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過去の話
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伊集院静、18歳アルファ女性。
今年の4月T大入学した。日本の三大出版会社の1つで血族会社である伊集社の社長令嬢である。静はアルファであり1人娘なので次期社長と決まっていた。
今日は毎年恒例の幹部を集めた伊集院家のホームパーティである。静のお披露目もされた。美しく、T大入学という能力の高さもあり幹部達も静が次期社長で不満はないようであった。
一通り挨拶を終え、静は席に戻りミネラルウオーターを飲んだ。緊張していたのか喉がカラカラだ。少し何かつまもうと周りを見渡したら、若い夫婦と小さな男の子の3人連れが隅にいるのを見つけた。
「お父様、あちらの方は?」
現社長である父に質問した。
「ああ、桐生正仁君だね。ベータだけど優秀だよ。うちの人事部はアルファやオメガなどいろいろなバース性と関わるのでベータのみとしているんだ。正仁君は人の顔、経歴や趣味から家族などの個人情報まで全て頭の中に入ってて32歳と若いけど今年人事部長になったんだ。お前が入社したら頼りにすべき人間だよ。奥さんは忍さんといって、うちの受付にいたんだけど寿退社したんだ。ミス伊集社に選ばれたこともある美人さんだよ。奥さんに似たのかあの息子可愛いだろう。芸能事務所のスカウトがよくあるらしいよ」
桐生正仁は実直そうに見えた。忍はミス伊集社に選ばれただけあって可愛らしい女性だった。息子は……確かに美少年だった。黒い大きな瞳は知的に輝いていた。
静は興味を持ち、桐生一家に近付いた。
「こんにちは」
静は微笑む。正仁は緊張した笑顔を見せた。
「優秀な人事部長と父から伺いました。私も長期休暇には仕事の勉強始めますので色々ご指導して下さい」と静は正仁に頭を下げる。
正仁が慌てて「自分にできることでしたら全力でサポートさせて頂きます」と早口で言う。
静は息子と目が合う。
「可愛らしい息子さんね」
正仁の鼻の下が伸びる。
「柊里といいます。6歳で小学1年生になりました」
柊里は静を見つめる。静はキラキラしていて薔薇の香がした。静はしゃがんで柊里に目線を合わせる。
「柊里君は何の遊びが好きなの?」
「僕は本を読むのが好きです」
静はにっこりと笑顔になる。
「柊里君も大きくなったら伊集社に入って、私と一緒に本を作りましょうね」
そして静は会釈して移動した。
桐生柊里は父に連れられて行ったパーティでお姫様のような女性に出会った。父の勤めている会社の社長令嬢らしい。
ある日、学校から帰ると柊里宛に大きなダンボールが届いた。静からで伊集社で出版している子供向けの世界名作全集20巻であった。
ダンボールを開けるとあの薔薇の香がふわっと広がり柊里の胸はきゅんとした。忍は柊里が静の目に留まったと思い大興奮して正仁に伝えた。正仁と相談してお礼状を書いた。
ーーありがとうございます。大切に読みます。
正仁は会社でも静に礼を言った。静は今度改定を予定しているので子供の目から見た率直な感想が欲しいと正仁に伝えた。正仁から聞いた柊里は期待に応えたいと思い1冊1冊大切に読み、自分の考えをノートに綴った。大学ノートにびっしりと書き込まれた感想を柊里から渡された正仁は一瞬困った。
静の「感想が欲しい」を真に受けていいのだろうか。まず正仁が中身を読んでみた。子供ながらに良く書けていると思ったが親馬鹿だろうか。時々会社に来る静の時間外サポートに付き合った時、思い切ってノートを渡してみた。静は少し驚いたようだが、自分の言ったことを忘れておらず「ありがとう」とノートを受け取った。
数日後、またダンボール箱が桐生家に届いた。伊集社が出版している子供向けの日本名作全集15巻であった。中には静からの手紙が入っていた。ノートの感謝状と今度はこちらの感想をお願いいしたいと書いてあった。柊里は喜んで、また1冊1冊大切に読み、感想と意見を大学ノートにまとめた。
