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エイタナ国
60 冬支度
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エイタナ国は北国であり、短い夏は終わった。アデルのパン作りは少しだけ上達したが、まだ売っていいレベルではなかった。しかし、雑用に関しては色々な事ができるようになっており、ニコラは余力ができた。
「アデル、掃除、終わった? 今日はパンプキンパイを焼いておいたよ」
いつも仕事終わりにニコラが昼食を作ってくれて、それを食べてからアデルは帰宅していた。最初はトーストなど簡単なものだけだったが、最近は色々美味しい物を作ってくれるようになった。
今日のパンプキンパイはサクサクのパイ生地に中のかぼちゃがしっとりと甘く絶品だった。
「とても美味しいです。このパイも売ったら人気でますよ」
食パンだけではなく、色々なパンやお菓子も売ったらいいのにとアデルは思う。もう少し、自分が使い物になったら、種類を増やすことができるんだろう。
「自分達が食べる分だけ作るのと、売るのはまた別の話だからな」
ニコラは大口を開けてパイをぺろりぺろりと食べていく。秋になってニコラは太ってきた。そしてアデルも少し太ってきた。
「アデル、パイもう1切れ食べる?」
「僕、ちょっと太っちゃって。美味しいけど1切れにしようかな」
ニコラはアデルを見回す。
「アデルは細っこいだろ。まだ太ってもいいよ。そんなだと、冬乗り越えられないぞ」
「?」
きょとんとしたアデルを見て、ニコラは失言に気付く。
「そうだった。アデルは人間だもんな。勘違いした。俺達、クマ獣人は冬を越えるのに、体重を増やさなければいけないんだ」
「冬眠しちゃうんですか?」
「クマじゃないから冬眠まではしないけど、かなり活動性が落ちて、睡眠時間が長くなる。俺は身長180cmで体重80kgなんだけど、秋の内に10kgは増やさなければならない。春までに20kg落ちてしまうから」
「そんなに減っちゃうんですか?」
「冬の間は寝てばかりで食欲もなくなるんだ。クマ獣人の村ではみんなが冬の間は仕事をせずに家族で家にこもるんだ。俺も可能であれば働かずに家にこもっていたいけど、人間は冬眠しないから、そんなことしたら冬の間に顧客を失ってしまうんだ」
「確かに、長期間お休みすると、他のパン屋に行きつけになってしまうかもしれませんね」
「そこで、アデルに相談なんだが、12月から2月までの3か月間、俺の所に住み込みで働いてくれないだろうか。パン作りに加えてハウスキーパーの仕事も頼みたいんだ。住み込み中の食費や生活費はこちら持ちでアデルには3か月これだけ支払いたいのだが」
ニコラから金額を書いた紙を渡される。額はエーリクの給料3か月分と同額だった。
「俺はその3か月間、かなりのポンコツになる。アデルには、先に起きてパンの材料の計量までしてから、俺を起こして欲しい。こねてから、焼きあげるまでは、なんとか俺がやる。その後、売るのと、後片付けはお願いしたい」
立ち上がったニコラに招かれて初めてニコラの自室に足を踏み入れる。居間があり、隣にニコラの寝室、逆の隣にもベッドルームがあった。
「この客室を使ってくれ」
洗面所、トイレ、浴室と案内される。装飾品はあまりないシンプルな部屋であった。
「この辺の日常的な掃除もお願いしたい。食事なんだが……」
ニコラは台所に戻り、隣のドアを開ける。そこはパントリーになっていた。パントリーにはぎっしりと食料品が詰まっていた。下段には飲み物、色々な種類のジュース、スポーツドリンクが並んでいる。また、果物や肉、魚、豆の缶詰が並んでいた。中段には砂糖、塩、各種スパイスなどの調味料、キャンディ、チョコレートなどのお菓子、紅茶やコーヒーなどの嗜好品、レトルトやインスタント食品、乾麺が置いてあった。上段にはドライフルーツやナッツ類、ピクルスの瓶が並んでいた。
「ここの食材はどれも使っていい。ビタミン不足になるので週1回は野菜や果物を買いに行って欲しい。俺は、起きた時には目覚ましのためにブラックコーヒーを淹れて欲しいのと、パンを売り終わった後の食事を用意して欲しい。その1食で他は食べない。アデルは関係なく3食食べてくれ」
どうだろう? とニコラはアデルを伺う。
「日曜はどうなりますか?」
「申し訳ないけど、パン作りの指導は無理だと思う。日曜は1日中寝ていたい。アデルは土曜のパン売り終わったら、日曜の夜までお休みということで。自宅に戻ってもいいし、どこかに遊びに行ってもいい。出かける前に、土日の食事、2食分は用意してもらいたい」
