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アストラシティ
22 分身の術をマスターしたのでエーリクの所に帰ります
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学校から帰り、予習復習をして、また母の日記を手に取った。
△月□日
噂には聞いていたけれど、アルファの執着は強い。ザカーリ様は特に強いように思う。9番目の王子であるエーリク様と遊んだ話をしたら、目を三角にして怒った。エーリク様を追放しそうになったので、慌てて止めた。まだ9歳だし、私は義理の母的ポジションでしょ。継子に優しいということでポイント稼いだつもりなのに、逆に怒られるとは。追放されたらエーリク様が可哀想なので、もう二度と会わないと約束した。
そこで、私の異能を使うことにした。私は分身を出せるのだ。オメガは性犯罪に巻き込まれやすいので家に引きこもりがちである。そうすると情報収集ができない。それを補うのに、私の一族は分身を出せるのだ。分身からはフェロモンが出ないし、移動速度も速いので、あちこち行ける。分身の術を使った後は、疲れてしまうので休息が必要だが。
早速、分身がエーリク様に会いに行く。本体はもう会えないことを説明する。なんと、エーリク様は9番目の王妃の先の夫の子供でザカーリ様とは血が繋がってないということがわかった。
エーリク様はリュートを引いて歌ってくれた。綺麗な音色。私たちは兄弟のように仲良くなった。
そうか、これは分身の術なんだ。
子供の頃は小さい妖精と思っていたが、今の自分と同じ顔だ。マギーが転落した時も自分の分身を出して助けることができたのだ。
もう一度、両手に力をこめてみる。
少し透き通ったような自分がもう1人現れた。目を合わせて見つめ合うと、分身の方に自分の意識が入り込む。本体はベッドに倒れて眠っているようになった。
軽く地面を蹴ってみると、ぽーんと体が浮いた。窓を開ける。3階だけど、怖くはない。ぽーんと下に飛び降りてみる。すとんと苦もなく着地する。地面に完全に足はつかず、少し浮いているようだ。歩いてみると一足で距離が進む。
エーリク……
アデルは会いたい人の名前を呟く。足が勝手に動き出し、加速する。風を切って走る。愉快な気持ちになる。今まで、ひっそりと息を潜めて生きてきたが、解放された清々しい気持ちだ。
あかつき荘に到着する。2階の窓を目掛けてぽーんと飛び跳ねる。エーリクがベッドに寝そべっているのが見えた。
コンコン
窓をノックする。起き上がったエーリクの目が驚きで見開く。エーリクは窓に駆け寄り、窓を開けてくれた。
「エーリク!」
「アデル!」
アデルはエーリクに抱きついた。エーリクも抱きとめてくれる。
「お前、分身か?」
エーリクがアデルの顔を見直して、問いかける。
「そう」
アデルはへへっと笑う。エーリクはアデルを長椅子に運んで降ろした。
「急にどうした?」
「お母さんの日記を読んでいたら、分身の術を使えるって書いてたので、試してみたの」
アデルは嬉しくてエーリクにべったりとくっついたまま座った。
「お前のお母さんも分身の術使って、俺の所に遊びに来てくれたけど、その時は同じ王宮内だったからな。アストラシティからだと遠いんじゃないか?」
「ぐいーんって、すごく速く走ったり飛んだりできるの」
「すごいな」
アデルは嬉しくてにこにこしてエーリクの顔を見つめる。
「エーリクは、手紙の返事もくれないんだもの。どうしてるのか心配だったよ」
「……マギーが返事書いてたろ」
「そうだけど、エーリクからが欲しかったんだよ」
エーリクが困ったような顔をしてアデルを見つめる。
「お前が男からの手紙を持ってると、結婚相手になるアルファが面白くないだろ」
アデルがぷっと吹き出す。
「僕は男性オメガだから人気ないってユリヤが言ってたよ。だから、結婚相手は見つからないよ。きっと」
「ユリヤって?」
「太政大臣の娘。王太子様のお相手らしいよ」
「……貴族のオメガか……」
「平民でも女の子は貰い手あるんじゃない? 男性アルファは女性オメガが好きで、女性アルファは男性アルファが好きなんだって。だから男性オメガは可哀想らしいよ」
エーリクは首をひねる。
「男性オメガはそうかもしれないけど、アデルは違うんじゃない?」
「どうして?」
「アデルは綺麗だから」
アデルはぽーっと顔が赤くなる。
「エーリクは僕のこと、綺麗だと思うの?」
「……まあ、客観的に言えばそうだな」
「……嬉しい」
アデルは嬉しくてどきどきした。アルファに好かれなくても、エーリクに好かれれば、それでいい。
アデルはエーリクに聞かれるまま、学園の事を色々話した。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。アデルはだんだん元の体に帰りたくてたまらなくなった。最初は我慢していたが、切なくなってきた。
「僕、もう帰らなければいけないみたい」
「お前のお母さんもそんな感じで帰っていったよ、分身の術は時間制限があるんだろうな」
「僕、また来てもいい?」
「分身の術は疲労するみたいだからな。そんなに頻繁はだめだぞ」
相談してエーリクが休みの奇数日で土曜日のみ会うことにした。アデルが疲れても日曜に体を休めることができて、学業に差し支えないように。
