50 / 79
エイタナ国
50 アデルとエーリクの再会
しおりを挟む
放浪の旅を続けたエーリクが最後にたどりついたのはエイタナ国という国だった。エイタナ国は元々は北の寒い小国であった。近年、レアメタルの発掘に成功し、そこから半導体製作が国の産業となり、発展した新興国になった。
エイタナ国は移民を積極的に引き受けた。人口が増えると経済が活発化した。
エイタナ国王がアストラ国の王家の血筋をひいたオメガ女性と婚約した。元は貧しい国だったので、エイタナ国の文化のレベルは低かった。アストラ国から来たユリヤ王妃は、学校や図書館、美術館、博物館、劇場など文化的施設を充実させた。また義務教育を無償化とし、高等教育には能力に応じて奨学金を与えた。優秀な能力を持つもの、芸術家や音楽家の卵たちもエイタナ国に移住するようになった。
毎晩のように演奏会や、演劇が催され、終わった後は若者たちは夜通しカフェで芸術論議した。エーリクは若い芸術家たちが集うカフェで働きだした。
「エーリク、明日の休みなんだけど、夕方から出勤してもらえないかな? 特別手当出すから」
仕事を終え、帰ろうとしたら店長のレオに呼び止められた。
「いいですけど、どうしたんですか?」
「……それがさ、ケインの誕生日だったの忘れてて……。昨日めちゃめちゃ怒られて、俺、振られるかもしんないのよ。だから、少し早めにあがってディナー連れていきたいの」
「……わかりました」
店長のレオも恋人のケインもベータ男性である。エイタナ国は同性婚が可能な国なのだ。認められていない国が多いため、同性愛者の移住も多かった。
エーリクはカフェの近くのアパートに住んでいた。カフェで働き、休みの日は、演奏会や展覧会などに足を運んだ。二階席や立見席などは安価で買えるので経済的に困ることはなかった。母親のミストラルが音大を卒業しており、エーリクに音楽の初等教育は施してくれていた。少し貯金が貯まったら、音楽大学に進学したいという希望も持っていた。
郵便受けには手紙が入っていた。パティからだ。
階段をあがり、3階の部屋の鍵を開けた。部屋に入り手を洗って、椅子に座った。手紙の封を切る。
「は?」
中身を読んだエーリクは驚きの声をあげた。
エーリク様
お元気ですか? 先日、アデルがポロトコ村に帰ってきました。原因不明なのですが、ベータに突然変異してしまったため、聖マリアンナ学園を退学になってしまったのです。
聖マリアンナ学園としては今までかかった学費や生活費は免除するが、報奨金を返還して欲しいということでした。あなた様が手つかずで残していてくれたのでアデルは借金せずにすみました。
アデルはあなた様に会いたいと言って旅立ちました。こちらの住所をアデルに教えています。もし、変更ありましたら、大至急お知らせください。
ちなみにアデルの外見は昔に戻ってました。
それでは、また。 パティより
ピンポーン
手紙を読んでいたら、ドアの呼び鈴がなった。
え? まさか……。
半信半疑でドアを開ける。
「エーリク!!」
褐色のくしゃくしゃしたくせ毛、顔の半分の青黒い痣。
そこには昔の姿に戻ったアデルが喜色満面で立っていた。
「アデル!!」
エーリクは驚きすぎて固まってしまう。
一体、どういうこと?
アデルはにっと笑って部屋の中に入った。
「事情はおいおい説明するから、まず座らせてよ。列車の中、ずっと立ちっぱなしだったんだ」
エーリクはアデルを部屋の中に案内した。先ほど座っていた椅子をアデルに勧める。アデルは素直に座った。エーリクは冷蔵庫を開け、冷えた水を出す。アデルは喉が渇いていたようで、一気に飲んだ。
「あー、おいしい。生き返る。ありがとう、エーリク」
アデルは荷物を開き出す。まずは油紙で頑丈にくるんだリュートを渡す。
「これ、パティさんから。永住場所を決めたなら必要になるだろうから、持ってけって。お母さんの形見なんでしょ」
アデルから手渡された包みを慎重に解く。中から懐かしい相棒が出てくる。
「ありがとう」
声が駄目になって、辛くなって置き去りにしていたが、歌えない自分に折り合いがつくと、昔懐かしさが勝った。
「これ、パティお手製のクッキー。僕、夕食とってなくて、お腹ペコペコ。一緒に食べようよ」
アデルが缶を取り出し、開ける。中にはクッキーがぎっしり詰まっていた。プレーン、ココア生地とミックス、くるみが入ったものの3種類だった。
アデルがさくさく食べているのを見て、エーリクも摘まむ。懐かしい味だった。
エイタナ国は移民を積極的に引き受けた。人口が増えると経済が活発化した。
エイタナ国王がアストラ国の王家の血筋をひいたオメガ女性と婚約した。元は貧しい国だったので、エイタナ国の文化のレベルは低かった。アストラ国から来たユリヤ王妃は、学校や図書館、美術館、博物館、劇場など文化的施設を充実させた。また義務教育を無償化とし、高等教育には能力に応じて奨学金を与えた。優秀な能力を持つもの、芸術家や音楽家の卵たちもエイタナ国に移住するようになった。
