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 木原真希が10月に行われる桐生柊里10周年記念パーティの打ち合わせにやってきた。そのパーティで蓮の漫画家デビューも発表する予定であった。蓮本人はアルファも多くいるパーティは不安なので出席しないつもりであった。
「蓮も出てみたら?」と柊里が言い出す。
「え?」
「新人漫画家として名前と顔を売ったら?」
「出ましょう」
 真希ものりのりになった。
「美形親子の共演。ファンも見たいと思います」
「でも……オメガってばれたら嫌だな」
「Azu先生だってオメガってカミングアウトしているじゃないですか」
(あず先輩は女性だから……。男性オメガは少数派で偏見多いし……)
 蓮は柊里の急な提案に戸惑いを感じた。柊里と真希が招待客のリストの確認や当日のスケジュールの確認、料理のメニューなど打ち合わせをしているのをぼんやりと眺めた。
 真希が「この内容でホテル側と打ち合わせておきますね」と言って帰った。

 柊里に「どうして急にパーティに出席するように言ったの?」と質問する。
「蓮は沢渡君と番になって結婚したいんだよね」
 柊里は蓮に確認する。蓮は強く頷く。
「沢渡君はまだ学生だけど、美月さんが選んだ人だから優秀なアルファと思うんだ。美月さんも優秀なアルファだろ。蓮はどうだろう?」
 蓮ははっとする。
「世間はオメガっていうと底辺って考えちゃうだろ。沢渡君は美月さんに振られて底辺オメガと結婚したみじめなアルファって思われちゃうよ。それって悔しいよね。お父さんは今回2人が付き合うのをすぐ公表しないのは蓮のためにもいいと思う。蓮はAzu先生みたく漫画家として活躍してから沢渡君と結婚してほしい。蓮の絵は上手だと思うし、木原さんも才能あるって言ってくれてるから自信を持って。お父さんの七光りも利用しちゃっていいから。美月さんのお父さんの徹さん、運命の番がいるんだよね。林沙雪さんって言ってT大のそばの定食屋さんの娘さんだったんだ。すごい美少女で有名だったんだけど、静さんがいるから正式な結婚はできていないんだ。静さんも素晴らしい人だから比べられちゃって、色仕掛けで取り入ったと言われてひっそりと生きているんだ。お父さんは蓮には日陰の存在ではなく堂々と生きて欲しい。蓮は子供の頃から絵が上手だったから才能を伸ばしたくて早くに絵画教室に通わせたのもその為なんだ。勉強やスポーツはアルファに勝てないけど芸術ならチャンスあるかな、と思って。でも、そこからどう才能を生かせばいいのか分からなくなってたんだけど、木原さんが俺の作品のコミカライズって言ってくれて目から鱗が落ちたよ。Azu先生っていう成功しているお手本の先輩もいるし」
 柊里が自分の将来をそんな風に考えてくれていたことを初めて知る。
「俺は自分で言うのもなんだけど顔がいい。見た目で騒がれるのは嫌で作品で勝負したいと思ってて、新人賞取った後もあまりメディアに露出しなかったんだ。本はそこそこしか売れなくて、あせって次の作品書こうとしても売れる小説かどうか気になって上手く書けなくなって。小説家は続けられないかと絶望してたんだけど、静社長にアドバイスされて女性誌のグラビアやったんだよね。そしたらみんなの目に留まって本も売れだしたんだ。一生懸命書いてても読んでもらわなければ面白さは伝わらない。見た目も能力だから、アルファに勝つためには全部売って勝負しなきゃだめだな、て分かったんだ。蓮も顔がいいと思うし、俺の息子っていう七光りもあるし、全部使った方がいいよ。沢渡君に肩を並べられる人間になる為に」
(底辺オメガとは言われたくない。沢渡さんに相応しい人間になりたい)
 柊里の言葉は蓮の心に響いた。
「分かった。パーティに出席する。仕事も頑張る」
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