仕事の内容は大したことない様だった。アデルは了承した。
「アデル、掃除、終わった? 今日はパンプキンパイを焼いておいたよ」
いつも仕事終わりにニコラが昼食を作ってくれて、それを食べてからアデルは帰宅していた。最初はトーストなど簡単なものだけだったが、最近は色々美味しい物を作ってくれるようになった。
今日のパンプキンパイはサクサクのパイ生地に中のかぼちゃがしっとりと甘く絶品だった。
「とても美味しいです。このパイも売ったら人気でますよ」
食パンだけではなく、色々なパンやお菓子も売ったらいいのにとアデルは思う。もう少し、自分が使い物になったら、種類を増やすことができるんだろう。
「自分達が食べる分だけ作るのと、売るのはまた別の話だからな」
ニコラは大口を開けてパイをぺろりぺろりと食べていく。秋になってニコラは太ってきた。そしてアデルも少し太ってきた。
「アデル、パイもう1切れ食べる?」
「僕、ちょっと太っちゃって。美味しいけど1切れにしようかな」
ニコラはアデルを見回す。
「アデルは細っこいだろ。まだ太ってもいいよ。そんなだと、冬乗り越えられないぞ」
「?」
きょとんとしたアデルを見て、ニコラは失言に気付く。
「そうだった。アデルは人間だもんな。勘違いした。俺達、クマ獣人は冬を越えるのに、体重を増やさなければいけないんだ」
「冬眠しちゃうんですか?」
「クマじゃないから冬眠まではしないけど、かなり活動性が落ちて、睡眠時間が長くなる。俺は身長180cmで体重80kgなんだけど、秋の内に10kgは増やさなければならない。春までに20kg落ちてしまうから」
「そんなに減っちゃうんですか?」
「冬の間は寝てばかりで食欲もなくなるんだ。クマ獣人の村ではみんなが冬の間は仕事をせずに家族で家にこもるんだ。俺も可能であれば働かずに家にこもっていたいけど、人間は冬眠しないから、そんなことしたら冬の間に顧客を失ってしまうんだ」
「確かに、長期間お休みすると、他のパン屋に行きつけになってしまうかもしれませんね」
「そこで、アデルに相談なんだが、12月から2月までの3か月間、俺の所に住み込みで働いてくれないだろうか。パン作りに加えてハウスキーパーの仕事も頼みたいんだ。住み込み中の食費や生活費はこちら持ちでアデルには3か月これだけ支払いたいのだが」
ニコラから金額を書いた紙を渡される。額はエーリクの給料3か月分と同額だった。
「俺はその3か月間、かなりのポンコツになる。アデルには、先に起きてパンの材料の計量までしてから、俺を起こして欲しい。こねてから、焼きあげるまでは、なんとか俺がやる。その後、売るのと、後片付けはお願いしたい」
立ち上がったニコラに招かれて初めてニコラの自室に足を踏み入れる。居間があり、隣にニコラの寝室、逆の隣にもベッドルームがあった。
「この客室を使ってくれ」
洗面所、トイレ、浴室と案内される。装飾品はあまりないシンプルな部屋であった。
「この辺の日常的な掃除もお願いしたい。食事なんだが……」
ニコラは台所に戻り、隣のドアを開ける。そこはパントリーになっていた。パントリーにはぎっしりと食料品が詰まっていた。下段には飲み物、色々な種類のジュース、スポーツドリンクが並んでいる。また、果物や肉、魚、豆の缶詰が並んでいた。中段には砂糖、塩、各種スパイスなどの調味料、キャンディ、チョコレートなどのお菓子、紅茶やコーヒーなどの嗜好品、レトルトやインスタント食品、乾麺が置いてあった。上段にはドライフルーツやナッツ類、ピクルスの瓶が並んでいた。
「ここの食材はどれも使っていい。ビタミン不足になるので週1回は野菜や果物を買いに行って欲しい。俺は、起きた時には目覚ましのためにブラックコーヒーを淹れて欲しいのと、パンを売り終わった後の食事を用意して欲しい。その1食で他は食べない。アデルは関係なく3食食べてくれ」
どうだろう? とニコラはアデルを伺う。
「日曜はどうなりますか?」
「申し訳ないけど、パン作りの指導は無理だと思う。日曜は1日中寝ていたい。アデルは土曜のパン売り終わったら、日曜の夜までお休みということで。自宅に戻ってもいいし、どこかに遊びに行ってもいい。出かける前に、土日の食事、2食分は用意してもらいたい」
仕事の内容は大したことない様だった。アデルは了承した。
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