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オオカミ獣人の村

6 旅立ち

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『エーリクを頼りなさい』
 遺言とも思えるサーシャの言葉を思い出す。半信半疑だったが、本当の事だったんだ。
 アデルにとっては夢のようだった。オオカミ獣人の村ではあいの子ということで皆にいじめられていたので人間の国に行けるのは魅力的だった。それに王子様のようなエーリクに手を差し伸べられて、自分は姫にでもなったような気持ちだった。

 アデルは小さな手を伸ばしエーリクの手に触れた。
 エーリクはアデルの腕をつかみ、引っ張ってひょいと抱っこする。
 アデルは真っ赤になった。

「僕はエーリク。よろしくね」
 エーリクはアデルに微笑みかける。
「……ぼくは、アデルです。よろしくお願いします」
 アデルも真っ赤になりながら、挨拶した。アデルがエーリクに懐いているのを見て、おばあちゃんはほっとした。

「アデルが望むなら……」
 おばあちゃんは、戸惑いながら言う。
 エーリクはにっこり微笑みながらアデルに聞く。
「アデル君は、僕と一緒に人間の国に行くのでいいですか?」

 アデルは嬉しくて、真っ赤になる。こくこくと頷く。
「エーリクさんと、一緒に行きたいです」

 話はまとまった。明日のサーシャのお葬式が終わったら、アデルはエーリクとオオカミ獣人の村を去ることになった。

 翌朝、数人のオオカミ獣人がやってきて、サーシャが入った棺を運んだ。アデルはおばあちゃんに連れられて、棺の後をついていった。
 村の共同墓地に到着して、サーシャは埋葬された。
 もう二度とサーシャに会うことができないと思い、アデルはぐずぐず涙を零し続けた。

 埋葬が終わると、おばあちゃんはオオカミ獣人たちにお礼を言い、代金を支払った。オオカミ獣人たちは代金を受け取り、去っていった。
 誰もいなくなると、おばあちゃんはサーシャの墓に向かって語りかけた。

「サーシャ、アデルはこの村から旅立つことになったわ。アデル、サーシャにお別れを言いなさい」

 アデルもサーシャのお墓に向かう。
「お母さん、行ってきます」
 そして、心の中で話しかける。
(お母さんの言った通り、エーリクさんが迎えに来てくれました)

 おばあちゃんはアデルの頭を撫でる。
「大丈夫? もし、ここに残りたかったら、おばあちゃんがエーリクに断ってあげるわよ」
 アデルはおばあちゃんを見つめ、にっこりと笑う。
「僕、エーリクさんと人間の国に行ってみたい」
 おばあちゃんは黙り込む。この村に残っても、アデルの将来は暗い。こんな小さいのに追い出すようなことになって、自分のふがいなさが腹立たしかった。
 おばあちゃんの葛藤に気付いて、アデルはおばあちゃんに抱きつく。
「おばあちゃん、今までありがとう」

 アデルの思いやりに、おばあちゃんの躊躇いも払拭され、アデルの手を引いて歩き出した。
 村の入り口に着く。そこにはエーリクが待っていた。

「アデルをよろしくお願いします」
 おばあちゃんがエーリクに深々と頭を下げた。
「分かりました」
 エーリクはアデルに手を伸ばす。
 アデルはエーリクの手をとり、おばあちゃんにお辞儀した。
「おばあちゃん、今までお世話になりました。さようなら」
「元気で。体に気を付けてね」
 おばあちゃんは手を振って、2人を見送った。
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