上 下
38 / 79
アデルの運命

38 マリア王妃との語らい

しおりを挟む
 乾杯のシャンパンが、学生には炭酸水にレモンとミントを浮かべた飲み物が配られる。マリア王妃が乾杯の挨拶をしてOG会が始まった。
 ずらっと並べられたナイフとフォークを間違えないように外側から順にとって、音を立てないように注意深く食べた。緊張しすぎて味はわからなかった。
「お妃教育の個人レッスンは始まっているのかしら?」
 マリアが話しかけてくる。
「……はい……」
 食事の手をとめ、マリアに返事をする。食べながらの会話は今のアデルには無理だ。
「何先生?」
「アリサ先生です」
 マリアは首を傾げて、アリサ……と呟く。
「お若い先生、かしら? 私の在学中にはいらっしゃらなかった先生、ですわね?」
「おそらく、年齢は20代と思います」
「そうよね。私が在学中の先生の名前は全員覚えているから。今度、校長に会ったら、よろしくお伝えしておくわね」
「ありがとうございます」
 マリアはにっこりと微笑む。
「平民出身だと、覚えることも多くて大変だとは思うけど、しっかり頑張ってね」
 マリアは良さそうな人だった。頭が決して良いとは言えないアデルは、お妃教育を受けても半分理解するのがやっとだった。失望されるのではないか、と恐怖を抱いた。
「僕、あまり優秀ではないので、ユリヤさんと比べると、王妃様にがっかりされるのではないかと恐ろしいです……」
 思い切って言ってみる。破談になるのなら、むしろ願ったりだ。
「ユリヤはね、カリムのはとこになるのよ。血筋としては一番カリムに相応しいオメガと周囲に思われていて、オメガ判定が出た5歳からお妃教育開始しているの。アデルさんとはお妃教育を受けた年月が違いすぎるから、比べものにならないわ。今更、お妃にはなれませんではすまない年月なので、カリムと婚約しないとなった時にどうしたら良いか困ったけれど、結局いい輿入れ先が見つかって本当に良かったわ」
 マリアはやれやれと言った風に溜め息をつく。

 5歳から……。
 ユリヤがアデルに嫌味を言うのは仕方ないのかもしれない。

「できる限り、頑張って。足りない所は私もカバーするから。カリムが王太子のうちは、あなた1人しか妻を持てないけど、王になったら他にも妻を持てるので、能力の高いベータ女性を見繕っておくから」

 他にも妻?
 アデルの顔が強張る。それに気づいたマリアがとりなす。

「アデルさんは平民だから、驚くかもしれないけど、王家では当たり前のことなのよ。私だって、サルート王には他に3人妃がいるのよ。私達、オメガはヒートがあるじゃない? 仕事ができない期間があるから、1人で王妃の仕事をこなすのは無理なのよ。でも、他の妃はベータ女性で選ぶから、子供はベータしか産まれないわ。だから、アデルさんの産む子が跡取りになるのよ。他の妃に嫉妬するのではなく、仲良く協力して王家を盛り立てるのが優れた王妃と言われるのよ」

 お見合いの時に、サルート王の5番目と言われたことを思い出す。マリアにすら他に3人妃がいるのであれば、アデルにはもっと必要なくらいかもしれない。
 しかし、アデルは何となく釈然としない気持ちだった。

 アデルが言葉少なくなってしまったのでマリアは話を変えた。
「そういえば、1回目の面談の時に、カリムがアデルさんを抱きしめたんですってね。恐ろしかったでしょう? ごめんなさいね」
 アデルは1回目の面談を思い出す。確かにハグされたのは驚いた。でも、校長がいたので、そこまで恐ろしくはなかった。
「大丈夫です。びっくりはしましたが」
「アルファって、大きいから恐ろしいわよね。世間ではオメガが性欲が強いと言うけど、私達からすると、アルファの方が断然、性欲が強いわよね。カリムにはしっかり注意しましたから、安心してね。王家の結婚式は大聖堂で行うのだけれど、神聖な場所だから、花嫁が純潔でないと、神が怒って国に災いを及ぼすと言われているの。アデルさんの純潔はみんなで守りますから」
「……ありがとうございます」
「サルート王には叱られてしまったわ。カリムの教育は私が任せられていたのに、性欲の対策もしていないのかって。早速、カリムに寝所係をつけたので、もうアデルさんに手を出すようなことはさせないわ」
「……寝所係?」
「そうよね、アデルさんもそう思うわよね。私も全く想像していなかったの。でも、アルファ的には当然のことで、アルファの性欲をアデルさんからそらすためには仕方ないみたいなの。しっかりしたプロの人ばかりだからアデルさんが心配することは何もないのよ」
 アデルは呆然とした。聖マリアンナ学園では保健の授業でアルファとの営みについて、かなり細かく授業を受けている。だから、実戦経験はないが、みんな耳年魔になっている。おまけにヒート時は欲求を晴らすために、器具を使っての自慰方法も教わっている。だから、寝所係が何をするかは分かっていた。

 アデルなりにカリムを愛そうと思っていたが、アデルが想像する夫婦生活とは異なっているようだった。王家だから仕方ないのかもしれない。頭では分かろうとするのだが、心はついていかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧
BL
桐生蓮、オメガ男性は桜華学園というオメガのみの中高一貫に通っていたので恋愛経験ゼロ。好きなのは男性なのだけど、周囲のオメガ美少女には勝てないのはわかってる。高校卒業して、漫画家になり自立しようと頑張っている。蓮の父、桐生柊里、ベータ男性はイケメン恋愛小説家として活躍している。母はいないが、何か理由があるらしい。蓮が20歳になったら母のことを教えてくれる約束になっている。 ある日、沢渡優斗というアルファ男性に出会い、お互い運命の番ということに気付く。しかし、優斗は既に伊集院美月という恋人がいた。美月はIQ200の天才で美人なアルファ女性、大手出版社である伊集社の跡取り娘。かなわない恋なのかとあきらめたが……ハッピーエンドになります。 失恋した美月も運命の番に出会って幸せになります。 蓮の母は誰なのか、20歳の誕生日に柊里が説明します。柊里の過去の話をします。 初めての小説です。オメガバース、運命の番が好きで作品を書きました。業界話は取材せず空想で書いておりますので、現実とは異なることが多いと思います。空想の世界の話と許して下さい。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...