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「沢渡さんから電話があったよ」
夕食時、柊里は蓮に言った。蓮は、はっとして柊里を見る。
「美月さんとお別れしたそうだ」
蓮の胸は鼓動が速くなった。
「蓮に会わせてください、ってお願いされたよ。どうする、蓮?」
柊里は微笑む。蓮は喜びで胸がいっぱいになる。
「会いたい。会いたいよ」
「わかった。今日水曜だから、日曜にうちに来てもらうように言うよ。午後1時。沢渡さん、アルファだからお父さんも同席するよ」
蓮は急いで頷く。優斗に会えると思うと蓮は幸せでいっぱいになった。
「今度は番よけのチョーカー、ちゃんと着けて会うんだよ」
柊里の指示に頷いた。それからは上の空で機械的に食事を終えた。
部屋に戻り呆然とする。
(沢渡さんに会える)
沢渡さんはカッコ良くって、沢渡さんのフェロモンはいい匂いで吸うと訳が分からなくなった。運命だと、何故か分かった。何故だろう。
よくよく考えてみると、お互い会ったのは一瞬である。自分は沢渡さんを好きな自信あるけど、沢渡さんはどうなんだろう。再会して、やっぱり勘違いだと思われたらどうしよう。
クローゼットを開ける。
(何を着よう)
高校卒業してから新しい服を何も買っていない。高校時代は制服があったし、寮だったから部屋着しか持ってない。沢渡さんにがっかりされないようにしたい。
(あず先輩に相談しよう)
桜華学園時代の漫研の大先輩、旧姓、友枝梓。今は結婚して如月梓、21歳オメガ女性。
Azuというペンネームで学生時代から漫画家デビューしている。『さくゆり』という桜華学園をモデルにしたさくら学園の生徒たちの物語が代表作。学園内でグループを作りアイドルを目指す。アニメ化、音楽ゲーム化、最近は2.5次元の舞台も人気である。
蓮が中1で桜華学園に入学した時、あず先輩は高1で『さくゆり』で商業デビューを果たしていた。あず先輩を筆頭とした漫研は他の部活より華やかで、美術部に入ろうと思っていた蓮も入部説明会に参加した。有名人のあず先輩や、プロの生原稿を見てみたかったのだ。
あず先輩が学生のうちは漫研部員がアシスタントをしていた。蓮は絵画教室で基礎からきちんと学んでおり、小学生の絵画コンテストで入賞したりしていたから、同世代の絵を描いている人には名を知られていた。あず先輩は蓮に漫研入部とアシスタントをお願いした。有名人のあず先輩はキラキラしていて新入生の蓮にとっては憧れの存在だった。蓮は美術部ではなく漫研に入部して、あず先輩のアシスタントになった。
「れんれん。上手いよー。助かるよー」
有名人のあず先輩に重宝され可愛がられたので、蓮は桜華学園で一目置かれ楽しく過ごせた。あず先輩のアシスタントをしながら漫画の描き方も学べた。
あず先輩が立ち上げた同人サークルCherry flowerは漫研の裏の組織でSNSで活躍した。漫研で発表するのは健全な漫画だが、同人であず先輩はGL漫画を描いた。蓮はれんれんというペンネームでBLのイラストを描いた。人気が出て神絵師とも呼ばれた。
桜華学園はオメガのみなので女子が多かった。蓮は珍しい男子だったので時々告白された。しかし、女子に恋愛感情を抱くことはなかった。心惹かれるのは男性であった。
桜華学園には当然そんな人はいないのでイラストで理想を描いた。柊里の『運命に逆らって』のアルファ男性は好みのタイプだったのでイラスト化した。柊里がモデルでは? と言われているイケメンのベータ男性と2人に好かれているオメガは自分。そんな妄想をイラストにしていた。
ーーあず先輩、相談したいことがあります。実は好きな人ができて、その人に会うのに服を買いたいんです。お薦めのお店を教えてもらえませんか
と、あず先輩にメッセージを送ったら、即既読。
びっくりしたウサギが「マジですか?」とセリフを言ってるスタンプ。そして
ーー恋バナしたい。電話していい? とメッセージ。
OKのスタンプを送るとすぐ電話。
「れんれんの好きな人って?」
蓮は今までの経過をかいつまんで説明した。
「運命の番かー。まじでいるんだねー」
「あず先輩は? 如月さんとは違うの?」
「うーん、瞬ちゃんは幼馴染で長い付き合いだけど、運命は感じたことないな。気心知れてるし、誰かと結婚しなければいけないんだったら知らないアルファより瞬ちゃんが安心かなっていう感じ。本当は女の子が好きだから、もしかして女性アルファの運命の番がいたのかもね。もう瞬ちゃんと番だから分からないけど」
