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- side ベルク 2 -
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アリア達が国境を越えた頃、領主ダンバルド子爵家の次男ベルクは怒り狂っていた。
「まだ見つからんのか!」
室内の調度品を、片っ端から部下である男に投げつける。
この男は、盗賊や人攫いをしていたならず者達の頭目であった。
ならず者になる前、この男はとある大きな商会で働いていた。
商才があり、商会の売り上げに貢献していたが、商会長の男に対する扱いは酷かった。
男の容姿が醜いという、ただそれだけの理由で、男の功績を認めないどころか疎んだ。
男は、商会長が女中に手を出して生まれた子供だった。
ある日、商会長の暴言と暴力に耐えられなくなった男は、暴力を振るってきた商会長を突き飛ばした。
それだけのことで、商会長は机の角に頭をぶつけて死んでしまった。
盗んだマジックバックに、手当たり次第に商会長の部屋の中にある金目の物を入れて、男は姿を眩ました。
数年は遊んで暮らせる金が手に入った。
なんだ、簡単じゃないか。
男は思った。
汗水たらして働いても、文句ばかり言われて、暴力を振るわれてきた。
人はあっけなく死ぬ。
殺して盗むだけで、簡単に大金が手に入る。
堕ちていくのは、あっという間だった。
(こいつもあの男と同じだ。)
「あのバラスチアン帝国の冒険者が、検問所を抜けて出国したのは確認できましたが、1人だったそうです。恐らくあの男が薬店に行った時には、もう誰もいなかったのかと・・・」
ベルクは報告している部下を蹴りつける。
「そんなわけあるか!どうやって非力な女と子供が誰にも気づかれずに消えられる!?ふざけたことを言うな!さっさと探し出さないと、お前ら全員処刑するぞ!」
男は何も言うことなく、部屋を後にした。
その態度に更に激高したベルクは、男が出て行った扉に向かって剣を投げつけた。
元々犯罪者であるならず者の集団が、旨い汁が吸えると言われて集まっただけだった。
今までは多少乱暴な口を叩かれることはあっても、処刑するとまでは言われたことがなかった。
いくらならず者達でも、ベルクのこの発言は看過できなかった。
そして、ならず者達だからこそ、行動は早かった。
旨みもなく、自分達の命が取られるかもしれないことが分かると、潮が引くように、その日の内に町からいなくなってしまった。
そんなことになっているとは思いもしないベルクは、メリーアンが別邸の自分の元に連れて来られるのを、今か今かと待っていた。
一睡もできないまま朝を迎えたベルクは、兵舎に怒鳴り込んだ。
ベルクにくっ付いてこの町に来たならず者達は、1人も残っていなかった。
ベルクが兵舎に怒鳴り込んでいた頃、領主であるウルグス・ダンバルド子爵も怒鳴り散らしていた。
「金がないとはどういうことだ!!」
2年前にこの町の領主になってから搾取し続けてきた税金と、この地に持ってきた財産の大半が、金庫から消えてしまっていた。
この主にしてこの家令あり。
ダンバルド子爵に仕えていれば、いくらでも金が集まってくる。
そう考えていた執事長は、金庫の管理を蔑ろにしていた。
それどころか、少しずつではあるが、頻繁に拝借していた。
ウルグスから王に献上するために金を用意するように言われ、金庫に入って大半の金がなくなっていることに気付いた。
「ここに来てからの2年間に取り立てた税金を含め、9割以上の金が消えておりました。」
他人を騙し、罠にかけ、多額の金銭を要求してきた。
賄賂を贈り続けて、やっと自分の領地を持つことができた。
金は面白い程集まってきた。
人口2000人の町から徴収したとは思えないほどの大金であった。
交易に係る関税を大幅に引き上げたのが、多額の税金が徴収できた大きな要因の一つだった。
ウルグスは、金は締め付ければ締め付けるだけ搾り取れるという考えの持ち主だった。
そのせいで交易のために訪れる商人が激減していることに、ウルグスはまったく気付いていない。
故に、徴収できる税金が激減していることにも、気付いていない。
家令達がまったく報告をしていないからだ。
消えた金の行先は、執事長の懐、ウルグスの妻や娘達の買い物の支払い、長男と三男が家令を脅して融通してもらったお小遣い。
