16 / 79
ポロトコ村
16 マギーのピンチ
しおりを挟む 少し考えて、卯乃は猫の姿のまま目を閉じた深森に呼びかけた。
「ねぇ。やっぱり人型でいてもらってもいいですか?」
不思議と敬語になってしまった。深森がぱっちりと目を開ける。暗がりでも卯乃のことがよく見えているのか、瞳孔が真ん丸になっていて、じいっと見てくる視線が分かる。
「なあん?」
「なんでだ?」と聞こえるような声で深森が鳴いた。
「だってまたゴキブリ出たら……。絶対無理。眠れない」
口をついて出たのはちょっとだけ本心とはずれた言葉だった。
深森猫はたしっと爪を隠した手の先で卯乃の頬を触ってきた。たしたしたし……。
いつしかその手が大きな掌になって卯乃の小さな顔に沿うように優しく撫ぜていた。
「卯乃は怖がりだな」
困ったやつだ、というような僅かに憂いの滲む声色だ。
人型で男二人で横たわったら、いかにも布団が窮屈になった。深森は卯乃と向かい合わせに片腕で自分の頭に腕枕し、もう一方は卯乃の背に回して柔らかくさする。
「俺が守ってやるから、寝ていいぞ」
その手つきが優しくてとろとろと眠くなる。無意識に寝返りを打ったら、今度は背中から腕の中に引き寄せられた。卯乃と同じグレープフルーツのボディーソープが香るのが爽やかで心地よい。
「卯乃、いい匂い……」
すんっと項の辺りを嗅がれ、掠れた声が吐息と共に悩ましく首筋に落ちてくる。
腰には大好きなふっさふさの尻尾を巻き付けられ、ぐっと身体を押し当てられた時、硬いものが当たる感覚を得た。同じ男としてすぐにその欲に想像がつきドキッとしてしまった。
これからの展開を少し期待しつつも、密着してみたら逞しい男の身体が少し怖くもあって、卯乃はこの期に及んで怯んだ。
(もしも深森が本気を出して来たら多分オレは逃げらんない)
「ごめん。獣型で一晩寝てもらう予定だったから、布団一組しか持ってきてなくて。狭いよね。これじゃ疲れ取れないよね? もう一組取りに行こうかな……。あっ!」
卯乃は「いいこと思いついた!」と腕を振り払うようにがばっと布団から飛び起きた。
「深森の代わりに今度はオレがウサギになればいいんだ。そしたら布団狭くないし」
「は?」
「よし、そうしよう。耳、引っかかるから脱いじゃえ」
完全に天然のボケとうっかりが焦りで極まった卯乃は朗らかな声を上げて、タンクトップを脱ぎ捨てると、今度は下履きに手をかけ思い切りよくぐいっとおろした。足に引っかかったそれを子どもがズボンを脱ぐときのようにもぞもぞっと両足を動かし、下着ごと脱ぎ捨てる。
「オレ、ウサギの時かなりちっちゃくなるから寝返りでつぶさ……」
「ねぇ。やっぱり人型でいてもらってもいいですか?」
不思議と敬語になってしまった。深森がぱっちりと目を開ける。暗がりでも卯乃のことがよく見えているのか、瞳孔が真ん丸になっていて、じいっと見てくる視線が分かる。
「なあん?」
「なんでだ?」と聞こえるような声で深森が鳴いた。
「だってまたゴキブリ出たら……。絶対無理。眠れない」
口をついて出たのはちょっとだけ本心とはずれた言葉だった。
深森猫はたしっと爪を隠した手の先で卯乃の頬を触ってきた。たしたしたし……。
いつしかその手が大きな掌になって卯乃の小さな顔に沿うように優しく撫ぜていた。
「卯乃は怖がりだな」
困ったやつだ、というような僅かに憂いの滲む声色だ。
人型で男二人で横たわったら、いかにも布団が窮屈になった。深森は卯乃と向かい合わせに片腕で自分の頭に腕枕し、もう一方は卯乃の背に回して柔らかくさする。
「俺が守ってやるから、寝ていいぞ」
その手つきが優しくてとろとろと眠くなる。無意識に寝返りを打ったら、今度は背中から腕の中に引き寄せられた。卯乃と同じグレープフルーツのボディーソープが香るのが爽やかで心地よい。
「卯乃、いい匂い……」
すんっと項の辺りを嗅がれ、掠れた声が吐息と共に悩ましく首筋に落ちてくる。
腰には大好きなふっさふさの尻尾を巻き付けられ、ぐっと身体を押し当てられた時、硬いものが当たる感覚を得た。同じ男としてすぐにその欲に想像がつきドキッとしてしまった。
これからの展開を少し期待しつつも、密着してみたら逞しい男の身体が少し怖くもあって、卯乃はこの期に及んで怯んだ。
(もしも深森が本気を出して来たら多分オレは逃げらんない)
「ごめん。獣型で一晩寝てもらう予定だったから、布団一組しか持ってきてなくて。狭いよね。これじゃ疲れ取れないよね? もう一組取りに行こうかな……。あっ!」
卯乃は「いいこと思いついた!」と腕を振り払うようにがばっと布団から飛び起きた。
「深森の代わりに今度はオレがウサギになればいいんだ。そしたら布団狭くないし」
「は?」
「よし、そうしよう。耳、引っかかるから脱いじゃえ」
完全に天然のボケとうっかりが焦りで極まった卯乃は朗らかな声を上げて、タンクトップを脱ぎ捨てると、今度は下履きに手をかけ思い切りよくぐいっとおろした。足に引っかかったそれを子どもがズボンを脱ぐときのようにもぞもぞっと両足を動かし、下着ごと脱ぎ捨てる。
「オレ、ウサギの時かなりちっちゃくなるから寝返りでつぶさ……」
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】友人のオオカミ獣人は俺の事が好きらしい
れると
BL
ずっと腐れ縁の友人だと思っていた。高卒で進学せず就職した俺に、大学進学して有名な企業にし就職したアイツは、ちょこまかと連絡をくれて、たまに遊びに行くような仲の良いヤツ。それくらいの認識だったんだけどな。・・・あれ?え?そういう事ってどういうこと??
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる