王城に閉じ込められていた令嬢は、運命の人に巡り合う

うみ

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忘れられない思い出――2

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 外に出た私は城下町に向かいました。

 ですが、私は甘かったのです。

 生まれた時から外に出たことのない私が知っているのは小説という美しく描かれた世界だけ。だからこそ、舐めていたのです。外の世界を。

 はじめは順調でした。のんびり気持ちいい風を浴びながら夜の街を歩くことができたのです。地図なんてものを用意しているはずもなく、当てずっぽうに運命に導かれて進む。そんな風にふらふらと歩いていると、私は云わば風俗街というところに入ってしまったのです。
 
 自分で言うのもあれですが、私は美少女でした。まぁ、第一王子の婚約者なので可愛いのは当たり前なのですが……。まぁ今、それはいいでしょう。

 そんな美少女……いえ、自分で美少女というのは恥ずかしいので、やはり私にしましょう。そんな私が風俗街を夜に歩くと、どうなるか。

 当たり前のように攫われました。本当に怖かったです。ナイフを突きつけられ連れ去られた時は本当に泣き出してしまいました。私はその後もグングンと細い道に連れていきます。

 けれど、そんなとき名前も知らぬ誰かが助けてくれたのです。

 わかるのは同じくらいの年齢の男の子ということだけ。そんな小さな男の子が大人を魔術と剣術を駆使して、バシバシと大人の集団を倒していったのです。 敵を全滅させるのにかかった時間は本当にあっという間でした。

 私は、助けに来てくれた驚きと連れ去られた恐怖と解放された喜びが頭の中に駆け巡り、立ち止まっていただけでした。

 ですが、男の子は直ぐに倒した後、その場を去ろうとするのです。私は思わず聞きました。

「どうして私を助けてくれたの?」

 今思えば、こんな言葉よりもまず先に「ありがとうございました」とお礼を言うべきだったのでしょう。けれど10歳の私はそんなことは考えられませんでした。

 男の子は私の質問を聞いて、さも当然のように言い切りました。

「……どうしてって? 困っている人を助けるのが強い男の役目だろ?」

 男の子はそれだけ言ってすごい勢いで立ち去っていきました。

 その後、私はその場に呆然と立ち尽くします。
 この時私は多分この男の子に惚れてしまいました。そう、男の子が私に言ったこの言葉は私の読んでいた小説の主人公がヒロインに言う言葉だったのです。

 私の人生ストーリーには主人公がいない。だから自力で外に出ました。けれど、どうやら私の人生ストーリーにも主人公はいたみたいです。 
 私はそんな風に心の中で思いました。

 もう一度、男の子が走り去ったほうを見ると、そこには季節外れの美しい鳥が空を飛び立っていました。


 あ、ちなみにこの後、こっぴどく叱られて、2か月間欲しいものが貰えなくなりました。
 いや……本当になんでこうなるんでしょうね。
 
 どうやら私の人生ストーリーは小説みたいに美しく理想的ではないみたいです。
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