【完結】醜いといじめられた子は美しいオメガではなく平凡なベータになりたい

十海 碧

文字の大きさ
上 下
42 / 79
アデルの運命

42 オメガ性の封印

しおりを挟む
 今日は12回目のカリムとの面会日だった。月1回なので婚約が決まってから1年たったことになる。今回の手土産は青い大きなサファイアのついたネックレスだった。

「私の瞳と同じ色なんだ。アデルにつけてもらいたくて」
「こんな大きな宝石! まだ、学生の自分には高価すぎます」
 箱を開けると大きな宝石がついたネックレスだった。宝石の価値が良く分からないアデルが見ても高級品だった。
「出会いから1年の記念に。できたら初夜の床で素肌にそれだけ身に着けてもらいたいと思って」
 初夜の床。
 その言葉にアデルの顔は赤らむ。赤らんだアデルの頬を見るカリムには好色そうな笑みが漏れた。その一瞬漏れた好色そうな笑みにアデルの背中は泡だった。
 生理的不快感でカリムと一緒にいるのが嫌になってしまったが、そうは言えず、引きつるような笑みを浮かべ、いつも通り、カリムの話を聞いた。

 2回目以降の面談でカリムがアデルにハグしたりすることはなくなった。紳士的に振舞ってくれる。マリアから話を聞いてたので、プロの寝所係のおかげなんだろうと分かっていた。カリムが性的欲求を持つのは当然のことで、自分もヒートの時は自分の手や専用の道具で性的欲求をはらしている。
 今は寝所係相手に性的欲求をはらしているのだろうし、アデルと結婚した後はアデルで性的欲求をはらすのは当たり前のことだ。
 自分の心の中で言い聞かせるのだが、心は浮き立たぬまま、1時間の面会は終わる。カリムを見送って、アデルは部屋に戻った。
 いただいたネックレスは金庫にしまい鍵をかけた。見たくないからではない、高価なものだから失くさないようにと自分の心に言い訳をする。何もする気になれなくて、母の日記を取り出し、ベッドに横になる。

 自分の心を痛め付けたいような気持になって、ユーラシア国が滅んでからの日記を読むことにした。そこまでは丁寧に書かれていた母の字が、殴り書きのような字体に変化しているのが恐ろしくて、今まで読めなかったのだ。

 △月○日
 最愛のアデルヘ
 信じて。お母さんはあなたのこと大好きよ。愛している。もし、お母さんに会えなくなったとしても、どこにいてもお母さんはあなたのことを一番に考えて愛し続けるわ。忘れないで。お母さんの事を。
 あなたのお父さんはユーラシア国の王様だったの。国で一番偉い人よ。あなたはそれを誇りに思ってね。お母さんもお父さんのことが大好き。お父さんとお母さんはね、運命の番なの。愛し合ってできたのがあなたよ。あなたは産まれる前からたくさんの愛情に囲まれているの。
 お母さんは政治が難しくて良く分からないんだけど、サーシャは賢いから良く分かってるの。あなたもサーシャから教えてもらうといいわ。サーシャはオオカミ獣人の女性なの。白銀色の美しくて滑らかなたてがみや尻尾を持っているわ。強くて美しいの。
 今、オオカミ獣人の村のそばにある森の洞窟の中にいるの。賢いサーシャが何かあった時に避難できるように準備してくれていたの。周りに気付かれないように灯りはつけられないけど、下には毛皮が敷き詰められていて、居心地がいいのよ。私は寝てばかりだけど、サーシャは時々、洞窟の外に出て、木の実をとって、もってきてくれるの。今日は桑の実という黒紫の実だったわ。甘くておいしいんだけど、唇や舌が紫色になってしまって面白かったわ。

 △月□日
 最愛のアデルへ
 革命が起きて、ユーラシア国は亡くなってしまったそうなの。だから、私は、この洞窟であなたを産むことになるみたい。でも、私は心配してないの。私達シルフ族はみんな安産と決まってるらしいの。おばあ様がいつも自慢していたわ。おばあ様、元気かしら。きっと私が行方知らずになったから心配しているわね。私が無事だと連絡出来たらいいのだけど。
 何よりサーシャが付いてくれてるのが一番心強いわ。みんな、獣人を差別するのは、獣人の能力が高いからだと私は思うわ。オオカミ獣人は出産は家でするのが普通らしくて、サーシャは出産に何度も立ち会ったことがあるらしいわ。
 あの人、あなたのお父さんはまだ生きてる。
 私たちは運命の番だから、離れていても、心は通じている。
 あの人の心は、深い悲しみに包まれている。
 サーシャはおそらく、公開処刑されるだろうと言っていた。私は分身の術を使ってあの人の元にいこうか悩んでいる。でも、あなたを産むのに体力を残しておかなければならない。あの人に会いたいけど、あなたにも会いたい。
 サーシャは何も言わない。最後に会いに行け、とも出産に備えて会いに行くな、とも。

 △月△日
 痛みが定期的に着はじめた。もうすぐあなたに会える。

 △月☆日
 男の子が産まれた。予定通りアデルと名付けました。

 △月◎日
 アデル、あなたに大切な事をお知らせします。
 お母さんはあなたのオメガ性を封印します。
 あなたは、私と同じ銀色の髪と紫の瞳を持った美しい赤ちゃん。シルフの一族のオメガ特有の外見だから、あなたは間違いなくオメガね。 
 でも、あなたはザカーリ王の息子。反乱軍に追われる身。この外見では目立ってしまう。
 平和なときは美しいと称賛される外見だけど、有事には悪目立ちしてしまう。

 シルフの一族に代々伝わる秘儀、オメガ性の封印をあなたに行うわ。
 シルフの一族は分身の術を使えるのだけれど、その魔力を犠牲にして一生に1回だけ、オメガ性を封印できるの。その秘儀を使うと、魔力はなくなり、もちろん分身の術も使えなくなるそうよ。
 やり方は分身の術を使う時は内から外に向けて指先に力を入れるのだけれど、同じようにうなじにある、オメガの性腺に向けて力を入れるの。封印が上手くいったら、外見が変わるのでわかるらしいわ。普通のベータになるらしい。
 封印は長くて10年くらい。内なるオメガ性が回復すると自然に解けると言われているわ。
 あなたは赤ちゃんだから、成長に伴ってオメガ性が回復すると、またオメガに戻れるはずよ。

 あなたに注意しなければいけないのは、2回目の封印のこと。
 あなたも一生に1回、オメガ性を封印することができる。もし、自分のオメガ性を再び封印することがあったら、それはあなた自身が2回オメガ性を封印されることになる。2回目をされた場合、オメガ性は破壊され、もう二度とオメガには戻れないのよ。

 そこで日記は終了していた。
 オメガ性の封印。
 自分が小さい頃、みにくかったのはオメガ性を封印されていたためだったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...