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過去の話
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フロントから電話があって正仁がやってきた。ホテルマンが出て行って、ドアが閉まるなり正仁は土下座した。
「うちの息子がご迷惑かけてすみません」
静は慌てて「迷惑なんてかけられてません。むしろ、私の悩みを柊里君に聞いてもらってたんです」と正仁に駆け寄り土下座を止めるよう促した。
「お父さん、僕、静さんの番になって静さんの優秀な遺伝子を持った跡継ぎのアルファを生みたいと思って。いいよね」
正仁は青ざめて言葉が出ない。
静は見かねて「ほら、お父さん、困ってるでしょ。柊里君も今日はお父さんと帰りなさい」ととりなした。
「お父さん!!」
柊里が叫ぶ。正仁は、はっとして、また土下座する。
「うちの柊里で良ければ、どうか番にしてやってください」
静は途方に暮れてしまった。正仁の土下座を止めさせ、ソファーに座らせる。慌てて来たため正仁は汗だくだったのでミネラルウオーターを注いで渡した。
今までの事情を静が正仁に説明した。徹に番ができて、番が妊娠していることは正仁も噂で聞いていたようだ。
正仁は「徹さんの子は優秀とは思いますが、伊集社の跡取りではありません」と言い切った。
「やはり、静さんのお子が継ぐべきです。静さんなら番になりたい素晴らしいオメガの方がたくさんいるでしょうが、うちの柊里も親馬鹿ですが美しく優れたオメガです。私達のようなベータ夫婦に生まれてきたばかりに引きこもりにさせていますが……」
正仁も泣いていた。
静は思案した。徹と子作りをする気にはもうなれなかった。番のオメガを探すとしても……柊里よりいいオメガに出会えるだろうか? 柊里に恋愛感情はないが、弟のような家族愛はある。柊里が番持ちになったら引きこもっている必要はなくなる。自分の番であれば、自分の経済力で大学や専門学校など柊里の希望に沿った進学もさせられる。希望するなら伊集社に就職させることもできる。それは柊里にとってもいい話ではないか。
震える声で静は言う。
「柊里君と桐生部長が良ければ、柊里君に番になって、私の子を生んで欲しいわ」
柊里は笑顔になる。
「ありがとう、静さん」
正仁は「静さん……すみません……助かりました……桐生家の……命の恩人です……」と頭を下げながら泣き続けた。
柊里はそのままホテルに残り、正仁は帰宅した。静は自宅に戻らず、ホテルから出勤した。柊里はホテルで勉強したり、読書したり、下読みのバイトをしたりして過ごした。静が帰ってくると、一緒にルームサービスで食事をとり、文学について語った。仲の良い姉弟のような関係だった。甘い愛の言葉はないが信頼関係はあった。別のベッドで安らかに眠った。
体が火照って熱くなってきた。
ーーヒートが来そうです
静にメッセージを送り、シャワーで身を清めた。髪を乾かし、全裸でベッドに入って待った。
仕事を切り上げ静は早めにホテルに戻ってきた。柊里のフェロモンが充満している部屋の中で、静はラットになった。静の体液が注ぎ込まれると柊里は自分の体が喜んでいるのを実感した。柊里のうなじに静の犬歯が食い込んだ時には、柊里は生まれてきて一番幸せと思った。
ヒートの期間、柊里のフェロモンが強くなると静は体液を注いでくれた。そうすると柊里の火照りが収まり、柊里はぐっすり眠った。柊里は体の中いっぱいに静の薔薇の香が広がるのを感じ、体が清められているように思った。抑制剤を飲むよりずっと幸せなヒート期間だった。
ヒートが終了し、うなじの歯形も固定したのを確認して、静は一度柊里を正仁の家に連れ帰った。家には忍が帰ってきていた。忍は静に頭を下げお礼を言った。
「柊里を番にして頂き、ありがとうございました」
そして柊里を抱き締め「柊里、ごめんね。お母さん、弱くてごめんね」と涙ながらに謝った。
柊里は「僕こそ、ごめんね」とポツンと言った。
静は正仁に役所に番届を出したと報告し、自宅に柊里の部屋を用意するので引っ越しの準備して欲しいとお願いした。
静は自宅に戻り、徹に桐生柊里を番にしたと報告した。徹は再度離婚について話をしたが、柊里はまだ15歳で結婚できない、ひとまわり年下で桐生部長の息子ということもあり、下種な勘ぐりをされる恐れがあるため、番にしたことは柊里が成人するまで公表するつもりはなく、隠れ蓑にするため、まだ離婚には応じられないと冷たく言った。
柊里を自宅に住まわせると話すと徹も番の所に行くと別居になった。
柊里は番になった時のヒートの性交で妊娠していた。静は社長業で多忙なため、忍が身の回りの世話を担当した。忍は心の負担がとれたためすっかり元気になり、喜んで柊里の世話をした。
検診で双子ということがわかった。柊里のほっそりした体に対して、お腹が異様に大きくなった。妊娠28週で流産しそうになり入院した。産婦人科医が静に説明した。
「バース不適合妊娠が疑われます」
「?」
「双子なのですが、2卵性でアルファとオメガでバースが違うようです。それにより不適合があり、流産しそうになったと思われます」
「柊里は……子供は……大丈夫ですか?」
「絶対安静で、できるだけ妊娠を継続しますが、急変はありえます。緊急時はアルファのお子さんの命優先でいいですか?」
