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アストラシティ
21 母の手帳
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アデルは友人がいなかったので、放課後の自由参加のクラブに加入しなかった。学校の授業が終わると、まっすぐ自室に戻った。学校の授業の予習復習をして、最初の頃はエーリクやマギーに手紙を書いた。マギーは返事をくれるのだが、エーリクから返事はこなかった。だんだん書くことがなくなってきて、手紙のペースも落ちてきた。することもなくなり、今まで避けていた母の手帳を読んでみることにした。
〇月△日
今日は16歳の誕生日、お祝いの食事の後、おばあ様に呼ばれた。王様のお嫁さんになる話だった。おばあ様にとっては、大変、名誉なことらしい。王様は36歳になるアルファだそうだ。お嫁さんといっても10番目らしい。普通は一夫一妻だが、王様のみ多妻が認められているので、お妾ではなく、正式な妻だから恥じる事はないとおばあ様が言っていた。
私達はシルフの一族なのだから。おばあ様は口癖のように言う。昔、シルフ一族という優秀なオメガの一族があり、私達はその末裔なのだそうだ。オメガが迫害されるようになり、もう何百年も前に廃れてしまった一族だが、その昔は貴族や王家に望まれて嫁ぐような名門だったそうだ。今回、私が王様と結婚すると、その過去の栄光が戻ると、おばあ様は喜んでいた。
今住んでいる村はオメガばかりいる保護区だ。昔より待遇が改善されたらしいが、ヒートのためにきちんと働けないオメガは貧乏で、国の保護区に住むことになる。結婚可能な16歳になると国が選別したアルファと婚約が決まっていく。保護区のオメガに拒否権はない。しかし、昔は、ヒートが始まるとレイプされ、性風俗で働かされることが多かったそうで、普通に結婚させてもらう現在は恵まれているのだろう。
お母様は早くに病死したので、おばあ様と私はオメガ保護区に住んでいた。私はこの村一番の美人なので、きっと良縁が来ると思っていたが、まさか王様とは思わなかった。この村から外に出たことがないので王宮に行くのは楽しみだ。
〇月□日
立派な馬車に乗せてもらった。外の景色が珍しくて、とても楽しかった。銀白色のたてがみを持った獣人の女性が縄で縛られて連れられていた。獣人を見るのは初めてだったので、目を離せなかった。獣人の女性と私の目が合った。
(助けて)
彼女の心の声が聞こえたような気がした。
お付の人に無理を言って、奴隷商人から獣人を買ってもらった。とても高かったので王様に怒られると脅されたが、私は頑張った。買ってくれないとお嫁さんにならないとごねたのだ。獣人の名前はサーシャといった。私はサーシャの手を握り、自分のそばから離さなかった。お付の人もサーシャが女性だったということもあり、あきらめて私の好きにさせてくれた。
〇月×日
この1週間は私の人生で最高に素晴らしい日だった。こんな奇跡があるとは思えない。ユーラシア国王ザカーリ様は私の運命の番だったのだ。出会った瞬間、私達は恋に落ちた。私はザカーリ様しか見えなくなって、何故かヒートにまでなってしまった。私はザカーリ様に抱きかかえられ2人だけになれる部屋に連れられた。そこでザカーリ様に愛された。私達は番になった。幸せなヒート期間が終了し、ザカーリ様は名残惜しそうに仕事するために部屋を出て行った。サーシャが代わりに入ってきた。サーシャは私の侍女になったらしい。私は心許せる侍女ができて嬉しかった。サーシャは私の入浴介助をし、食事をとらせてくれた。私は、その間、ザカーリ様が素敵だったという話をずっとサーシャに聞いてもらった。
△月□日