あず先輩は女の子が好きで、だから『さくゆり』のような女の子がたくさん出てくる漫画を魅力的に描けるのだろう。
番で結婚相手の如月瞬は21歳アルファ男性で音楽一家として有名な如月家の息子である。父は指揮者、母はピアニスト、姉はバイオリニスト。瞬もクラシックの英才教育を受けていたが、「つまらん」とボカロPになってしまった。今はボカロP以外にも、アーティストに楽曲提供したり、自分でも歌ったりと芸能活動をしている。
あず先輩の『さくゆり』は音ゲーにもなっているが、その楽曲も瞬が作っている。
あず先輩は桜華学園時代はもてもてで可愛いオメガの女の子何人もと付き合っていた。男子に興味のないあず先輩と女子に興味のない蓮とは純粋な友情だった。
有名な漫画家とアーティストの夫婦でお洒落だと蓮は思ってるので今時のファッションのアドバイスがもらいたかった。
「お洒落っていうのはありがとう。でも私のファッションはゴスロリだから。れんれん似合うと思うので着せたいけど、沢渡さんの趣味とは違うと思うな。T大生でしょ。保守的なファッションが良さそう。瞬ちゃんに相談しといてあげる。明日、私と瞬ちゃんと一緒に買いに行こ」
「僕、如月さんに嫌われていると思うんだけど」
あず先輩に紹介された時、瞬ににらまれていたことを伝えた。
「あー、あれ嫉妬。アルファって番のオメガに執着心強いのよね。私とれんれんが仲いいじゃない。私と仲いい他のオメガの女の子は気にならないみたいなんだけど、れんれんはオメガだけど男の子でしょ。疑ってるの。本当は女の子の方が元カノだったりするんだけどね。れんれんは男の人が好きなんだよ、と言っても信じないの。でも、運命の番に会ったこと教えたら喜んでデート服見立ててくれるよ。アルファ男性の好みもわかるし」
嫉妬されてたんだ、と合点がいく。中高6年間桜華学園にいたから一般の恋愛が分からなくなってしまっていた。あず先輩は番の瞬以外は恋愛対象は女子で、蓮は男の人が好きだから、あず先輩と蓮の関係に恋愛感情は全くない。あず先輩は瞬に同性が好きなのは内緒にしているので、瞬にしてみれば蓮との関係を怪しむのもご最もなのだ。
夕食時、柊里は蓮に言った。蓮は、はっとして柊里を見る。
「美月さんとお別れしたそうだ」
蓮の胸は鼓動が速くなった。
「蓮に会わせてください、ってお願いされたよ。どうする、蓮?」
柊里は微笑む。蓮は喜びで胸がいっぱいになる。
「会いたい。会いたいよ」
「わかった。今日水曜だから、日曜にうちに来てもらうように言うよ。午後1時。沢渡さん、アルファだからお父さんも同席するよ」
蓮は急いで頷く。優斗に会えると思うと蓮は幸せでいっぱいになった。
「今度は番よけのチョーカー、ちゃんと着けて会うんだよ」
柊里の指示に頷いた。それからは上の空で機械的に食事を終えた。
部屋に戻り呆然とする。
(沢渡さんに会える)
沢渡さんはカッコ良くって、沢渡さんのフェロモンはいい匂いで吸うと訳が分からなくなった。運命だと、何故か分かった。何故だろう。
よくよく考えてみると、お互い会ったのは一瞬である。自分は沢渡さんを好きな自信あるけど、沢渡さんはどうなんだろう。再会して、やっぱり勘違いだと思われたらどうしよう。
クローゼットを開ける。
(何を着よう)
高校卒業してから新しい服を何も買っていない。高校時代は制服があったし、寮だったから部屋着しか持ってない。沢渡さんにがっかりされないようにしたい。
(あず先輩に相談しよう)
桜華学園時代の漫研の大先輩、旧姓、友枝梓。今は結婚して如月梓、21歳オメガ女性。
Azuというペンネームで学生時代から漫画家デビューしている。『さくゆり』という桜華学園をモデルにしたさくら学園の生徒たちの物語が代表作。学園内でグループを作りアイドルを目指す。アニメ化、音楽ゲーム化、最近は2.5次元の舞台も人気である。
蓮が中1で桜華学園に入学した時、あず先輩は高1で『さくゆり』で商業デビューを果たしていた。あず先輩を筆頭とした漫研は他の部活より華やかで、美術部に入ろうと思っていた蓮も入部説明会に参加した。有名人のあず先輩や、プロの生原稿を見てみたかったのだ。
あず先輩が学生のうちは漫研部員がアシスタントをしていた。蓮は絵画教室で基礎からきちんと学んでおり、小学生の絵画コンテストで入賞したりしていたから、同世代の絵を描いている人には名を知られていた。あず先輩は蓮に漫研入部とアシスタントをお願いした。有名人のあず先輩はキラキラしていて新入生の蓮にとっては憧れの存在だった。蓮は美術部ではなく漫研に入部して、あず先輩のアシスタントになった。
「れんれん。上手いよー。助かるよー」
有名人のあず先輩に重宝され可愛がられたので、蓮は桜華学園で一目置かれ楽しく過ごせた。あず先輩のアシスタントをしながら漫画の描き方も学べた。
あず先輩が立ち上げた同人サークルCherry flowerは漫研の裏の組織でSNSで活躍した。漫研で発表するのは健全な漫画だが、同人であず先輩はGL漫画を描いた。蓮はれんれんというペンネームでBLのイラストを描いた。人気が出て神絵師とも呼ばれた。
桜華学園はオメガのみなので女子が多かった。蓮は珍しい男子だったので時々告白された。しかし、女子に恋愛感情を抱くことはなかった。心惹かれるのは男性であった。
桜華学園には当然そんな人はいないのでイラストで理想を描いた。柊里の『運命に逆らって』のアルファ男性は好みのタイプだったのでイラスト化した。柊里がモデルでは? と言われているイケメンのベータ男性と2人に好かれているオメガは自分。そんな妄想をイラストにしていた。
ーーあず先輩、相談したいことがあります。実は好きな人ができて、その人に会うのに服を買いたいんです。お薦めのお店を教えてもらえませんか
と、あず先輩にメッセージを送ったら、即既読。
びっくりしたウサギが「マジですか?」とセリフを言ってるスタンプ。そして
ーー恋バナしたい。電話していい? とメッセージ。
OKのスタンプを送るとすぐ電話。
「れんれんの好きな人って?」
蓮は今までの経過をかいつまんで説明した。
「運命の番かー。まじでいるんだねー」
「あず先輩は? 如月さんとは違うの?」
「うーん、瞬ちゃんは幼馴染で長い付き合いだけど、運命は感じたことないな。気心知れてるし、誰かと結婚しなければいけないんだったら知らないアルファより瞬ちゃんが安心かなっていう感じ。本当は女の子が好きだから、もしかして女性アルファの運命の番がいたのかもね。もう瞬ちゃんと番だから分からないけど」
あず先輩は女の子が好きで、だから『さくゆり』のような女の子がたくさん出てくる漫画を魅力的に描けるのだろう。
番で結婚相手の如月瞬は21歳アルファ男性で音楽一家として有名な如月家の息子である。父は指揮者、母はピアニスト、姉はバイオリニスト。瞬もクラシックの英才教育を受けていたが、「つまらん」とボカロPになってしまった。今はボカロP以外にも、アーティストに楽曲提供したり、自分でも歌ったりと芸能活動をしている。
あず先輩の『さくゆり』は音ゲーにもなっているが、その楽曲も瞬が作っている。
あず先輩は桜華学園時代はもてもてで可愛いオメガの女の子何人もと付き合っていた。男子に興味のないあず先輩と女子に興味のない蓮とは純粋な友情だった。
有名な漫画家とアーティストの夫婦でお洒落だと蓮は思ってるので今時のファッションのアドバイスがもらいたかった。
「お洒落っていうのはありがとう。でも私のファッションはゴスロリだから。れんれん似合うと思うので着せたいけど、沢渡さんの趣味とは違うと思うな。T大生でしょ。保守的なファッションが良さそう。瞬ちゃんに相談しといてあげる。明日、私と瞬ちゃんと一緒に買いに行こ」
「僕、如月さんに嫌われていると思うんだけど」
あず先輩に紹介された時、瞬ににらまれていたことを伝えた。
「あー、あれ嫉妬。アルファって番のオメガに執着心強いのよね。私とれんれんが仲いいじゃない。私と仲いい他のオメガの女の子は気にならないみたいなんだけど、れんれんはオメガだけど男の子でしょ。疑ってるの。本当は女の子の方が元カノだったりするんだけどね。れんれんは男の人が好きなんだよ、と言っても信じないの。でも、運命の番に会ったこと教えたら喜んでデート服見立ててくれるよ。アルファ男性の好みもわかるし」
嫉妬されてたんだ、と合点がいく。中高6年間桜華学園にいたから一般の恋愛が分からなくなってしまっていた。あず先輩は番の瞬以外は恋愛対象は女子で、蓮は男の人が好きだから、あず先輩と蓮の関係に恋愛感情は全くない。あず先輩は瞬に同性が好きなのは内緒にしているので、瞬にしてみれば蓮との関係を怪しむのもご最もなのだ。
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