【完結】10年愛~運命を拒絶したオメガ男性の話

十海 碧

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 帰宅して良一は雅を部屋に呼んだ。
「林さんに会いに行ったの?」
 雅はいずればれるだろうとは思ってたので、驚かずに頷く。そして良一に問いかける。
「あの人が、僕達の父親なの?」
 雅の反撃に良一は絶句してしまう。その反応で雅は確信する。
「あの人、お父さんとお別れした後、お父さんは別の人と結婚したらしいと言ってたけど、そうなの?」
「……、いや、それは違う。そういう事にしてたけど、誰とも結婚してない」
「あの人、いい人そうだよ。僕達の父親だって教えてもいいんじゃない?」
「……雅は、それがいいの?」
 良一の問いかけに雅は躊躇いながら話す。
「僕、将来、何がしたいのか分からないの。勉強が好きなんだけど、どうすればいいのか分からない。お父さんの食堂の仕事やお母さんの美容師の仕事は自分がやりたい事とは違う。司は芸能の仕事が楽しいみたいで、俳優になりたいし、映画監督にもなりたいみたい。才能もあると思うし、司はそれでいいと思う。でも、僕は芸能の仕事もやりたい事ではない。アルファのあの人が父親なら相談にのってもらえるんじゃないかと思う」
「……ごめんね。お父さん、勉強できないから、相談にのってあげられなくて」
 雅は雅司からもらった名刺を出す。
「あの人から連絡先もらった。本当の父親なら、僕、きちんと名乗りたい」
 良一は雅の言い分がもっともだと思い、観念した。
「分かった。まず、お父さんが林さんと連絡とるね。その上で、雅と司に会うようにするよ」
 雅は、ほっとしたような顔をする。
「ごめんね、勝手な事をして」
 良一は首を振る。
「お父さんこそ、隠し事が多くてごめん」

 自分が劣化しているのを雅司に見られるのが嫌で、会うことを諦めていたが、子供の訴えには勝てなかった。本当の父と子をずっと会わせない訳にはいかないだろう。
 夜に由里に相談した。
「さすが、優秀なアルファだね。雅達に隠しておくのはやっぱり難しいんじゃない? 林さんに会って、今までの事情を説明したら?」
 由里は軽く言う。
「そうだよね。子供達のために林さんに会って説明する」
 由里はにやにやする。
「子供達のためだけでなくて、自分のためにも林さんに会って、ずっと好きだったって言ったら? バツイチならアリでしょ」
 良一は分かりやすく赤面する。結婚しているのなら妻子に迷惑かかると思いブレーキを掛けていたが、バツイチと聞いて心がはずんだのも事実だ。
「私も報告があって」
 由里はにこにこして言う。
「オメガタレント事務所に専属ヘアメイクの仕事、スカウトされたの」
 良一も聞いたことがある位、有名な事務所だった。
「すごい! 良かったじゃん!」
「うん。今までハンディだったオメガというバースが、むしろ有利に使える仕事で、やりがいがありそう」
 オメガタレント事務所は若いオメガの子が多い。直接、肌に触れる仕事であるヘアメイクを今まではベータ女性を雇用していたのだが、オメガ女性を本当は雇いたかったそうだ。タレントの仕事に同行するので、出張が増える。海外での撮影もあるらしい。
「パリコレに出演するモデルさんもいて、私も行かせてもらえそうなの。生でパリコレ見られるなんて夢みたい」
 由里は夢見るように話す。良一は由里の夢の実現が嬉しかった。
「私も1人ぼっちだったら、ここまで頑張れなかったと思う。RYOさんが頑張ってたり、子供達が可愛いので寂しくなくて頑張れたと思う。おまけに給料までもらってたから貯金もできたし、いい職場だった」
 由里は微笑みながら言うが、まるでお別れのようだ。
「RYOさんが林さんと幸せになれそうだったら、私は1人になって仕事に燃えてみたい。もしダメそうだったら、まだ共同生活は続けるけど、子供達が小学校卒業する時には、私は1人になるよう、少しずつ仕事をシフトさせてもらうね。2人ともアルファだから、血の繋がってないオメガとずっと同居しているわけにはいかないでしょうし」
 良一が、ぐずぐず悩んでいる間に由里は前進し始めた。良一も覚悟を決めなければならない。
 良一は思い切って雅司の携帯に電話した。
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