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アデルの運命
38 マリア王妃との語らい
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乾杯のシャンパンが、学生には炭酸水にレモンとミントを浮かべた飲み物が配られる。マリア王妃が乾杯の挨拶をしてOG会が始まった。
ずらっと並べられたナイフとフォークを間違えないように外側から順にとって、音を立てないように注意深く食べた。緊張しすぎて味はわからなかった。
「お妃教育の個人レッスンは始まっているのかしら?」
マリアが話しかけてくる。
「……はい……」
食事の手をとめ、マリアに返事をする。食べながらの会話は今のアデルには無理だ。
「何先生?」
「アリサ先生です」
マリアは首を傾げて、アリサ……と呟く。
「お若い先生、かしら? 私の在学中にはいらっしゃらなかった先生、ですわね?」
「おそらく、年齢は20代と思います」
「そうよね。私が在学中の先生の名前は全員覚えているから。今度、校長に会ったら、よろしくお伝えしておくわね」
「ありがとうございます」
マリアはにっこりと微笑む。
「平民出身だと、覚えることも多くて大変だとは思うけど、しっかり頑張ってね」
マリアは良さそうな人だった。頭が決して良いとは言えないアデルは、お妃教育を受けても半分理解するのがやっとだった。失望されるのではないか、と恐怖を抱いた。
「僕、あまり優秀ではないので、ユリヤさんと比べると、王妃様にがっかりされるのではないかと恐ろしいです……」
思い切って言ってみる。破談になるのなら、むしろ願ったりだ。
「ユリヤはね、カリムのはとこになるのよ。血筋としては一番カリムに相応しいオメガと周囲に思われていて、オメガ判定が出た5歳からお妃教育開始しているの。アデルさんとはお妃教育を受けた年月が違いすぎるから、比べものにならないわ。今更、お妃にはなれませんではすまない年月なので、カリムと婚約しないとなった時にどうしたら良いか困ったけれど、結局いい輿入れ先が見つかって本当に良かったわ」
マリアはやれやれと言った風に溜め息をつく。
5歳から……。
ユリヤがアデルに嫌味を言うのは仕方ないのかもしれない。
「できる限り、頑張って。足りない所は私もカバーするから。カリムが王太子のうちは、あなた1人しか妻を持てないけど、王になったら他にも妻を持てるので、能力の高いベータ女性を見繕っておくから」
他にも妻?
アデルの顔が強張る。それに気づいたマリアがとりなす。
「アデルさんは平民だから、驚くかもしれないけど、王家では当たり前のことなのよ。私だって、サルート王には他に3人妃がいるのよ。私達、オメガはヒートがあるじゃない? 仕事ができない期間があるから、1人で王妃の仕事をこなすのは無理なのよ。でも、他の妃はベータ女性で選ぶから、子供はベータしか産まれないわ。だから、アデルさんの産む子が跡取りになるのよ。他の妃に嫉妬するのではなく、仲良く協力して王家を盛り立てるのが優れた王妃と言われるのよ」
お見合いの時に、サルート王の5番目と言われたことを思い出す。マリアにすら他に3人妃がいるのであれば、アデルにはもっと必要なくらいかもしれない。
しかし、アデルは何となく釈然としない気持ちだった。
アデルが言葉少なくなってしまったのでマリアは話を変えた。
「そういえば、1回目の面談の時に、カリムがアデルさんを抱きしめたんですってね。恐ろしかったでしょう? ごめんなさいね」
アデルは1回目の面談を思い出す。確かにハグされたのは驚いた。でも、校長がいたので、そこまで恐ろしくはなかった。
「大丈夫です。びっくりはしましたが」
「アルファって、大きいから恐ろしいわよね。世間ではオメガが性欲が強いと言うけど、私達からすると、アルファの方が断然、性欲が強いわよね。カリムにはしっかり注意しましたから、安心してね。王家の結婚式は大聖堂で行うのだけれど、神聖な場所だから、花嫁が純潔でないと、神が怒って国に災いを及ぼすと言われているの。アデルさんの純潔はみんなで守りますから」
「……ありがとうございます」
「サルート王には叱られてしまったわ。カリムの教育は私が任せられていたのに、性欲の対策もしていないのかって。早速、カリムに寝所係をつけたので、もうアデルさんに手を出すようなことはさせないわ」
「……寝所係?」
「そうよね、アデルさんもそう思うわよね。私も全く想像していなかったの。でも、アルファ的には当然のことで、アルファの性欲をアデルさんからそらすためには仕方ないみたいなの。しっかりしたプロの人ばかりだからアデルさんが心配することは何もないのよ」
アデルは呆然とした。聖マリアンナ学園では保健の授業でアルファとの営みについて、かなり細かく授業を受けている。だから、実戦経験はないが、みんな耳年魔になっている。おまけにヒート時は欲求を晴らすために、器具を使っての自慰方法も教わっている。だから、寝所係が何をするかは分かっていた。