アデルは飛ぶように帰った。本体にたどりついた時は、もうへとへとだった。本体に入り込み、泥のように眠った。
△月□日
噂には聞いていたけれど、アルファの執着は強い。ザカーリ様は特に強いように思う。9番目の王子であるエーリク様と遊んだ話をしたら、目を三角にして怒った。エーリク様を追放しそうになったので、慌てて止めた。まだ9歳だし、私は義理の母的ポジションでしょ。継子に優しいということでポイント稼いだつもりなのに、逆に怒られるとは。追放されたらエーリク様が可哀想なので、もう二度と会わないと約束した。
そこで、私の異能を使うことにした。私は分身を出せるのだ。オメガは性犯罪に巻き込まれやすいので家に引きこもりがちである。そうすると情報収集ができない。それを補うのに、私の一族は分身を出せるのだ。分身からはフェロモンが出ないし、移動速度も速いので、あちこち行ける。分身の術を使った後は、疲れてしまうので休息が必要だが。
早速、分身がエーリク様に会いに行く。本体はもう会えないことを説明する。なんと、エーリク様は9番目の王妃の先の夫の子供でザカーリ様とは血が繋がってないということがわかった。
エーリク様はリュートを引いて歌ってくれた。綺麗な音色。私たちは兄弟のように仲良くなった。
そうか、これは分身の術なんだ。
子供の頃は小さい妖精と思っていたが、今の自分と同じ顔だ。マギーが転落した時も自分の分身を出して助けることができたのだ。
もう一度、両手に力をこめてみる。
少し透き通ったような自分がもう1人現れた。目を合わせて見つめ合うと、分身の方に自分の意識が入り込む。本体はベッドに倒れて眠っているようになった。
軽く地面を蹴ってみると、ぽーんと体が浮いた。窓を開ける。3階だけど、怖くはない。ぽーんと下に飛び降りてみる。すとんと苦もなく着地する。地面に完全に足はつかず、少し浮いているようだ。歩いてみると一足で距離が進む。
エーリク……
アデルは会いたい人の名前を呟く。足が勝手に動き出し、加速する。風を切って走る。愉快な気持ちになる。今まで、ひっそりと息を潜めて生きてきたが、解放された清々しい気持ちだ。
あかつき荘に到着する。2階の窓を目掛けてぽーんと飛び跳ねる。エーリクがベッドに寝そべっているのが見えた。
コンコン
窓をノックする。起き上がったエーリクの目が驚きで見開く。エーリクは窓に駆け寄り、窓を開けてくれた。
「エーリク!」
「アデル!」
アデルはエーリクに抱きついた。エーリクも抱きとめてくれる。
「お前、分身か?」
エーリクがアデルの顔を見直して、問いかける。
「そう」
アデルはへへっと笑う。エーリクはアデルを長椅子に運んで降ろした。
「急にどうした?」
「お母さんの日記を読んでいたら、分身の術を使えるって書いてたので、試してみたの」
アデルは嬉しくてエーリクにべったりとくっついたまま座った。
「お前のお母さんも分身の術使って、俺の所に遊びに来てくれたけど、その時は同じ王宮内だったからな。アストラシティからだと遠いんじゃないか?」
「ぐいーんって、すごく速く走ったり飛んだりできるの」
「すごいな」
アデルは嬉しくてにこにこしてエーリクの顔を見つめる。
「エーリクは、手紙の返事もくれないんだもの。どうしてるのか心配だったよ」
「……マギーが返事書いてたろ」
「そうだけど、エーリクからが欲しかったんだよ」
エーリクが困ったような顔をしてアデルを見つめる。
「お前が男からの手紙を持ってると、結婚相手になるアルファが面白くないだろ」
アデルがぷっと吹き出す。
「僕は男性オメガだから人気ないってユリヤが言ってたよ。だから、結婚相手は見つからないよ。きっと」
「ユリヤって?」
「太政大臣の娘。王太子様のお相手らしいよ」
「……貴族のオメガか……」
「平民でも女の子は貰い手あるんじゃない? 男性アルファは女性オメガが好きで、女性アルファは男性アルファが好きなんだって。だから男性オメガは可哀想らしいよ」
エーリクは首をひねる。
「男性オメガはそうかもしれないけど、アデルは違うんじゃない?」
「どうして?」
「アデルは綺麗だから」
アデルはぽーっと顔が赤くなる。
「エーリクは僕のこと、綺麗だと思うの?」
「……まあ、客観的に言えばそうだな」
「……嬉しい」
アデルは嬉しくてどきどきした。アルファに好かれなくても、エーリクに好かれれば、それでいい。
アデルはエーリクに聞かれるまま、学園の事を色々話した。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。アデルはだんだん元の体に帰りたくてたまらなくなった。最初は我慢していたが、切なくなってきた。
「僕、もう帰らなければいけないみたい」
「お前のお母さんもそんな感じで帰っていったよ、分身の術は時間制限があるんだろうな」
「僕、また来てもいい?」
「分身の術は疲労するみたいだからな。そんなに頻繁はだめだぞ」
相談してエーリクが休みの奇数日で土曜日のみ会うことにした。アデルが疲れても日曜に体を休めることができて、学業に差し支えないように。
アデルは飛ぶように帰った。本体にたどりついた時は、もうへとへとだった。本体に入り込み、泥のように眠った。
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