隊から少し離れた場所で、見慣れないテントを張って寛いでいた。
(怪しい)
そう思った。
こいつは、悪魔の斥候ではないのか?
少年はこちらを見て、にこにこ笑っている。
まるで「ご苦労さん」と言われている気がした。
後から本当に「ご苦労様」と思っていたと聞いて、ブチ切れたもんだ。
こちらが緊迫しているというのに、その緩さが怪しかったんだよ!
俺は団長が止めるのを聞かずに少年にケンカ腰で尋問を始め、埒が明かないことに腹を立て、剣を抜いて切りかかり、返り討ちにあった。
討伐隊の中に特級鑑定師がいて、クラークスを鑑定し、
「彼は正真正銘、人間です。ステータスも、悪魔みたくぶっ千切れてませんよ。」
と、のほほんと言った。
俺が叩きのめされる前に言えよ!
特級鑑定士は、俺の乳兄弟の1人、ウィルの兄だった。
ウィルもウィルなら、兄貴も兄貴だ、クソッたれ。
治癒士の治療を受けながら、団長とクラークスの話を聞く。
クラークスは、悪魔に襲撃されそうな村に残してきた知人が心配で、様子を見に行くところだと言う。
嘘くせぇ。
俺はクラークスから目を離さないと決めた。
人間でも、悪魔の手先にはなれる。
結局、クラークスは悪魔の手先ではないが特別な人間で、クラークスから目を離さなかった自分を自画自賛しまくることになるのだが。
討伐隊がある村の近くで陣地を布き、迎撃の準備を始める中、クラークスが「ちょっと様子を見てくるよ」と悪魔がいると思われる森へ入って行った。
「やはりクラークスは怪しすぎるので、追いかける。」
と言うと、団長が自分も付いていくと言い出した。
「ご自分のご身分をご自覚ください。貴方様は王弟殿下なのです。帝国にとって大切なお方なのです。」
指揮を討伐隊の副隊長2人に任せ、団長と部下2人が俺に付き添う形で、クラークスの後を追った。
部下の1人はムカつく特級鑑定士ヴォルフ、もう1人は索敵のステータスが高いエスタという女だ。
「団長。村人らしき女が1人、この先を走っておりますが、いかがいたしますか?」
「危ないな。声をかけて村に戻るように言おう。」
この村人らしき女は、クラークスを追って森の中を必死で走っていた。
彼女は、村で瘴気に侵された人々を救うために、たった1人で懸命に光魔法をかけ続けていた聖者だった。
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