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エイタナ国

50 アデルとエーリクの再会

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 放浪の旅を続けたエーリクが最後にたどりついたのはエイタナ国という国だった。エイタナ国は元々は北の寒い小国であった。近年、レアメタルの発掘に成功し、そこから半導体製作が国の産業となり、発展した新興国になった。
 エイタナ国は移民を積極的に引き受けた。人口が増えると経済が活発化した。

 エイタナ国王がアストラ国の王家の血筋をひいたオメガ女性と婚約した。元は貧しい国だったので、エイタナ国の文化のレベルは低かった。アストラ国から来たユリヤ王妃は、学校や図書館、美術館、博物館、劇場など文化的施設を充実させた。また義務教育を無償化とし、高等教育には能力に応じて奨学金を与えた。優秀な能力を持つもの、芸術家や音楽家の卵たちもエイタナ国に移住するようになった。

 毎晩のように演奏会や、演劇が催され、終わった後は若者たちは夜通しカフェで芸術論議した。エーリクは若い芸術家たちが集うカフェで働きだした。

「エーリク、明日の休みなんだけど、夕方から出勤してもらえないかな? 特別手当出すから」
 仕事を終え、帰ろうとしたら店長のレオに呼び止められた。
「いいですけど、どうしたんですか?」
「……それがさ、ケインの誕生日だったの忘れてて……。昨日めちゃめちゃ怒られて、俺、振られるかもしんないのよ。だから、少し早めにあがってディナー連れていきたいの」
「……わかりました」
 店長のレオも恋人のケインもベータ男性である。エイタナ国は同性婚が可能な国なのだ。認められていない国が多いため、同性愛者の移住も多かった。

 エーリクはカフェの近くのアパートに住んでいた。カフェで働き、休みの日は、演奏会や展覧会などに足を運んだ。二階席や立見席などは安価で買えるので経済的に困ることはなかった。母親のミストラルが音大を卒業しており、エーリクに音楽の初等教育は施してくれていた。少し貯金が貯まったら、音楽大学に進学したいという希望も持っていた。
 郵便受けには手紙が入っていた。パティからだ。
 階段をあがり、3階の部屋の鍵を開けた。部屋に入り手を洗って、椅子に座った。手紙の封を切る。

「は?」
 中身を読んだエーリクは驚きの声をあげた。

 エーリク様
 お元気ですか? 先日、アデルがポロトコ村に帰ってきました。原因不明なのですが、ベータに突然変異してしまったため、聖マリアンナ学園を退学になってしまったのです。
 聖マリアンナ学園としては今までかかった学費や生活費は免除するが、報奨金を返還して欲しいということでした。あなた様が手つかずで残していてくれたのでアデルは借金せずにすみました。
 アデルはあなた様に会いたいと言って旅立ちました。こちらの住所をアデルに教えています。もし、変更ありましたら、大至急お知らせください。
 ちなみにアデルの外見は昔に戻ってました。
 それでは、また。 パティより

 ピンポーン

 手紙を読んでいたら、ドアの呼び鈴がなった。

 え? まさか……。

 半信半疑でドアを開ける。

「エーリク!!」

 褐色のくしゃくしゃしたくせ毛、顔の半分の青黒い痣。
 そこには昔の姿に戻ったアデルが喜色満面で立っていた。

「アデル!!」

 エーリクは驚きすぎて固まってしまう。

 一体、どういうこと?

 アデルはにっと笑って部屋の中に入った。
「事情はおいおい説明するから、まず座らせてよ。列車の中、ずっと立ちっぱなしだったんだ」

 エーリクはアデルを部屋の中に案内した。先ほど座っていた椅子をアデルに勧める。アデルは素直に座った。エーリクは冷蔵庫を開け、冷えた水を出す。アデルは喉が渇いていたようで、一気に飲んだ。

「あー、おいしい。生き返る。ありがとう、エーリク」

 アデルは荷物を開き出す。まずは油紙で頑丈にくるんだリュートを渡す。
「これ、パティさんから。永住場所を決めたなら必要になるだろうから、持ってけって。お母さんの形見なんでしょ」
 アデルから手渡された包みを慎重に解く。中から懐かしい相棒が出てくる。

「ありがとう」
 声が駄目になって、辛くなって置き去りにしていたが、歌えない自分に折り合いがつくと、昔懐かしさが勝った。

「これ、パティお手製のクッキー。僕、夕食とってなくて、お腹ペコペコ。一緒に食べようよ」
 アデルが缶を取り出し、開ける。中にはクッキーがぎっしり詰まっていた。プレーン、ココア生地とミックス、くるみが入ったものの3種類だった。
 アデルがさくさく食べているのを見て、エーリクも摘まむ。懐かしい味だった。
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