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ポロトコ村

12 エーリクの気持ち

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 仕事を終えて、エーリクは帰宅の途に着いた。深夜の1時。今までの酒場の騒々しさとは打って変わって周囲は静まり返っていた。
 あかつき荘に着き、中の人たちを起こさないように、静かに鍵を開けて中に入る。階段を静かに上がり、2階の自分の部屋に入った。

 しんと静まり返った暗闇の中、規則正しい寝息が聞こえる。
 すー、すー。
 エーリクはアデルの枕元に近づいた。アデルは規則正しい寝息を立ててぐっすり眠っていた。

 ふふっ、とエーリクの顔に笑みがこぼれる。アデルのいる場所は、仄かに明るい。かつらを取り、ドレスを脱ぎ捨てた。洗面所で顔と手を洗う。下着姿のままで、アデルのベッドに戻った。眠っているアデルを眺める。子供は熱を発しながら寝る。アデルに手をかざすと温かい。命の温かさだ。

 母親が死んでからは、いつも、1人だった。
 暗闇の中にいると、自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなる。いてもいなくてもどちらでもいい存在なのだと思い知らされる。

 オオカミ獣人の村にアデルを探しにいったのも、アデルがきっと自分と同じ一人ぼっちだと思ったからだ。広場で歌った後、若者たちと食堂で食事をして情報を集めた。
 閉鎖的なオオカミ獣人の村で、サーシャがアデルを苦労して育てている事がわかった。アデルの外見がアデルの親に似ていないのが不思議だったが、サーシャが一生懸命育ててるからには、ユーラシア国の元王子で間違いないだろうと確信していた。

 サーシャが下働きしている旅館の食堂にも行ってみた。トイレに行くふりをして、サーシャを訪れる。

「サーシャ」
 小声で呼びかけてみる。
「エーリク様」
 サーシャはきょろきょろと周りを見回し、誰もいないことを確認する。
「私がお育てしているのは、リリアナ様のお子、アデル様です。でも、私達は、まだ接触しない方がいいと思います」
 サーシャはそう言って、俺に軽く頭を下げて去っていった。

 慎重なサーシャを見て、直接アデルに接触することはやめた。月1回のオオカミ獣人の村を訪問し、歌い終わったら、若者たちと食事をして情報を集め続けた。
 ある日、サーシャが病に倒れたことを聞いた。オオカミ獣人の生命力に回復を期待したが、残念ながら改善の見込みはないようだった。アデルの母親から何かあった時にアデルをお願いされたのを思い出す。

 アデルを迎えに行こう。

 初対面なのに、アデルは自分の事を分かっているみたいだった。小さい手できゅっと自分の手をつかんできた。その手のぬくもりが嬉しかった。アデルにとって自分は必要な存在になれたのだ。

 すーすー寝ているアデルの髪の毛を優しく撫でてみる。アデルはくすぐったそうに、気持ちよさそうな顔をして、それでも起きずにぐっすり眠っている。
 エーリクは誘惑に勝てず、アデルの横に布団をめくって入り込んだ。アデルをそっと抱っこする。アデルは小さくて熱くてどきどきしていた。生命の塊だ。アデルの頭に顔を寄せると甘いミルクの匂いがする。いつも仕事終わりはなかなか寝付けないのに、アデルの睡眠に引っ張られて眠たくなってきた。
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