毎晩のように演奏会や、演劇が催され、終わった後は若者たちは夜通しカフェで芸術論議した。エーリクは若い芸術家たちが集うカフェで働きだした。
「エーリク、明日の休みなんだけど、夕方から出勤してもらえないかな? 特別手当出すから」
仕事を終え、帰ろうとしたら店長のレオに呼び止められた。
「いいですけど、どうしたんですか?」
「……それがさ、ケインの誕生日だったの忘れてて……。昨日めちゃめちゃ怒られて、俺、振られるかもしんないのよ。だから、少し早めにあがってディナー連れていきたいの」
「……わかりました」
店長のレオも恋人のケインもベータ男性である。エイタナ国は同性婚が可能な国なのだ。認められていない国が多いため、同性愛者の移住も多かった。
エーリクはカフェの近くのアパートに住んでいた。カフェで働き、休みの日は、演奏会や展覧会などに足を運んだ。二階席や立見席などは安価で買えるので経済的に困ることはなかった。母親のミストラルが音大を卒業しており、エーリクに音楽の初等教育は施してくれていた。少し貯金が貯まったら、音楽大学に進学したいという希望も持っていた。
郵便受けには手紙が入っていた。パティからだ。
階段をあがり、3階の部屋の鍵を開けた。部屋に入り手を洗って、椅子に座った。手紙の封を切る。
「は?」
中身を読んだエーリクは驚きの声をあげた。
エーリク様
お元気ですか? 先日、アデルがポロトコ村に帰ってきました。原因不明なのですが、ベータに突然変異してしまったため、聖マリアンナ学園を退学になってしまったのです。
聖マリアンナ学園としては今までかかった学費や生活費は免除するが、報奨金を返還して欲しいということでした。あなた様が手つかずで残していてくれたのでアデルは借金せずにすみました。
アデルはあなた様に会いたいと言って旅立ちました。こちらの住所をアデルに教えています。もし、変更ありましたら、大至急お知らせください。
ちなみにアデルの外見は昔に戻ってました。
それでは、また。 パティより
ピンポーン
手紙を読んでいたら、ドアの呼び鈴がなった。
え? まさか……。
半信半疑でドアを開ける。
「エーリク!!」
褐色のくしゃくしゃしたくせ毛、顔の半分の青黒い痣。
そこには昔の姿に戻ったアデルが喜色満面で立っていた。
「アデル!!」
エーリクは驚きすぎて固まってしまう。
一体、どういうこと?
アデルはにっと笑って部屋の中に入った。
「事情はおいおい説明するから、まず座らせてよ。列車の中、ずっと立ちっぱなしだったんだ」
エーリクはアデルを部屋の中に案内した。先ほど座っていた椅子をアデルに勧める。アデルは素直に座った。エーリクは冷蔵庫を開け、冷えた水を出す。アデルは喉が渇いていたようで、一気に飲んだ。
「あー、おいしい。生き返る。ありがとう、エーリク」
アデルは荷物を開き出す。まずは油紙で頑丈にくるんだリュートを渡す。
「これ、パティさんから。永住場所を決めたなら必要になるだろうから、持ってけって。お母さんの形見なんでしょ」
アデルから手渡された包みを慎重に解く。中から懐かしい相棒が出てくる。
「ありがとう」
声が駄目になって、辛くなって置き去りにしていたが、歌えない自分に折り合いがつくと、昔懐かしさが勝った。
「これ、パティお手製のクッキー。僕、夕食とってなくて、お腹ペコペコ。一緒に食べようよ」
アデルが缶を取り出し、開ける。中にはクッキーがぎっしり詰まっていた。プレーン、ココア生地とミックス、くるみが入ったものの3種類だった。
アデルがさくさく食べているのを見て、エーリクも摘まむ。懐かしい味だった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話
十海 碧
BL
桐生蓮、オメガ男性は桜華学園というオメガのみの中高一貫に通っていたので恋愛経験ゼロ。好きなのは男性なのだけど、周囲のオメガ美少女には勝てないのはわかってる。高校卒業して、漫画家になり自立しようと頑張っている。蓮の父、桐生柊里、ベータ男性はイケメン恋愛小説家として活躍している。母はいないが、何か理由があるらしい。蓮が20歳になったら母のことを教えてくれる約束になっている。
ある日、沢渡優斗というアルファ男性に出会い、お互い運命の番ということに気付く。しかし、優斗は既に伊集院美月という恋人がいた。美月はIQ200の天才で美人なアルファ女性、大手出版社である伊集社の跡取り娘。かなわない恋なのかとあきらめたが……ハッピーエンドになります。
失恋した美月も運命の番に出会って幸せになります。
蓮の母は誰なのか、20歳の誕生日に柊里が説明します。柊里の過去の話をします。
初めての小説です。オメガバース、運命の番が好きで作品を書きました。業界話は取材せず空想で書いておりますので、現実とは異なることが多いと思います。空想の世界の話と許して下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる