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出会い、そして別れ
3 林 雅司
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林雅司、24歳アルファ男性はT大法学部を卒業し、オメガの母と弟を守りたいと思って弁護士になった。養うためにお金が大事だから、高所得の大手法律事務所に就職しようと思ってた。
結局、父はアルファの妻と離婚し母と再婚したので、母は正式な妻になれた。弟もIT会社社長のアルファの夫と結婚し、専業主夫になった。
自分が守るオメガはいなくなった。
収入を問わなくなったので、初心を大事に今の鈴木幸子法律事務所に就職した。オメガや女性問題を専門とする人権派の事務所だ。所長の鈴木幸子はベータのぽっちゃりとした中年女性であった。シングルで娘が1人いるそうだ。依頼人の話を聞くときは温厚な表情、法廷に立つとアルファ相手に強気にやりこめる様を見て就職を決めた。所長はこんなベータばかりの事務所にT大卒のアルファが何故? と最初は驚いていたが、オメガや女性の低い立場に味方になってくれるアルファ男性は貴重なので採用となった。
12月になった。法律事務所の仕事に慣れてきたが、慣れると仕事が増える。いたちごっこだった。師も走るが、自分も走ってるよ、と思う。そんな矢先に所長から秘密厳守の仕事があると言って呼ばれた。依頼主は官房長官。一応、国家機密らしい。
何故、そんな大物から、うちの事務所に依頼が? と不思議に思いながら、迎えに来た黒塗りの車で首相官邸に向かった。所長と雅司はボディチェックを受け入室する。
そこには美しいスラリとした人が立っていた。
男性? 女性?
いい香。オメガ? チョーカーしてる。オメガか。
雅司の体に電気が走る。
ウンメイ?
雅司は、その美しい人を見つめる。美しい人も驚いたような顔で雅司を見つめた。
ソファーに腰かけ内閣官房長官から説明を受けた。
美しい人はRYOといい、オメガ風俗のナンバーワンキャストだった。
現在、来日しているロシアの大統領が同性愛者だったので、RYOに性接待を依頼した。ロシアの大統領はRYOを気に入り、番にしてロシアに連れ帰りたいと要望した。
ロシアには複数名のオメガが番になって大統領の別宅に住まわされているらしい。寵愛がなくなったら、番解除されて実家に帰らされたり、帰る家のない身分の低い人は娼館送りになったりと悲惨な運命が待っている。
RYOはもちろんロシア行きを望んでないし、ロシア側もスパイになったら困るので大統領の身近に外国人を入れたくなかった。
行方不明ということにして、大統領がロシアに帰国するまでRYOを匿うことが決まった。
RYOを国家が匿うと、大統領に知られた時に国同士の問題に発展しては困るため、民間で匿うことになった。国家機密費とロシアからのお詫び金で経費は支払われる。担当者としてオメガ問題に詳しいうちの事務所に白羽の矢が立った。
弁護とあまり関係がない仕事なので断ることもできたが、国に貸しを作るのは今後の仕事で有益なので引き受けることにしたと所長。
「それにRYO君も可哀想でしょ」
大統領が日本に滞在する1週間、RYOと雅司はホテルに潜伏することに決まった。
皇居に近い5つ星ホテルに2人は連れていかれた。1フロア貸し切りとなっており、別々の2人の寝室と、リビングルームの3室であった。外には民間のSPが常駐し、何かあったら駆けつけてくれることになっていた。
リビングルームのソファーに2人向かい合って座る。雅司は名刺をRYOに渡して挨拶する。
「林雅司と申します。鈴木幸子法律事務所で働いております。RYOさんの証人保護プログラムのお手伝いをさせていただきます」
