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パートナーになった2人

73 12月

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 12月になって寒くなってきた。ニコラは、だんだん動きが緩慢になってきて、アデルの仕事が増えた。今回は住み込みのバイトはしていないので、いつも通り、通いでパンを作り続ける。アデルが働くのは台所までで、その奥のニコラの住居スペースには入らなかった。

 エーリクは定期試験の勉強をしている。それにパスすると、冬休みになるそうだ。
「アデルの誕生日もあるから、再試にかからないようにしないと」
 エーリクはにこりと笑いながら言う。自分の誕生日を特別に考えてくれているようで、アデルは嬉しい。エーリクの勉強の邪魔をしないように、アデルは先にベッドに入る。

 エーリクが買い換えてくれたベッドはセミダブルベットだった。エーリクは細いし、アデルは小さいので、割に広々寝れた。アデルが先に寝ることが多いので夜は普通に寝てしまうが、朝起きると、自分の目の前にエーリクの端正な顔のドアップがあって驚くことが多かった。エーリクが寝ているのをいいことに、少し見つめてから起きているのはエーリクには内緒だ。

 アデルがオメガになって疎遠になったけど、アデルが小さい頃は、エーリクはアデルのベッドに潜り込んで来たりしてたので、その頃に戻ったような感じもする。
 結婚するって言ってたけど、やはり兄弟のままなのかな、とアデルはたまに不安になる。不安だけれど、認められるのが怖くて、エーリクに確認すらできない。
 少し考えるが、12月に入って仕事が忙しくなったので、アデルはベッドに入ると睡魔に引きずられてしまう。

 そうしているうちに、アデルの18歳の誕生日が近づいてきた。
 試験を無事にパスしたエーリクは冬休みに入った。冬休み中は、毎日カフェのバイトを入れている。学校に通っている時は、一緒に夕食をとっていたが、またすれ違いの生活になっている。アデルがベーカリーから帰って、小一時間するとエーリクの出勤時間になる。エーリクはアデルの誕生日に休みを取れるように、それ以前は全て出勤としていた。

「届はどうしよう? 誕生日の日に2人で行く?」
 エーリクに聞かれる。届の意味がぴんと来なくて聞き返す。
「届?」
 エーリクは、やれやれという感じに説明する。
「結婚届に決まってるじゃん。今は、俺達、あんまりお金ないから結婚式はあげられないけど……」

 結婚届!

 アデルの頬が赤らむ。

 エーリクは結婚の事、忘れたわけではないんだ。

「えー? もしかして、アデルが18歳になったら結婚するっていう話、忘れていた?」
 エーリクは唇をとがらす。アデルはかぶりを振る。
「う、ううん。忘れてない」
 かぶりを振りながら、涙が零れてくる。エーリクが慌てる。
「え? なんで泣くの? 俺、なんかした?」
 アデルのそばに来て、アデルの頭を撫でる。アデルは泣きながら、笑った。
「ううん、エーリクのせいではないの。僕が勝手に、エーリクが僕との結婚を忘れたんじゃないかって思ってただけ」
 エーリクは目を見開く。
「忘れてないよ。なんで、忘れるとか思うのさ」
 アデルは涙を手でこすりながら、笑う。
「なんでか分かんないけど、未だにエーリクと結婚できるのか信じられなくて」
 エーリクはアデルをひしと抱きしめる。
「分かった。届はいつでもいいと思ってたけど、やっぱり、アデルの誕生日に2人で出しに行こう。アデルがベーカリーの仕事終わるの、俺、待ってるから」
 また、アデルの目から涙が零れてくる。何も話せなくなって、アデルは一生懸命頷いた。

 エーリクは抱きしめた腕の力を少し緩めた。アデルはエーリクを見上げる。そんなアデルの唇にエーリクは柔らかくキスをした。
「!!!」
 アデルは真っ赤になる。
 エーリクは照れ笑いをしながら、アデルを放す。そして、仕事に行く身支度をした。

 キス、されちゃった。

 アデルは腑抜けのようになって、身支度をしているエーリクを見つめる。身支度が終わったエーリクはアデルを見つめて、微笑む。
「成人してから、と思ってたけど、キスくらいはいいよね」
 アデルは慌てて、頷く。それを見てエーリクは「いってきます」と玄関に向かった。
 ドアが開き、エーリクが出ていく音を聞きながら、アデルは呆然とし続けた。 
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