聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?

ねここ

文字の大きさ
上 下
7 / 21

ビスケットの町に到着

しおりを挟む
「えっと、まずは光魔法のスキルが使えることはエタ―リアナ王国の教会にバレてしまっているので、光魔法だけ使えるということにはできないでしょうか。治癒魔法ではなく、明かりとしての光魔法だけが使えることに。」

「無理だな。」

バラスチアン帝国の国境検問所は、ジョルクおじさんの冒険者証ではない身分証明書によって、付き添いの私たちはスルーパスだった。
今は検問所から一番近い町、ビスケットという美味しそうな名前の町の宿にいる。



エタ―リアナ王国を出国してから、体力のない私を片腕で抱っこしたまま、ジョルクおじさんが国境を走り抜けた。
馬車で3日かかる行程が、その日の夕方にはバラスチアン帝国の国境検問所に着いた。
朝遅めに教会に行き、昼前にエタ―リアナ王国を出国したので、驚きの速さだ。
それでも私に負荷がかからないように、風魔法で私を包みながらゆっくりめに走ったそうだ。
ジョルクおじさん凄い。
さすがSランク冒険者の王弟殿下。

国境検問所が見えてきたところで、お母さんにディメンションホームから出てきてもらった。
なんと、ディメンションホームの中で、持ってきた薬草や花の植え替えをしていたそうな。
そしていつもやっていることを繰り返しているうちに、少し落ち着いてきたようだ。

「ちゃんとした食事は町に着くまで取れそうにない。何か食べたかったら、すぐ森で調達してくるが。」

マジックバックに手を突っ込みながら、ジョルクおじさんが聞いてくる。
ジョルクおじさんのことだ。
家に来るだけだったから、携帯食も持っていないんじゃないだろうか。
Sランクだからなのか、Sランクなのになのか。
私は後者に1票だ。

私はとことこ道の横に歩いて行き、敷物を敷く。
食べ物がなくて、申し訳なさそうに言葉を選んで気を使ってくれるジョルクおじさんとお母さんに、創造魔法で創造したハンバーガーとフレンチフライズとリンゴジュースを小さなお盆に乗せて渡す。

「マジでとんでも3歳児…‥この見慣れないモンはどっから出してきた。」

ジト目で見つめられる。
大丈夫だよ。ジョルクおじさんはいい男だよ。
あの台詞を飲み込んだジョルクおじさんに、心の中で拍手を送る。

「創造魔法で作ってみた。美味しいといいな。食べてみて。」

私はまだ3歳なので小さなハンバーガーとリンゴジュースだけだ。
恐る恐る口を付けた2人だが、ジョルクおじさんは旨い旨いと大喜びし、お母さんは一口食べるごとに、目に力強さが戻ってきているように感じた。

3人並んで国境検問所まで歩く。
大勢の人が並んでいたけれど、ジョルクおじさんは列の横の別の扉に向かった。
軽く挨拶して、サラッと身分証を見せただけで、私たち母子は何の検問も、質問すら受けずに入国できた。

「最近よく通っていたからな。顔パス、は流石にな。一応身分証は見せたから問題ない…はず。」

ヘタレめ。
そこは「問題ないよ」と言い切ってよ。
そんなんだからお父さんがお母さんを先に射止めちゃったんじゃないの?と思わなくもない。
だって、肩書と実力はジョルクおじさんの方がお父さんよりはるかに上じゃないの?
顔は…お父さんの方が好みだけどね!

入国後、もう一度お母さんにはディメンションホームに入ってもらい、ジョルクおじさんが私を抱えて走った。
数十分でビスケットの町に到着した。
ここでもジョルクおじさんのサラッと身分証明書提示のスルーパスだった。

宿を取り(結構高級なところ)、夕食前にさっきの提案をしてみた。
部屋は追手が来るかもしれないため、3人一緒だ。
一緒と言っても、前世で言うところのスイートルーム的な?部屋の中には複数の部屋があり、やたらと豪華だった。
王族であることを抜きにしても、Sランク冒険者は高所得者だからね。
ジョルクおじさん、本当に頼りになります。
頼りにしてるのにぃ~!

「えっと、まずは光魔法のスキルが使えることはエタ―リアナ王国の教会にバレてしまっているので、光魔法だけ使えるということにはできないでしょうか。治癒魔法ではなく、明かりとしての光魔法だけが使えることに。」

「無理だな。」

「平穏な生活を送りたいんです。」

「無理だな。」

「そこをなんとか。」

「無理だな。」

お前は壊れたレコードか!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

処理中です...