【完結】醜いといじめられた子は美しいオメガではなく平凡なベータになりたい

十海 碧

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エイタナ国

64 アデルの17歳の誕生日

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 雷の夜に一緒に一晩を過ごしてから、ニコラと少し仲良くなれたようでアデルは嬉しかった。
 アデルの12月の誕生日にはニコラが簡単なビスケットケーキを作ってくれた。言われたように生クリームを買ってくると、ニコラは手早くハンドミキサーで泡立てた。パントリーからビスケットを持ってきて、牛乳をくぐらせながら生クリームをはさんでいく。長い棒のようになったら、外側に残ったクリームをまんべんなく塗った。そしてラップして冷蔵庫にいれる。ニコラは大きなあくびをして、また夜に起こして、と言って寝てしまった。
 いつも通り家事をして、夕飯をとる時間にニコラを起こす。
「ニコラさん」
 ニコラは目を覚まし、起き上がった。アデルを軽く抱きしめ、頬にキスした。
「ハッピーバースデー」
 アデルは不意打ちにどきんとする。ニコラはアデルからすぐ離れ冷蔵庫に行きビスケットケーキをスライスした。アデルはドキドキしていたが、挨拶みたいなものだと思い直す。
 ニコラは切り口が綺麗に見えるように斜めにスライスしてお皿にのせた。ドライフルーツを綺麗に飾り付けてくれた。
「おいしい」
 早速、いただく。簡単な割に予想以上の美味しさだった。エーリクにも作ってあげようと思う。
「本当はケーキ焼いてあげたかったんだけど、この冬眠の時期はパン焼くだけでいっぱいいっぱいだから、勘弁して」
「そんな、僕のためにケーキ作ってお祝いしてくれて、それだけで嬉しいです」
 ニコラは食欲があまりないので1切れで終わったが、アデルはお代わりして食べた。アデルが3切れ食べて、お腹いっぱいになると、ニコラはまたベッドに戻った。

 その週末にエーリクの元に戻ると、エーリクは張り切って立派なケーキを用意してくれていた。
「ハッピーバースデー」
 鶏肉の丸焼きまで用意されていた。
「すごい、御馳走」
 アデルは目を丸くする。
「お腹すいた。食べようぜ」
 エーリクとおしゃべりしながら、大いに食べた。
「もう少しでアデルとお酒が飲めるようになるな」
 エーリクは家ではアデルに付き合ってお酒は飲まなかった。
「エーリクはお酒、飲めるの?」
「うん。今のカフェで夜はお酒出してるんだ。店長のレオがバーテンダーの資格持ってて、俺も色々教えてもらってるんだ。成人したら美味しいカクテル作ってあげるよ」
「カクテル? 飲んでみたい。楽しみ」
「お酒は20歳からだから、3年後の誕生日、だな」
 エーリクが3年後もアデルと一緒にいるつもりなのが、アデルには嬉しかった。

「住み込みのバイト、どう?」
 エーリクは週末、帰ってくると毎回心配する。
「ニコラさんの寝てる時間が長くなってきた。朝、パンを焼くのに起こすのが可哀想な感じ。それでも下準備とできたパンを売って後片付けを僕がやるから、かなり楽らしい」
「そうなんだ。クマ獣人も大変だな」
「クマ獣人だけの村に住んでいると、みんな冬眠するから問題ないみたい。人間とペースを合わせるのが大変らしいよ。あ、そう言えば、僕、ニコラさんの年齢、勘違いしてた」
「確か、40歳くらいとか言ってたよね」
「うん。髪が白いから、年取ってると勘違いしてて。エーリクと同い年だった」
「そうなんだ。それは間違いすぎだね」
「僕、オメガばっかり見てたから。オメガって若々しい人が多いんだよね。あと、エーリクだって若く見えるし」
「クマ獣人は人間より年上に見えるのかもね」

 親切なクマのおじ様と勝手に想像していたエーリクの心がもやっとする。
「明日、しろくまベーカリーに戻るときに、俺も一緒に行って挨拶してもいい?」
「うーん。ニコラさんは基本的に寝てるから、知らない人には会いたくないと思う。挨拶するなら、冬眠の時期が終わってからの方がいい」
 それもそうか、とエーリクは挨拶しに行くことをあきらめる。基本、寝てばかりいるなら、そう変な事も起きないだろう。
 変な事?
 自分で考えて、自分でつっこむ。 

 随分、レオ達に感化されて、同性愛を普通だと感じるようになってしまったと反省する。
 クマ獣人が人間との恋愛、同性同士の恋愛をありと思っているのかはわからない。
 アデルを見つめると、アデルは何の憂いもないけろりとした表情をしている。

 考えすぎ、だな。
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