静がT大の同級生の伊藤徹と婚約したと正仁と忍の会話で聞いた。伊藤徹はアルファ男性でT大首席合格の優秀な頭脳の持ち主らしい。婿養子に入り、伊集社の未来の副社長になる。正仁と忍はお似合いと喜んでいた。柊里は小さな胸を痛めたが、この痛みが何なのか分からなかった。
静と徹は大学卒業と同時に結婚し、2人でアメリカのハーバード大学院に進学した。
柊里は小学5年生になり、ますます美形になった。同級生の女の子からよく告白されたが、ときめきを感じなかった。他人の恋愛感情に敏感だったので、クラスの男女で上手く行きそうな2人がいると自然なきっかけを作ってあげてカップル誕生させた。そのため柊里の男の友人はカップル率が高くなり、モテる柊里を嫉妬しなかった。
勉強は国語が得意で他は普通くらい。作文コンクールでよく入賞したが、スポーツはそれほど得意でなかったので小学生男子には嫉まれなかった。
平和な小学校生活だったが、12歳のときに行われたバース検査でオメガの診断になってしまった。ベータが多い公立小学校でアルファやオメガは毎年1~2人と珍しい存在だった。柊里の両親はベータで周囲にはベータしかいないので途方に暮れた。バース科を受診し、今後起こるヒートの説明を受け、抑制剤を処方された。ネックガードも購入した。
隣に建っている公立中に進学予定だったが、オメガに対する設備が整っている2駅先の特認校に進学を勧められた。見学に行くと、ほぼ生徒はベータで、基本アルファの生徒は入学させておらず、バースが不確定の生徒や、後発的にアルファになった生徒はオメガの生徒は同じクラスにならないよう対応されていた。また教師もベータのみでアルファの教師はいないと配慮されていた。ヒートによる休みは公休扱いになり、学業が遅れないように個別にレポートや課題が出されるなど学業面もサポートされていた。学校内にもオメガの生徒のみが入れる避難場所をいくつか設けており、突発のヒートにも対応されていた。
オメガに対して不安だった両親は隣の公立中ではなく、設備が整った2駅先の特認校に柊里を入学させることに決めた。そのため小学校の友達とは違う中学になった。
今年の4月T大入学した。日本の三大出版会社の1つで血族会社である伊集社の社長令嬢である。静はアルファであり1人娘なので次期社長と決まっていた。
今日は毎年恒例の幹部を集めた伊集院家のホームパーティである。静のお披露目もされた。美しく、T大入学という能力の高さもあり幹部達も静が次期社長で不満はないようであった。
一通り挨拶を終え、静は席に戻りミネラルウオーターを飲んだ。緊張していたのか喉がカラカラだ。少し何かつまもうと周りを見渡したら、若い夫婦と小さな男の子の3人連れが隅にいるのを見つけた。
「お父様、あちらの方は?」
現社長である父に質問した。
「ああ、桐生正仁君だね。ベータだけど優秀だよ。うちの人事部はアルファやオメガなどいろいろなバース性と関わるのでベータのみとしているんだ。正仁君は人の顔、経歴や趣味から家族などの個人情報まで全て頭の中に入ってて32歳と若いけど今年人事部長になったんだ。お前が入社したら頼りにすべき人間だよ。奥さんは忍さんといって、うちの受付にいたんだけど寿退社したんだ。ミス伊集社に選ばれたこともある美人さんだよ。奥さんに似たのかあの息子可愛いだろう。芸能事務所のスカウトがよくあるらしいよ」
桐生正仁は実直そうに見えた。忍はミス伊集社に選ばれただけあって可愛らしい女性だった。息子は……確かに美少年だった。黒い大きな瞳は知的に輝いていた。
静は興味を持ち、桐生一家に近付いた。
「こんにちは」
静は微笑む。正仁は緊張した笑顔を見せた。
「優秀な人事部長と父から伺いました。私も長期休暇には仕事の勉強始めますので色々ご指導して下さい」と静は正仁に頭を下げる。
正仁が慌てて「自分にできることでしたら全力でサポートさせて頂きます」と早口で言う。
静は息子と目が合う。
「可愛らしい息子さんね」
正仁の鼻の下が伸びる。
「柊里といいます。6歳で小学1年生になりました」
