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エイタナ国
67 ニコラがエーリクのカフェに偵察にいく
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アデルが朝起きると、エーリクはまだ寝ていた。エーリクを起こさないように身支度して、しろくまベーカリーに行く。ベーカリーに行くと、いつも通りに仕事を始める。パンを30本売り切り、お店と台所の掃除をするところまで、今のアデルは何も考えなくても体が動くようになっていた。
「お疲れ様」
ニコラが食事を出してくれる。
「ありがとうございます」
アデルはぽそぽそ食べ始める。
「なんか、あった?」
唐突にニコラに質問され、アデルは、はっとする。
「どうしてですか?」
「元気ないから。心配で」
ニコラは心配そうな顔をしてアデルを見ている。優しいニコラに無性に甘えたくなった。
「僕、実は、兄のことが好きなんです」
心の重りを思い切って吐き出してしまう。白状してしまうと、止まらなかった。ずっと誰かにこの気持ちを聞いてもらいたかったのだ。自分のことを好いてくれるニコラに、こんな告白をするのは卑怯だと分かっている。でも、ニコラなら許してくれるのではないかと甘える気持ちがあった。
5歳で引き取ってもらってから、ずっと好きで。でも血は繋がってないけど弟だし、同性だしでエーリクからは全くそういう目では見られていない。恋人でなくても兄弟としてずっと一緒にいられればいいと思っていたけれど、昨日、女性の友達に会った。綺麗な人で共通の音楽の特技を持っている人。
ニコラは無言で聞いてくれた。そしてアデルに質問する。
「そのミランダっていう人は友人なんでしょ」
「今はそうだと思うけど、ミランダはエーリクのこと好きになっているように見えたし、好かれたら、エーリクだってミランダを、好きになるような予感がする」
ニコラは少しためらってから言う。
「1人ぼっちだった時に迎えに来てくれたら好きになっちゃうよね。初恋、なんだね。告白してみたら?」
「え?」
アデルは驚いて、目を白黒させる。
「ダメだったら、俺の所に来ればいいじゃん」
ニコラは胸をとんと叩く。
「お兄さんを好きになったアデルごと、俺は引き受けるよ。別に無理にお兄さんを忘れろなんて言わないよ。お兄さんを好きなまんまで俺と所帯を持っていいよ」
「そんなこと……」
それじゃ、アデルに都合がよすぎる。
「俺は、それ位、アデルと結婚したいんだ。初恋の1つや2つ、どうでもいい。これからの人生をアデルと積み重ねたいから」
アデルの心臓はドキドキした。胸がいっぱいになる。
「ニコラさん、ありがと。僕、考えてみる」
アデルは家に帰った。
それから、アデルは進捗を何もニコラに言わなかった。淡々と仕事をこなしていてる姿を見ると、告白はしていないんだな、と思う。エーリクが定期試験中と言っていたので、終わるまでは告白はしないのだろうと思い、どうなったのかアデルに確認することはしなかった。
ここはゆとりのある大人をアピールしてアデルのポイントを稼ぎたい。気になりながらも、気にしない振りをして普段通りにアデルに接した。
その次の土曜にニコラはアデルが帰った後、エーリクを偵察にカフェに行った。ニコラの中ではお洒落っぽいジャケットを羽織っていく。
店に入ると、黒髪のイケメンの店員に声をかけられた。
「いらっしゃいませ。お1人ですか?」
「はい」
「どうぞ」
店員の後について店内に入っていく。窓際の席に案内された。メニューを見て、トーストセットを頼んだ。
「かしこまりました」
店員は奥に入っていく。
(この店員さんがアデルの言ってたお兄さんかな。アデルには、あまり似てないな。確かにアデルが言ってたようにカッコいいな)
料理を運んできたのは別の人だった。黒いちょび髭がお洒落な男性。この人は、30代だろうから、エーリクではないだろう。こんがり焼いたトーストにバターの塊がとろけている。付け合わせにゆで卵ときゅうりとトマトがついていた。セットのコーヒーがいい香りでコーヒー好きなニコラは嬉しかった。
「もしかして、しろくまベーカリーのオーナーさんですか?」
ちょび髭の男性がニコラに話しかける。
「そうですが……」
ニコラは咄嗟に身構える。ちょび髭の男性は慌てて謝る。
「すみません。私はこのカフェのオーナーのレオという者です。この辺では珍しい、クマ獣人の方でしたので、もしかしたら、あの有名なベーカリーのオーナーさんかと思いまして」
有名と褒められて、少し肩の力が抜けた。
そこに最初の店員もやってくる。
「初めまして、私はここの店員のエーリクといいます。私の弟がニコラさんには大変お世話になっております」
ぺこりとお辞儀してニコラと目を合わせる。確かに色男だ。女性は放っておかないだろう。
「あ、いえ、こちらこそ。冬の間は弟さんに助けていただいて感謝しております」
「いえいえ、給料を支払っていただいてのお仕事でしたから」
他の客に呼ばれてエーリクはお辞儀をして去っていった。レオもお辞儀をして去っていく。
ニコラはコーヒーを1口飲んだ。そしてトーストを食べ始める。可もなく不可もなく普通の味と思った。市民美術館のそばという立地といい、お洒落な内装といい、ここは美味しい料理というよりは芸術家が集うサロン的な意味合いが強いお店なのだろうと思った。そうとすると料理の味はこのレベルで問題ないのだろう。