アデルなりにカリムを愛そうと思っていたが、アデルが想像する夫婦生活とは異なっているようだった。王家だから仕方ないのかもしれない。頭では分かろうとするのだが、心はついていかなかった。
ずらっと並べられたナイフとフォークを間違えないように外側から順にとって、音を立てないように注意深く食べた。緊張しすぎて味はわからなかった。
「お妃教育の個人レッスンは始まっているのかしら?」
マリアが話しかけてくる。
「……はい……」
食事の手をとめ、マリアに返事をする。食べながらの会話は今のアデルには無理だ。
「何先生?」
「アリサ先生です」
マリアは首を傾げて、アリサ……と呟く。
「お若い先生、かしら? 私の在学中にはいらっしゃらなかった先生、ですわね?」
「おそらく、年齢は20代と思います」
「そうよね。私が在学中の先生の名前は全員覚えているから。今度、校長に会ったら、よろしくお伝えしておくわね」
「ありがとうございます」
マリアはにっこりと微笑む。
「平民出身だと、覚えることも多くて大変だとは思うけど、しっかり頑張ってね」
マリアは良さそうな人だった。頭が決して良いとは言えないアデルは、お妃教育を受けても半分理解するのがやっとだった。失望されるのではないか、と恐怖を抱いた。
「僕、あまり優秀ではないので、ユリヤさんと比べると、王妃様にがっかりされるのではないかと恐ろしいです……」
思い切って言ってみる。破談になるのなら、むしろ願ったりだ。
「ユリヤはね、カリムのはとこになるのよ。血筋としては一番カリムに相応しいオメガと周囲に思われていて、オメガ判定が出た5歳からお妃教育開始しているの。アデルさんとはお妃教育を受けた年月が違いすぎるから、比べものにならないわ。今更、お妃にはなれませんではすまない年月なので、カリムと婚約しないとなった時にどうしたら良いか困ったけれど、結局いい輿入れ先が見つかって本当に良かったわ」
マリアはやれやれと言った風に溜め息をつく。
5歳から……。
ユリヤがアデルに嫌味を言うのは仕方ないのかもしれない。
「できる限り、頑張って。足りない所は私もカバーするから。カリムが王太子のうちは、あなた1人しか妻を持てないけど、王になったら他にも妻を持てるので、能力の高いベータ女性を見繕っておくから」
他にも妻?
アデルの顔が強張る。それに気づいたマリアがとりなす。
「アデルさんは平民だから、驚くかもしれないけど、王家では当たり前のことなのよ。私だって、サルート王には他に3人妃がいるのよ。私達、オメガはヒートがあるじゃない? 仕事ができない期間があるから、1人で王妃の仕事をこなすのは無理なのよ。でも、他の妃はベータ女性で選ぶから、子供はベータしか産まれないわ。だから、アデルさんの産む子が跡取りになるのよ。他の妃に嫉妬するのではなく、仲良く協力して王家を盛り立てるのが優れた王妃と言われるのよ」
お見合いの時に、サルート王の5番目と言われたことを思い出す。マリアにすら他に3人妃がいるのであれば、アデルにはもっと必要なくらいかもしれない。
しかし、アデルは何となく釈然としない気持ちだった。
アデルが言葉少なくなってしまったのでマリアは話を変えた。
「そういえば、1回目の面談の時に、カリムがアデルさんを抱きしめたんですってね。恐ろしかったでしょう? ごめんなさいね」
アデルは1回目の面談を思い出す。確かにハグされたのは驚いた。でも、校長がいたので、そこまで恐ろしくはなかった。
「大丈夫です。びっくりはしましたが」
「アルファって、大きいから恐ろしいわよね。世間ではオメガが性欲が強いと言うけど、私達からすると、アルファの方が断然、性欲が強いわよね。カリムにはしっかり注意しましたから、安心してね。王家の結婚式は大聖堂で行うのだけれど、神聖な場所だから、花嫁が純潔でないと、神が怒って国に災いを及ぼすと言われているの。アデルさんの純潔はみんなで守りますから」
「……ありがとうございます」
「サルート王には叱られてしまったわ。カリムの教育は私が任せられていたのに、性欲の対策もしていないのかって。早速、カリムに寝所係をつけたので、もうアデルさんに手を出すようなことはさせないわ」
「……寝所係?」
「そうよね、アデルさんもそう思うわよね。私も全く想像していなかったの。でも、アルファ的には当然のことで、アルファの性欲をアデルさんからそらすためには仕方ないみたいなの。しっかりしたプロの人ばかりだからアデルさんが心配することは何もないのよ」
アデルは呆然とした。聖マリアンナ学園では保健の授業でアルファとの営みについて、かなり細かく授業を受けている。だから、実戦経験はないが、みんな耳年魔になっている。おまけにヒート時は欲求を晴らすために、器具を使っての自慰方法も教わっている。だから、寝所係が何をするかは分かっていた。
アデルなりにカリムを愛そうと思っていたが、アデルが想像する夫婦生活とは異なっているようだった。王家だから仕方ないのかもしれない。頭では分かろうとするのだが、心はついていかなかった。
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