柊里は静を見つめる。静はキラキラしていて薔薇の香がした。静はしゃがんで柊里に目線を合わせる。
「柊里君は何の遊びが好きなの?」
「僕は本を読むのが好きです」
静はにっこりと笑顔になる。
「柊里君も大きくなったら伊集社に入って、私と一緒に本を作りましょうね」
そして静は会釈して移動した。
桐生柊里は父に連れられて行ったパーティでお姫様のような女性に出会った。父の勤めている会社の社長令嬢らしい。
ある日、学校から帰ると柊里宛に大きなダンボールが届いた。静からで伊集社で出版している子供向けの世界名作全集20巻であった。
ダンボールを開けるとあの薔薇の香がふわっと広がり柊里の胸はきゅんとした。忍は柊里が静の目に留まったと思い大興奮して正仁に伝えた。正仁と相談してお礼状を書いた。
ーーありがとうございます。大切に読みます。
正仁は会社でも静に礼を言った。静は今度改定を予定しているので子供の目から見た率直な感想が欲しいと正仁に伝えた。正仁から聞いた柊里は期待に応えたいと思い1冊1冊大切に読み、自分の考えをノートに綴った。大学ノートにびっしりと書き込まれた感想を柊里から渡された正仁は一瞬困った。
静の「感想が欲しい」を真に受けていいのだろうか。まず正仁が中身を読んでみた。子供ながらに良く書けていると思ったが親馬鹿だろうか。時々会社に来る静の時間外サポートに付き合った時、思い切ってノートを渡してみた。静は少し驚いたようだが、自分の言ったことを忘れておらず「ありがとう」とノートを受け取った。
数日後、またダンボール箱が桐生家に届いた。伊集社が出版している子供向けの日本名作全集15巻であった。中には静からの手紙が入っていた。ノートの感謝状と今度はこちらの感想をお願いいしたいと書いてあった。柊里は喜んで、また1冊1冊大切に読み、感想と意見を大学ノートにまとめた。
静がT大の同級生の伊藤徹と婚約したと正仁と忍の会話で聞いた。伊藤徹はアルファ男性でT大首席合格の優秀な頭脳の持ち主らしい。婿養子に入り、伊集社の未来の副社長になる。正仁と忍はお似合いと喜んでいた。柊里は小さな胸を痛めたが、この痛みが何なのか分からなかった。
静と徹は大学卒業と同時に結婚し、2人でアメリカのハーバード大学院に進学した。
柊里は小学5年生になり、ますます美形になった。同級生の女の子からよく告白されたが、ときめきを感じなかった。他人の恋愛感情に敏感だったので、クラスの男女で上手く行きそうな2人がいると自然なきっかけを作ってあげてカップル誕生させた。そのため柊里の男の友人はカップル率が高くなり、モテる柊里を嫉妬しなかった。
勉強は国語が得意で他は普通くらい。作文コンクールでよく入賞したが、スポーツはそれほど得意でなかったので小学生男子には嫉まれなかった。
平和な小学校生活だったが、12歳のときに行われたバース検査でオメガの診断になってしまった。ベータが多い公立小学校でアルファやオメガは毎年1~2人と珍しい存在だった。柊里の両親はベータで周囲にはベータしかいないので途方に暮れた。バース科を受診し、今後起こるヒートの説明を受け、抑制剤を処方された。ネックガードも購入した。
隣に建っている公立中に進学予定だったが、オメガに対する設備が整っている2駅先の特認校に進学を勧められた。見学に行くと、ほぼ生徒はベータで、基本アルファの生徒は入学させておらず、バースが不確定の生徒や、後発的にアルファになった生徒はオメガの生徒は同じクラスにならないよう対応されていた。また教師もベータのみでアルファの教師はいないと配慮されていた。ヒートによる休みは公休扱いになり、学業が遅れないように個別にレポートや課題が出されるなど学業面もサポートされていた。学校内にもオメガの生徒のみが入れる避難場所をいくつか設けており、突発のヒートにも対応されていた。
オメガに対して不安だった両親は隣の公立中ではなく、設備が整った2駅先の特認校に柊里を入学させることに決めた。そのため小学校の友達とは違う中学になった。
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