ニコラが会計にたつと、レオがレジで対応した。
「是非、またいらしてください。もし、余力がございましたら、しろくまベーカリーのパンを当店に卸してください。名物メニューにしますので」
ニコラは曖昧な愛想笑いをして去った。
「お疲れ様」
ニコラが食事を出してくれる。
「ありがとうございます」
アデルはぽそぽそ食べ始める。
「なんか、あった?」
唐突にニコラに質問され、アデルは、はっとする。
「どうしてですか?」
「元気ないから。心配で」
ニコラは心配そうな顔をしてアデルを見ている。優しいニコラに無性に甘えたくなった。
「僕、実は、兄のことが好きなんです」
心の重りを思い切って吐き出してしまう。白状してしまうと、止まらなかった。ずっと誰かにこの気持ちを聞いてもらいたかったのだ。自分のことを好いてくれるニコラに、こんな告白をするのは卑怯だと分かっている。でも、ニコラなら許してくれるのではないかと甘える気持ちがあった。
5歳で引き取ってもらってから、ずっと好きで。でも血は繋がってないけど弟だし、同性だしでエーリクからは全くそういう目では見られていない。恋人でなくても兄弟としてずっと一緒にいられればいいと思っていたけれど、昨日、女性の友達に会った。綺麗な人で共通の音楽の特技を持っている人。
ニコラは無言で聞いてくれた。そしてアデルに質問する。
「そのミランダっていう人は友人なんでしょ」
「今はそうだと思うけど、ミランダはエーリクのこと好きになっているように見えたし、好かれたら、エーリクだってミランダを、好きになるような予感がする」
ニコラは少しためらってから言う。
「1人ぼっちだった時に迎えに来てくれたら好きになっちゃうよね。初恋、なんだね。告白してみたら?」
「え?」
アデルは驚いて、目を白黒させる。
「ダメだったら、俺の所に来ればいいじゃん」
ニコラは胸をとんと叩く。
「お兄さんを好きになったアデルごと、俺は引き受けるよ。別に無理にお兄さんを忘れろなんて言わないよ。お兄さんを好きなまんまで俺と所帯を持っていいよ」
「そんなこと……」
それじゃ、アデルに都合がよすぎる。
「俺は、それ位、アデルと結婚したいんだ。初恋の1つや2つ、どうでもいい。これからの人生をアデルと積み重ねたいから」
アデルの心臓はドキドキした。胸がいっぱいになる。
「ニコラさん、ありがと。僕、考えてみる」
アデルは家に帰った。
それから、アデルは進捗を何もニコラに言わなかった。淡々と仕事をこなしていてる姿を見ると、告白はしていないんだな、と思う。エーリクが定期試験中と言っていたので、終わるまでは告白はしないのだろうと思い、どうなったのかアデルに確認することはしなかった。
ここはゆとりのある大人をアピールしてアデルのポイントを稼ぎたい。気になりながらも、気にしない振りをして普段通りにアデルに接した。
その次の土曜にニコラはアデルが帰った後、エーリクを偵察にカフェに行った。ニコラの中ではお洒落っぽいジャケットを羽織っていく。
店に入ると、黒髪のイケメンの店員に声をかけられた。
「いらっしゃいませ。お1人ですか?」
「はい」
「どうぞ」
店員の後について店内に入っていく。窓際の席に案内された。メニューを見て、トーストセットを頼んだ。
「かしこまりました」
店員は奥に入っていく。
(この店員さんがアデルの言ってたお兄さんかな。アデルには、あまり似てないな。確かにアデルが言ってたようにカッコいいな)
料理を運んできたのは別の人だった。黒いちょび髭がお洒落な男性。この人は、30代だろうから、エーリクではないだろう。こんがり焼いたトーストにバターの塊がとろけている。付け合わせにゆで卵ときゅうりとトマトがついていた。セットのコーヒーがいい香りでコーヒー好きなニコラは嬉しかった。
「もしかして、しろくまベーカリーのオーナーさんですか?」
ちょび髭の男性がニコラに話しかける。
「そうですが……」
ニコラは咄嗟に身構える。ちょび髭の男性は慌てて謝る。
「すみません。私はこのカフェのオーナーのレオという者です。この辺では珍しい、クマ獣人の方でしたので、もしかしたら、あの有名なベーカリーのオーナーさんかと思いまして」
有名と褒められて、少し肩の力が抜けた。
そこに最初の店員もやってくる。
「初めまして、私はここの店員のエーリクといいます。私の弟がニコラさんには大変お世話になっております」
ぺこりとお辞儀してニコラと目を合わせる。確かに色男だ。女性は放っておかないだろう。
「あ、いえ、こちらこそ。冬の間は弟さんに助けていただいて感謝しております」
「いえいえ、給料を支払っていただいてのお仕事でしたから」
他の客に呼ばれてエーリクはお辞儀をして去っていった。レオもお辞儀をして去っていく。
ニコラはコーヒーを1口飲んだ。そしてトーストを食べ始める。可もなく不可もなく普通の味と思った。市民美術館のそばという立地といい、お洒落な内装といい、ここは美味しい料理というよりは芸術家が集うサロン的な意味合いが強いお店なのだろうと思った。そうとすると料理の味はこのレベルで問題ないのだろう。
ニコラが会計にたつと、レオがレジで対応した。
「是非、またいらしてください。もし、余力がございましたら、しろくまベーカリーのパンを当店に卸してください。名物メニューにしますので」
ニコラは曖昧な愛想笑いをして去った。
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