RYOは渡された名刺をじっと見ている。
頼りなさそうな若造が来たと思ってるんだろうか、と無言のRYOに雅司は不安になるが、それを表情に出さないよう努めた。
RYOは色白の肌に綺麗な銀色の髪で、紫の瞳がキラキラしていた。
こんな綺麗な人を見たことがなかった。
雅司の母の沙雪も弟の怜太も美しいオメガだったが、美しさの質が違う。
「そんなに見られたら穴が開いちゃう」
RYOが笑う。なまめかしい笑み。
雅司が慌てる。
「ごめ……ん」
目をそらす。
「いいよ。運命の番なんだろ、俺たち」
雅司が、またRYOを見つめ直す。
「や……っぱり」
RYOがにやにやする。
「林さんって弁護士さん? 俺たち番っちゃう?」
「!!」
雅司はおろおろし、RYOが噴き出す。
「鈴木幸子法律事務所って知ってる。うちで働いてる子もたまにお世話になるよね。オメガの人権保護が専門なんでしょ。良心的な所だから、きっと給料安いよね。年収1千万切ってるでしょ。林さん、アルファなのに、何故もっと高収入な所で働かないの?」
「私は、母や弟がオメガで色々苦労してたから、そういう人を救いたくて」
「ふーん。俺さ、オメガ風俗のナンバーワンキャストなんだよね。一晩100万。ヒート時は倍の200万。今月15日勤務してるから、月1500万稼いでる。店と半々だから、自分の取り分は750万。借金は返し終わってるんだ。今はタワマンに住んでて、そこが月100万。家政婦も雇ってるし、衣装代とか結構かかるから、あまり余んない感じ。番ったらオメガってアルファと違って番以外の人とセックスするのすごい苦痛になるのよ。だから、林さんと番になるのなら風俗辞めなきゃなんないけど、月750万は林さん出せないよね」
雅司は唖然とする。
「はは、冗談。俺、今29歳だから、あと風俗で働けるのも10年くらいだよね。働けなくなったら番にしてもらおーかな」
RYOはにやにやしている。雅司は驚く。
「29歳?! 俺より5歳も年上?! 20歳そこそこしか見えない」
「誉め言葉として聞いておきます。オメガは若く見えるからね」
会話が途切れた。手持無沙汰の雅司は鞄から書類を取り出し読み始めた。RYOは部屋の中を探検する。2つのベッドルームを見比べて、「俺、こっちの広い方使うね。疲れたから夕食までちょっと昼寝するわ」
RYOが部屋に入りドアを閉める。かしゃんと内鍵が閉まる音がした。
結局、父はアルファの妻と離婚し母と再婚したので、母は正式な妻になれた。弟もIT会社社長のアルファの夫と結婚し、専業主夫になった。
自分が守るオメガはいなくなった。
収入を問わなくなったので、初心を大事に今の鈴木幸子法律事務所に就職した。オメガや女性問題を専門とする人権派の事務所だ。所長の鈴木幸子はベータのぽっちゃりとした中年女性であった。シングルで娘が1人いるそうだ。依頼人の話を聞くときは温厚な表情、法廷に立つとアルファ相手に強気にやりこめる様を見て就職を決めた。所長はこんなベータばかりの事務所にT大卒のアルファが何故? と最初は驚いていたが、オメガや女性の低い立場に味方になってくれるアルファ男性は貴重なので採用となった。
12月になった。法律事務所の仕事に慣れてきたが、慣れると仕事が増える。いたちごっこだった。師も走るが、自分も走ってるよ、と思う。そんな矢先に所長から秘密厳守の仕事があると言って呼ばれた。依頼主は官房長官。一応、国家機密らしい。
何故、そんな大物から、うちの事務所に依頼が? と不思議に思いながら、迎えに来た黒塗りの車で首相官邸に向かった。所長と雅司はボディチェックを受け入室する。
そこには美しいスラリとした人が立っていた。
男性? 女性?
いい香。オメガ? チョーカーしてる。オメガか。
雅司の体に電気が走る。
ウンメイ?
