聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?

ねここ

文字の大きさ
上 下
6 / 21

白の国境で

しおりを挟む
「馬車で3日はかかるんじゃないの?」

エタ―リアナ王国とバラスチアン帝国の、それぞれの検問所の間にある国境の距離の話である。

両国の間には魔物が多く住む山と森が存在している。
その地域は「白の国境」と呼ばれ、どちらの国にも属していない土地である。

魔物は多いが、小規模な集落であれば暮らしていける土地を確保することも可能であるため、どちらの国にも属さない者が、自給自足で暮らしている。
属国があっても柵を嫌い、好んで白の国境で暮らす者もいる。

さっきの台詞は、ジョルクおじさんがいつも徒歩で移動していると聞いての質問だ。
馬車で3日かかるところを、徒歩でって……

「俺は身体強化のレベルが高いからな。走った方がはるかに速いんだよ。馬だの馬車だのは体は楽なんだが、いざという時には壊しちまう可能性が高いからな。自分だけだったら身軽だし。」

そういうことですか。
流石はSランク冒険者ですね。
はるかに速いって、どのくらい速いのか、めっちゃ興味あります。
私も創造魔法で身体強化魔法が創れたら、お母さんにディメンションホーム入ってもらって、どこまでも走って逃げることができるかもしれないですね。

「ほうほう。そうなのですか。ジョルクおじさんはお母さんに会うために、お仕事がお休みになると速攻で走って来ていたんだ。凄い。愛だね。」

ぼんっ、と音がしそうな勢いで、ジョルクおじさんが真っ赤になった。

年齢の割に初心だなぁ。
可愛いかも。

「私たちは白の国境に住んだ方がいい?バラスチアン帝国に行って、市民権を得て暮らすことは難しいんじゃないの?」

「お前、本当に3歳児か?」

「どこからどう見ても3歳児でしょ?私が赤ん坊の時からのお付き合いじゃないですか。生まれてすぐお父さんと一緒に部屋の中に入ってきて、自分のことのように喜んでくれていたの覚えてるよ。」

「まじでとんでも3歳児だな…」

なんでお父さんじゃない男の人が、出産直後の女性のいる部屋に入って来てるんだ?とは思ったけどね。
3人の関係性を考えると、自然なことだったんだと、今では分かっている。

「真面目な話、お母さんが居ない内に、できるだけこの先のことを決めておきたいのですよ。お母さん…弱ってるから、冷静に考えられないと思うんだ。お母さんも私も頼りにしてるんだよ、ジョルクおじさん。」

「おう。頼れ頼れ。取り敢えず俺の実家に行こう。実家に行けば市民権くらいどうとでもなる。」

聞き捨てならないことを聞かされた気がするぞ?

バラスチアン帝国の市民権という名の永住権は、移住者希望者には一生かけても手に入れることが難しいもの、手に入れることができるのはほんの一握りの人だけって、お父さんに聞いたことがあるんだけど。
居住許可権は、毎年申請して認められれば更新。
市民権は、国に貢献して認められないと貰えないんじゃないの?
軽くどうとでもなるものじゃないでしょ。

「実家って…まさか、お貴族様?どこかのご領主様?」

「…貴族、ではないな。」

なんですか、その歯切れの悪さは。
聞きたくないけれど、聞いておかないと激しく後悔する予感がする。

「…ジョルクおじさんのお名前って……ひょっとして家名があったりする…のですか?…フルネーム…をお伺いしても?」

「気持ち悪い話し方すんな。」

小首を傾げての上目遣い攻撃をしてみる。

「フルネーム。教えて欲しいな?」

「……………ジョルク・フォン・クリス・バラスチアン…だな。」

「はあっ!?」

「…だな。」

なにが、「だな。」ですか。

「王子様?」

「一番上の兄貴が、王様やってるだけだ。」

えーっ!!

「だけだ」って、だけだだけで済む訳ないじゃないですか!
それって、王弟殿下ってことですか!?

「貴族、ではないな。」って…間違ってないけど。
間違ってはいないけれども!

吃驚続きの今日の驚いたことランキング、断トツの1位獲得ですよ!
ベスト1ですよ!!

お母さんはそのこと知ってるんですかーっ!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄されて満足したので聖女辞めますね、神様【完結、以降おまけの日常編】

佐原香奈
恋愛
聖女は生まれる前から強い加護を持つ存在。 人々に加護を分け与え、神に祈りを捧げる忙しい日々を送っていた。 名ばかりの婚約者に毎朝祈りを捧げるのも仕事の一つだったが、いつものように訪れると婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄をされて喜んだ聖女は、これ以上の加護を望むのは強欲だと聖女引退を決意する。 それから神の寵愛を無視し続ける聖女と、愛し子に無視される神に泣きつかれた神官長。 婚約破棄を言い出した婚約者はもちろんざまぁ。 だけどどうにかなっちゃうかも!? 誰もかれもがどうにもならない恋愛ストーリー。 作者は神官長推しだけど、お馬鹿な王子も嫌いではない。 王子が頑張れるのか頑張れないのか全ては未定。 勢いで描いたショートストーリー。 サイドストーリーで熱が入って、何故かドタバタ本格展開に! 以降は甘々おまけストーリーの予定だけど、どうなるかは未定

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

悪役令嬢、まさかの聖女にジョブチェンジ!?

空月 若葉
ファンタジー
 婚約破棄を言い渡された私、クロエは……なんと、前世の記憶っぽい何かを思い出して!?家族にも失望されて……でも、まだ終わってないぞ。私にはまだ、切り札があるんだから! カクヨム、ツギクルにも掲載していたものです。 書き終わっているものを書き直してのせます。146話、14万文字ほど。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

処理中です...