信じられない。ザカーリ様は私を10番目の王妃にするという。私はオメガだから、お嫁さんにはなれるけど、王妃にはなれないはずだったが、ザカーリ様が私のために法律を変えたらしい。私には赤ちゃんができていたので、この子が王子だったら、王太子にするとザカーリ様が言った。8人も王位継承権を持つ王子がいるのに、それを飛び越えて私の子が王太子になるなんて。
△月×日
私は王妃になった。即位式で、私の美貌に男性たちは見とれていたが、女性は特に他の王妃たちの視線はとげとげしかった。ザカーリ様は他の王妃を後目に私を自分の隣の席に座らせた。
王妃は王宮に部屋が与えられるという。他の王妃の反対に合い、私は北向きの部屋をいただいた。9番目の王妃様が住んでいた所らしい。その王妃様は病気でお亡くなりになり、王子様が1人で住んでいるそうだ。どんな方だろう。
そこまで読んで溜め息をつく。お父さんとお母さんは運命の番だったのか。お母さんは幸せそうな結婚だったのが嬉しかった。
学校の授業でオメガについて学んでいる。昔はオメガは差別されていたが、今のアストラ国ではオメガは大事に保護されている。3か月に1度のヒートが始まると、保健室の看護師が抑制剤も処方し調整してくれる。そして、アルファとのお見合いが始まるのだ。オメガと見合いできるアルファは健康状態、知性、経済力の国の基準を満たしたエリート揃いだ。どのアルファもたくましく、美形だった。
内部進学組で学年代表委員である太政大臣の娘のユリヤが狙っているアルファは王太子だ。16歳で立太子されたカリム王子は金髪碧眼の爽やかなイケメンだった。ユリヤも家柄のいい美しい娘だ。周囲もお似合いだと、ほぼ決まったように扱っている。
ユリヤ達内部進学組は平民のオメガを見下していた。特にアデルは男性オメガだからか、冷たく当たられた。アデルがミスをすると、「これだから平民のオメガは」と小馬鹿にした。取り巻きの貴族のオメガ達はユリヤにならってアデルを馬鹿にした。他の平民のオメガは貴族のユリヤ達に逆らうことができず、自分に被害が及ばぬようみんな口をつぐんでしまっていた。
アデルはいじめられることには慣れていたので、誰とも口を利かずに静かに過ごした。貴族のオメガ達はアデルを馬鹿にして無視するだけだったので、今まで受けてきたいじめより楽だと思った。実際、勉強も芸術も礼儀作法も、あまり優秀な生徒ではなかったので馬鹿にされても仕方ないかなとすら思っていた。
〇月△日
今日は16歳の誕生日、お祝いの食事の後、おばあ様に呼ばれた。王様のお嫁さんになる話だった。おばあ様にとっては、大変、名誉なことらしい。王様は36歳になるアルファだそうだ。お嫁さんといっても10番目らしい。普通は一夫一妻だが、王様のみ多妻が認められているので、お妾ではなく、正式な妻だから恥じる事はないとおばあ様が言っていた。
私達はシルフの一族なのだから。おばあ様は口癖のように言う。昔、シルフ一族という優秀なオメガの一族があり、私達はその末裔なのだそうだ。オメガが迫害されるようになり、もう何百年も前に廃れてしまった一族だが、その昔は貴族や王家に望まれて嫁ぐような名門だったそうだ。今回、私が王様と結婚すると、その過去の栄光が戻ると、おばあ様は喜んでいた。
今住んでいる村はオメガばかりいる保護区だ。昔より待遇が改善されたらしいが、ヒートのためにきちんと働けないオメガは貧乏で、国の保護区に住むことになる。結婚可能な16歳になると国が選別したアルファと婚約が決まっていく。保護区のオメガに拒否権はない。しかし、昔は、ヒートが始まるとレイプされ、性風俗で働かされることが多かったそうで、普通に結婚させてもらう現在は恵まれているのだろう。
お母様は早くに病死したので、おばあ様と私はオメガ保護区に住んでいた。私はこの村一番の美人なので、きっと良縁が来ると思っていたが、まさか王様とは思わなかった。この村から外に出たことがないので王宮に行くのは楽しみだ。
〇月□日
立派な馬車に乗せてもらった。外の景色が珍しくて、とても楽しかった。銀白色のたてがみを持った獣人の女性が縄で縛られて連れられていた。獣人を見るのは初めてだったので、目を離せなかった。獣人の女性と私の目が合った。