そして、ベルクがSランク冒険者ダミーに支払った、とんでもない金額の成功報酬だった。
「まだ見つからんのか!」
室内の調度品を、片っ端から部下である男に投げつける。
この男は、盗賊や人攫いをしていたならず者達の頭目であった。
ならず者になる前、この男はとある大きな商会で働いていた。
商才があり、商会の売り上げに貢献していたが、商会長の男に対する扱いは酷かった。
男の容姿が醜いという、ただそれだけの理由で、男の功績を認めないどころか疎んだ。
男は、商会長が女中に手を出して生まれた子供だった。
ある日、商会長の暴言と暴力に耐えられなくなった男は、暴力を振るってきた商会長を突き飛ばした。
それだけのことで、商会長は机の角に頭をぶつけて死んでしまった。
盗んだマジックバックに、手当たり次第に商会長の部屋の中にある金目の物を入れて、男は姿を眩ました。
数年は遊んで暮らせる金が手に入った。
なんだ、簡単じゃないか。
男は思った。
汗水たらして働いても、文句ばかり言われて、暴力を振るわれてきた。
人はあっけなく死ぬ。
殺して盗むだけで、簡単に大金が手に入る。
堕ちていくのは、あっという間だった。
(こいつもあの男と同じだ。)
「あのバラスチアン帝国の冒険者が、検問所を抜けて出国したのは確認できましたが、1人だったそうです。恐らくあの男が薬店に行った時には、もう誰もいなかったのかと・・・」
ベルクは報告している部下を蹴りつける。
「そんなわけあるか!どうやって非力な女と子供が誰にも気づかれずに消えられる!?ふざけたことを言うな!さっさと探し出さないと、お前ら全員処刑するぞ!」
男は何も言うことなく、部屋を後にした。
その態度に更に激高したベルクは、男が出て行った扉に向かって剣を投げつけた。
元々犯罪者であるならず者の集団が、旨い汁が吸えると言われて集まっただけだった。
今までは多少乱暴な口を叩かれることはあっても、処刑するとまでは言われたことがなかった。
いくらならず者達でも、ベルクのこの発言は看過できなかった。
そして、ならず者達だからこそ、行動は早かった。
旨みもなく、自分達の命が取られるかもしれないことが分かると、潮が引くように、その日の内に町からいなくなってしまった。
そんなことになっているとは思いもしないベルクは、メリーアンが別邸の自分の元に連れて来られるのを、今か今かと待っていた。
一睡もできないまま朝を迎えたベルクは、兵舎に怒鳴り込んだ。
ベルクにくっ付いてこの町に来たならず者達は、1人も残っていなかった。
ベルクが兵舎に怒鳴り込んでいた頃、領主であるウルグス・ダンバルド子爵も怒鳴り散らしていた。
「金がないとはどういうことだ!!」
2年前にこの町の領主になってから搾取し続けてきた税金と、この地に持ってきた財産の大半が、金庫から消えてしまっていた。
この主にしてこの家令あり。
ダンバルド子爵に仕えていれば、いくらでも金が集まってくる。
そう考えていた執事長は、金庫の管理を蔑ろにしていた。
それどころか、少しずつではあるが、頻繁に拝借していた。
ウルグスから王に献上するために金を用意するように言われ、金庫に入って大半の金がなくなっていることに気付いた。
「ここに来てからの2年間に取り立てた税金を含め、9割以上の金が消えておりました。」
他人を騙し、罠にかけ、多額の金銭を要求してきた。
賄賂を贈り続けて、やっと自分の領地を持つことができた。
金は面白い程集まってきた。
人口2000人の町から徴収したとは思えないほどの大金であった。
交易に係る関税を大幅に引き上げたのが、多額の税金が徴収できた大きな要因の一つだった。
ウルグスは、金は締め付ければ締め付けるだけ搾り取れるという考えの持ち主だった。
そのせいで交易のために訪れる商人が激減していることに、ウルグスはまったく気付いていない。
故に、徴収できる税金が激減していることにも、気付いていない。
家令達がまったく報告をしていないからだ。
消えた金の行先は、執事長の懐、ウルグスの妻や娘達の買い物の支払い、長男と三男が家令を脅して融通してもらったお小遣い。
そして、ベルクがSランク冒険者ダミーに支払った、とんでもない金額の成功報酬だった。
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