雅司は、その美しい人を見つめる。美しい人も驚いたような顔で雅司を見つめた。
ソファーに腰かけ内閣官房長官から説明を受けた。
美しい人はRYOといい、オメガ風俗のナンバーワンキャストだった。
現在、来日しているロシアの大統領が同性愛者だったので、RYOに性接待を依頼した。ロシアの大統領はRYOを気に入り、番にしてロシアに連れ帰りたいと要望した。
ロシアには複数名のオメガが番になって大統領の別宅に住まわされているらしい。寵愛がなくなったら、番解除されて実家に帰らされたり、帰る家のない身分の低い人は娼館送りになったりと悲惨な運命が待っている。
RYOはもちろんロシア行きを望んでないし、ロシア側もスパイになったら困るので大統領の身近に外国人を入れたくなかった。
行方不明ということにして、大統領がロシアに帰国するまでRYOを匿うことが決まった。
RYOを国家が匿うと、大統領に知られた時に国同士の問題に発展しては困るため、民間で匿うことになった。国家機密費とロシアからのお詫び金で経費は支払われる。担当者としてオメガ問題に詳しいうちの事務所に白羽の矢が立った。
弁護とあまり関係がない仕事なので断ることもできたが、国に貸しを作るのは今後の仕事で有益なので引き受けることにしたと所長。
「それにRYO君も可哀想でしょ」
大統領が日本に滞在する1週間、RYOと雅司はホテルに潜伏することに決まった。
皇居に近い5つ星ホテルに2人は連れていかれた。1フロア貸し切りとなっており、別々の2人の寝室と、リビングルームの3室であった。外には民間のSPが常駐し、何かあったら駆けつけてくれることになっていた。
リビングルームのソファーに2人向かい合って座る。雅司は名刺をRYOに渡して挨拶する。
「林雅司と申します。鈴木幸子法律事務所で働いております。RYOさんの証人保護プログラムのお手伝いをさせていただきます」
RYOは渡された名刺をじっと見ている。
頼りなさそうな若造が来たと思ってるんだろうか、と無言のRYOに雅司は不安になるが、それを表情に出さないよう努めた。
RYOは色白の肌に綺麗な銀色の髪で、紫の瞳がキラキラしていた。
こんな綺麗な人を見たことがなかった。
雅司の母の沙雪も弟の怜太も美しいオメガだったが、美しさの質が違う。
「そんなに見られたら穴が開いちゃう」
RYOが笑う。なまめかしい笑み。
雅司が慌てる。
「ごめ……ん」
目をそらす。
「いいよ。運命の番なんだろ、俺たち」
雅司が、またRYOを見つめ直す。
「や……っぱり」
RYOがにやにやする。
「林さんって弁護士さん? 俺たち番っちゃう?」
「!!」
雅司はおろおろし、RYOが噴き出す。
「鈴木幸子法律事務所って知ってる。うちで働いてる子もたまにお世話になるよね。オメガの人権保護が専門なんでしょ。良心的な所だから、きっと給料安いよね。年収1千万切ってるでしょ。林さん、アルファなのに、何故もっと高収入な所で働かないの?」
「私は、母や弟がオメガで色々苦労してたから、そういう人を救いたくて」
「ふーん。俺さ、オメガ風俗のナンバーワンキャストなんだよね。一晩100万。ヒート時は倍の200万。今月15日勤務してるから、月1500万稼いでる。店と半々だから、自分の取り分は750万。借金は返し終わってるんだ。今はタワマンに住んでて、そこが月100万。家政婦も雇ってるし、衣装代とか結構かかるから、あまり余んない感じ。番ったらオメガってアルファと違って番以外の人とセックスするのすごい苦痛になるのよ。だから、林さんと番になるのなら風俗辞めなきゃなんないけど、月750万は林さん出せないよね」
雅司は唖然とする。
「はは、冗談。俺、今29歳だから、あと風俗で働けるのも10年くらいだよね。働けなくなったら番にしてもらおーかな」
RYOはにやにやしている。雅司は驚く。
「29歳?! 俺より5歳も年上?! 20歳そこそこしか見えない」
「誉め言葉として聞いておきます。オメガは若く見えるからね」
会話が途切れた。手持無沙汰の雅司は鞄から書類を取り出し読み始めた。RYOは部屋の中を探検する。2つのベッドルームを見比べて、「俺、こっちの広い方使うね。疲れたから夕食までちょっと昼寝するわ」
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