(助けて)
彼女の心の声が聞こえたような気がした。
お付の人に無理を言って、奴隷商人から獣人を買ってもらった。とても高かったので王様に怒られると脅されたが、私は頑張った。買ってくれないとお嫁さんにならないとごねたのだ。獣人の名前はサーシャといった。私はサーシャの手を握り、自分のそばから離さなかった。お付の人もサーシャが女性だったということもあり、あきらめて私の好きにさせてくれた。
〇月×日
この1週間は私の人生で最高に素晴らしい日だった。こんな奇跡があるとは思えない。ユーラシア国王ザカーリ様は私の運命の番だったのだ。出会った瞬間、私達は恋に落ちた。私はザカーリ様しか見えなくなって、何故かヒートにまでなってしまった。私はザカーリ様に抱きかかえられ2人だけになれる部屋に連れられた。そこでザカーリ様に愛された。私達は番になった。幸せなヒート期間が終了し、ザカーリ様は名残惜しそうに仕事するために部屋を出て行った。サーシャが代わりに入ってきた。サーシャは私の侍女になったらしい。私は心許せる侍女ができて嬉しかった。サーシャは私の入浴介助をし、食事をとらせてくれた。私は、その間、ザカーリ様が素敵だったという話をずっとサーシャに聞いてもらった。
△月□日
信じられない。ザカーリ様は私を10番目の王妃にするという。私はオメガだから、お嫁さんにはなれるけど、王妃にはなれないはずだったが、ザカーリ様が私のために法律を変えたらしい。私には赤ちゃんができていたので、この子が王子だったら、王太子にするとザカーリ様が言った。8人も王位継承権を持つ王子がいるのに、それを飛び越えて私の子が王太子になるなんて。
△月×日
私は王妃になった。即位式で、私の美貌に男性たちは見とれていたが、女性は特に他の王妃たちの視線はとげとげしかった。ザカーリ様は他の王妃を後目に私を自分の隣の席に座らせた。
王妃は王宮に部屋が与えられるという。他の王妃の反対に合い、私は北向きの部屋をいただいた。9番目の王妃様が住んでいた所らしい。その王妃様は病気でお亡くなりになり、王子様が1人で住んでいるそうだ。どんな方だろう。
そこまで読んで溜め息をつく。お父さんとお母さんは運命の番だったのか。お母さんは幸せそうな結婚だったのが嬉しかった。
学校の授業でオメガについて学んでいる。昔はオメガは差別されていたが、今のアストラ国ではオメガは大事に保護されている。3か月に1度のヒートが始まると、保健室の看護師が抑制剤も処方し調整してくれる。そして、アルファとのお見合いが始まるのだ。オメガと見合いできるアルファは健康状態、知性、経済力の国の基準を満たしたエリート揃いだ。どのアルファもたくましく、美形だった。
内部進学組で学年代表委員である太政大臣の娘のユリヤが狙っているアルファは王太子だ。16歳で立太子されたカリム王子は金髪碧眼の爽やかなイケメンだった。ユリヤも家柄のいい美しい娘だ。周囲もお似合いだと、ほぼ決まったように扱っている。
ユリヤ達内部進学組は平民のオメガを見下していた。特にアデルは男性オメガだからか、冷たく当たられた。アデルがミスをすると、「これだから平民のオメガは」と小馬鹿にした。取り巻きの貴族のオメガ達はユリヤにならってアデルを馬鹿にした。他の平民のオメガは貴族のユリヤ達に逆らうことができず、自分に被害が及ばぬようみんな口をつぐんでしまっていた。
アデルはいじめられることには慣れていたので、誰とも口を利かずに静かに過ごした。貴族のオメガ達はアデルを馬鹿にして無視するだけだったので、今まで受けてきたいじめより楽だと思った。実際、勉強も芸術も礼儀作法も、あまり優秀な生徒ではなかったので馬鹿にされても仕方ないかなとすら思っていた。
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