聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?

ねここ

文字の大きさ
上 下
2 / 21

心配しなくて大丈夫だよ

しおりを挟む
この世界では鑑定された職業やスキルに関係のない職に就く人も多い。
ただ、鑑定できない職業とスキルというのは、非常に珍しい、というかそのような話は聞いたことがないらしい。

「あなた、神父様は浄化や治癒の才能があるかもしれないって。神父様には鑑定ができない未知の職業とスキルか、神父様が鑑定できない高いレベルの職業とスキルの可能性があるから、教会本部に入信して、聖女候補になるか、治癒師を目指すのはどうかって。でも、私はアリアと離れたくない。」

お父さんの肖像画に向かって、お母さんが泣いている。


お父さんは冒険者だった。
1年前、依頼先で魔物に襲われ、帰らぬ人となった。

お母さんも元冒険者で、お父さんと結婚してこの町に落ち着くまで、お父さんのパーティーの神官だったという。
神官と言っても教会に所属しているわけではなく、回復魔法と支援魔法の使い手をそう呼ぶのだそうだ。
お母さんは実家が薬店で薬学の知識もあり、お父さんが亡くなってから、私とずっと一緒にいるために小さな薬店を始めた。

この町には、3年と数ヶ月前、冒険者時代に仲の良かったバラスチアン帝国のジョルクさんに薦められて移り住んだという。

その後領主が替わり、この町の暮らしには影が差し始めた。
ジョルクさんは何度も転居を勧めたが、私がもう少し大きくなってからと話していたそうだ。

町長さんがかなり努力を重ねて良政を維持しようとしているが、町民の暮らしは目に見えて厳しくなってきている。
たった200人しか町民が居ないのに、人の出入りが多いのだからと重税を課し、現領主の愚かな子供たちが権力を笠に着て好き勝手に振舞うようになったからだ。

お母さんはまだ20歳になったばかり。
お父さんはお母さんの2歳年上だった。

教会が鑑定結果を他人に知らせることは滅多にないようだが、今回のことが知られれば、弱みを握ることができて歓喜する男がいる。

お母さんを自分の妾にしようとしている、領主の次男ベルクだ。

長男も三男も長女も次女も、私から見れば最低な人でなしだ。
私はお父さんの不可解な死も、こいつらの陰謀ではないかと考えている。

私はお母さんが大好きだ。
とても大切だ。

私はこの町の領主一家も、あんなやつらをこの領地の領主にしたこの国の愚王も、大嫌いだ。
この国を出ることに何の躊躇もない。


「どうしよう…」

小さな私を抱えて、私を1人で育てることを決心して薬店を開いたお母さんだったけれど、私の鑑定結果のせいで、この先の奴らの行動を想像して、浮上できないほど落ち込んで泣いている。

カランカラン、とドアベルが鳴った。

「ジョルクおじさん!」

私はお父さんの親友だったジョルクおじさんの足にしがみついた。
おじさんはわしわしと私の頭を撫でてくれる。
大きな優しい手だ。
いつも髪の毛はぐしゃぐしゃになってしまうのだが。

「傷薬とポーションを買いに来たんだが…どうした?」

お母さんは挨拶すらせず、黙って俯いたまま泣いている。

「あのね、ジョルクおじさん。今日教会に行ってきたの。」

「ああ、鑑定の儀、もう行ってきたのか。付き合おうと思っていたんだが、行けなくてすまなかっ・・・お・・ま・・・いや、あの・・・」

傷薬とポーション購入を言い訳にして、教会に付き添うつもりで来てくれたらしい。
お母さんの様子から、私の鑑定結果のせいでお母さんに元気がないと分かったようだが、お母さんが泣いていることに気付き、この不器用さんはかける言葉が見つからないようだ。

私でも分かるよ、ジョルクおじさん。

お父さんとお母さんを取り合って負けて、でもまだお母さんが好きで、お父さんが亡くなってから頻繁にバラスチアン帝国から様子を見に来てくれているんだよね。
下心抜きで。

さすがお父さんの親友でお母さんを見初めただけあって、ジョルクおじさんはとっても良い人だ。

では、行動を起こしましょうか。
私は職業もスキルもちゃんと神様からいただいている。
お母さんを泣かす奴らは、許さないんだから。

「神父様は私の職業もスキルも分からないって言ってたけど、私はちゃんと神様から私の職業とスキルを聞いたよ?なにも心配しなくて大丈夫だよ、お母さん。」

私の言葉で顔を上げたお母さんだけでなく、ジョルクおじさんも大きく目と口を開けたまま、固まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

処理中です...