「!! いえ、母体優先で」
「……そうですか。わかりました」
こんな所にもオメガ差別があるんだなと静は痛感した。
「うちの息子がご迷惑かけてすみません」
静は慌てて「迷惑なんてかけられてません。むしろ、私の悩みを柊里君に聞いてもらってたんです」と正仁に駆け寄り土下座を止めるよう促した。
「お父さん、僕、静さんの番になって静さんの優秀な遺伝子を持った跡継ぎのアルファを生みたいと思って。いいよね」
正仁は青ざめて言葉が出ない。
静は見かねて「ほら、お父さん、困ってるでしょ。柊里君も今日はお父さんと帰りなさい」ととりなした。
「お父さん!!」
柊里が叫ぶ。正仁は、はっとして、また土下座する。
「うちの柊里で良ければ、どうか番にしてやってください」
静は途方に暮れてしまった。正仁の土下座を止めさせ、ソファーに座らせる。慌てて来たため正仁は汗だくだったのでミネラルウオーターを注いで渡した。
今までの事情を静が正仁に説明した。徹に番ができて、番が妊娠していることは正仁も噂で聞いていたようだ。
正仁は「徹さんの子は優秀とは思いますが、伊集社の跡取りではありません」と言い切った。
「やはり、静さんのお子が継ぐべきです。静さんなら番になりたい素晴らしいオメガの方がたくさんいるでしょうが、うちの柊里も親馬鹿ですが美しく優れたオメガです。私達のようなベータ夫婦に生まれてきたばかりに引きこもりにさせていますが……」
正仁も泣いていた。
静は思案した。徹と子作りをする気にはもうなれなかった。番のオメガを探すとしても……柊里よりいいオメガに出会えるだろうか? 柊里に恋愛感情はないが、弟のような家族愛はある。柊里が番持ちになったら引きこもっている必要はなくなる。自分の番であれば、自分の経済力で大学や専門学校など柊里の希望に沿った進学もさせられる。希望するなら伊集社に就職させることもできる。それは柊里にとってもいい話ではないか。
震える声で静は言う。
「柊里君と桐生部長が良ければ、柊里君に番になって、私の子を生んで欲しいわ」
柊里は笑顔になる。
「ありがとう、静さん」
正仁は「静さん……すみません……助かりました……桐生家の……命の恩人です……」と頭を下げながら泣き続けた。
柊里はそのままホテルに残り、正仁は帰宅した。静は自宅に戻らず、ホテルから出勤した。柊里はホテルで勉強したり、読書したり、下読みのバイトをしたりして過ごした。静が帰ってくると、一緒にルームサービスで食事をとり、文学について語った。仲の良い姉弟のような関係だった。甘い愛の言葉はないが信頼関係はあった。別のベッドで安らかに眠った。
体が火照って熱くなってきた。
ーーヒートが来そうです
静にメッセージを送り、シャワーで身を清めた。髪を乾かし、全裸でベッドに入って待った。
仕事を切り上げ静は早めにホテルに戻ってきた。柊里のフェロモンが充満している部屋の中で、静はラットになった。静の体液が注ぎ込まれると柊里は自分の体が喜んでいるのを実感した。柊里のうなじに静の犬歯が食い込んだ時には、柊里は生まれてきて一番幸せと思った。
ヒートの期間、柊里のフェロモンが強くなると静は体液を注いでくれた。そうすると柊里の火照りが収まり、柊里はぐっすり眠った。柊里は体の中いっぱいに静の薔薇の香が広がるのを感じ、体が清められているように思った。抑制剤を飲むよりずっと幸せなヒート期間だった。
ヒートが終了し、うなじの歯形も固定したのを確認して、静は一度柊里を正仁の家に連れ帰った。家には忍が帰ってきていた。忍は静に頭を下げお礼を言った。
「柊里を番にして頂き、ありがとうございました」
そして柊里を抱き締め「柊里、ごめんね。お母さん、弱くてごめんね」と涙ながらに謝った。
柊里は「僕こそ、ごめんね」とポツンと言った。
静は正仁に役所に番届を出したと報告し、自宅に柊里の部屋を用意するので引っ越しの準備して欲しいとお願いした。
静は自宅に戻り、徹に桐生柊里を番にしたと報告した。徹は再度離婚について話をしたが、柊里はまだ15歳で結婚できない、ひとまわり年下で桐生部長の息子ということもあり、下種な勘ぐりをされる恐れがあるため、番にしたことは柊里が成人するまで公表するつもりはなく、隠れ蓑にするため、まだ離婚には応じられないと冷たく言った。
柊里を自宅に住まわせると話すと徹も番の所に行くと別居になった。
柊里は番になった時のヒートの性交で妊娠していた。静は社長業で多忙なため、忍が身の回りの世話を担当した。忍は心の負担がとれたためすっかり元気になり、喜んで柊里の世話をした。
検診で双子ということがわかった。柊里のほっそりした体に対して、お腹が異様に大きくなった。妊娠28週で流産しそうになり入院した。産婦人科医が静に説明した。
「バース不適合妊娠が疑われます」
「?」
「双子なのですが、2卵性でアルファとオメガでバースが違うようです。それにより不適合があり、流産しそうになったと思われます」
「柊里は……子供は……大丈夫ですか?」
「絶対安静で、できるだけ妊娠を継続しますが、急変はありえます。緊急時はアルファのお子さんの命優先でいいですか?」
「!! いえ、母体優先で」
「……そうですか。わかりました」
こんな所にもオメガ差別があるんだなと静は痛感した。
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