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心配しなくて大丈夫だよ
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この世界では鑑定された職業やスキルに関係のない職に就く人も多い。
ただ、鑑定できない職業とスキルというのは、非常に珍しい、というかそのような話は聞いたことがないらしい。
「あなた、神父様は浄化や治癒の才能があるかもしれないって。神父様には鑑定ができない未知の職業とスキルか、神父様が鑑定できない高いレベルの職業とスキルの可能性があるから、教会本部に入信して、聖女候補になるか、治癒師を目指すのはどうかって。でも、私はアリアと離れたくない。」
お父さんの肖像画に向かって、お母さんが泣いている。
お父さんは冒険者だった。
1年前、依頼先で魔物に襲われ、帰らぬ人となった。
お母さんも元冒険者で、お父さんと結婚してこの町に落ち着くまで、お父さんのパーティーの神官だったという。
神官と言っても教会に所属しているわけではなく、回復魔法と支援魔法の使い手をそう呼ぶのだそうだ。
お母さんは実家が薬店で薬学の知識もあり、お父さんが亡くなってから、私とずっと一緒にいるために小さな薬店を始めた。
この町には、3年と数ヶ月前、冒険者時代に仲の良かったバラスチアン帝国のジョルクさんに薦められて移り住んだという。
その後領主が替わり、この町の暮らしには影が差し始めた。
ジョルクさんは何度も転居を勧めたが、私がもう少し大きくなってからと話していたそうだ。
町長さんがかなり努力を重ねて良政を維持しようとしているが、町民の暮らしは目に見えて厳しくなってきている。
たった200人しか町民が居ないのに、人の出入りが多いのだからと重税を課し、現領主の愚かな子供たちが権力を笠に着て好き勝手に振舞うようになったからだ。
お母さんはまだ20歳になったばかり。
お父さんはお母さんの2歳年上だった。
教会が鑑定結果を他人に知らせることは滅多にないようだが、今回のことが知られれば、弱みを握ることができて歓喜する男がいる。
お母さんを自分の妾にしようとしている、領主の次男ベルクだ。
長男も三男も長女も次女も、私から見れば最低な人でなしだ。
私はお父さんの不可解な死も、こいつらの陰謀ではないかと考えている。
私はお母さんが大好きだ。
とても大切だ。
私はこの町の領主一家も、あんなやつらをこの領地の領主にしたこの国の愚王も、大嫌いだ。
この国を出ることに何の躊躇もない。
「どうしよう…」
小さな私を抱えて、私を1人で育てることを決心して薬店を開いたお母さんだったけれど、私の鑑定結果のせいで、この先の奴らの行動を想像して、浮上できないほど落ち込んで泣いている。
カランカラン、とドアベルが鳴った。
「ジョルクおじさん!」
私はお父さんの親友だったジョルクおじさんの足にしがみついた。
おじさんはわしわしと私の頭を撫でてくれる。
大きな優しい手だ。
いつも髪の毛はぐしゃぐしゃになってしまうのだが。
「傷薬とポーションを買いに来たんだが…どうした?」
お母さんは挨拶すらせず、黙って俯いたまま泣いている。
「あのね、ジョルクおじさん。今日教会に行ってきたの。」
「ああ、鑑定の儀、もう行ってきたのか。付き合おうと思っていたんだが、行けなくてすまなかっ・・・お・・ま・・・いや、あの・・・」
傷薬とポーション購入を言い訳にして、教会に付き添うつもりで来てくれたらしい。
お母さんの様子から、私の鑑定結果のせいでお母さんに元気がないと分かったようだが、お母さんが泣いていることに気付き、この不器用さんはかける言葉が見つからないようだ。
私でも分かるよ、ジョルクおじさん。
お父さんとお母さんを取り合って負けて、でもまだお母さんが好きで、お父さんが亡くなってから頻繁にバラスチアン帝国から様子を見に来てくれているんだよね。
下心抜きで。
さすがお父さんの親友でお母さんを見初めただけあって、ジョルクおじさんはとっても良い人だ。
では、行動を起こしましょうか。
私は職業もスキルもちゃんと神様からいただいている。
お母さんを泣かす奴らは、許さないんだから。
「神父様は私の職業もスキルも分からないって言ってたけど、私はちゃんと神様から私の職業とスキルを聞いたよ?なにも心配しなくて大丈夫だよ、お母さん。」
私の言葉で顔を上げたお母さんだけでなく、ジョルクおじさんも大きく目と口を開けたまま、固まった。
ただ、鑑定できない職業とスキルというのは、非常に珍しい、というかそのような話は聞いたことがないらしい。
「あなた、神父様は浄化や治癒の才能があるかもしれないって。神父様には鑑定ができない未知の職業とスキルか、神父様が鑑定できない高いレベルの職業とスキルの可能性があるから、教会本部に入信して、聖女候補になるか、治癒師を目指すのはどうかって。でも、私はアリアと離れたくない。」
お父さんの肖像画に向かって、お母さんが泣いている。
お父さんは冒険者だった。
1年前、依頼先で魔物に襲われ、帰らぬ人となった。
お母さんも元冒険者で、お父さんと結婚してこの町に落ち着くまで、お父さんのパーティーの神官だったという。
神官と言っても教会に所属しているわけではなく、回復魔法と支援魔法の使い手をそう呼ぶのだそうだ。
お母さんは実家が薬店で薬学の知識もあり、お父さんが亡くなってから、私とずっと一緒にいるために小さな薬店を始めた。
この町には、3年と数ヶ月前、冒険者時代に仲の良かったバラスチアン帝国のジョルクさんに薦められて移り住んだという。
その後領主が替わり、この町の暮らしには影が差し始めた。
ジョルクさんは何度も転居を勧めたが、私がもう少し大きくなってからと話していたそうだ。
町長さんがかなり努力を重ねて良政を維持しようとしているが、町民の暮らしは目に見えて厳しくなってきている。
たった200人しか町民が居ないのに、人の出入りが多いのだからと重税を課し、現領主の愚かな子供たちが権力を笠に着て好き勝手に振舞うようになったからだ。
お母さんはまだ20歳になったばかり。
お父さんはお母さんの2歳年上だった。
教会が鑑定結果を他人に知らせることは滅多にないようだが、今回のことが知られれば、弱みを握ることができて歓喜する男がいる。
お母さんを自分の妾にしようとしている、領主の次男ベルクだ。
長男も三男も長女も次女も、私から見れば最低な人でなしだ。
私はお父さんの不可解な死も、こいつらの陰謀ではないかと考えている。
私はお母さんが大好きだ。
とても大切だ。
私はこの町の領主一家も、あんなやつらをこの領地の領主にしたこの国の愚王も、大嫌いだ。
この国を出ることに何の躊躇もない。
「どうしよう…」
小さな私を抱えて、私を1人で育てることを決心して薬店を開いたお母さんだったけれど、私の鑑定結果のせいで、この先の奴らの行動を想像して、浮上できないほど落ち込んで泣いている。
カランカラン、とドアベルが鳴った。
「ジョルクおじさん!」
私はお父さんの親友だったジョルクおじさんの足にしがみついた。
おじさんはわしわしと私の頭を撫でてくれる。
大きな優しい手だ。
いつも髪の毛はぐしゃぐしゃになってしまうのだが。
「傷薬とポーションを買いに来たんだが…どうした?」
お母さんは挨拶すらせず、黙って俯いたまま泣いている。
「あのね、ジョルクおじさん。今日教会に行ってきたの。」
「ああ、鑑定の儀、もう行ってきたのか。付き合おうと思っていたんだが、行けなくてすまなかっ・・・お・・ま・・・いや、あの・・・」
傷薬とポーション購入を言い訳にして、教会に付き添うつもりで来てくれたらしい。
お母さんの様子から、私の鑑定結果のせいでお母さんに元気がないと分かったようだが、お母さんが泣いていることに気付き、この不器用さんはかける言葉が見つからないようだ。
私でも分かるよ、ジョルクおじさん。
お父さんとお母さんを取り合って負けて、でもまだお母さんが好きで、お父さんが亡くなってから頻繁にバラスチアン帝国から様子を見に来てくれているんだよね。
下心抜きで。
さすがお父さんの親友でお母さんを見初めただけあって、ジョルクおじさんはとっても良い人だ。
では、行動を起こしましょうか。
私は職業もスキルもちゃんと神様からいただいている。
お母さんを泣かす奴らは、許さないんだから。
「神父様は私の職業もスキルも分からないって言ってたけど、私はちゃんと神様から私の職業とスキルを聞いたよ?なにも心配しなくて大丈夫だよ、お母さん。」
私の言葉で顔を上げたお母さんだけでなく、ジョルクおじさんも大きく目と口を開けたまま、固まった。
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