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吸血

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 あれから月日が過ぎ、山積みの仕事が終盤に近づき、ロッドの住居が完成したのは、夏の暑い時期だった。店の完成までは、まだまだかかるが、冬になるまでには完成できるだろうと大工が言っていた。

「レイル様。今までありがとうございました」

 そう言ったロッドが屋敷の入り口で頭を下げた。これから、ロッドは新居に引っ越しするのだ。

「気にするな。俺のまいた種だし」

「そうです。レイル様の自業自得ですから、貴方が気にする必要はありません」

 グランデの相変わらずの毒舌に、泣きそうだ。それでも、グランデは随分明るくなった。氷の王子様から、粉雪の王子様位まで柔らかくなったと思う。

「そうですか! それなら、そうさせて頂きます」

 ロッドもグランデとよく一緒に俺をバカにする。元々は、誰にも優しい男の筈だったなのに、どうしてこうなったのだろう。髪の色も元の銀髪に戻っている。顔にあった傷も消えていた時は驚いたものだ。どうやら、これも魔法瓶の成せる技らしい。願った髪の色に変えられ、願った顔つきにもできるらしい。髪染めとタトゥーに近い感じだ。銀髪で整った顔つきの優しい男が、ニカっと笑う。それを見て、何人かのメイドさんが黄色い声を上げているのは聞こえなかった事にしよう。

「レイル様。後日、最高の武器をお持ちしますので、期待して待っていてくださいね」

 と笑顔で手を振って去っていくロッドを見つめた。

「俺、領主だよな」

「そうですね」

「なんだか、友達感が拭えないんだが」

「いいのではないですか。暗殺されるよりマシです」

「そうだな」

 そうグランデと話していると、太陽の光が目に入った。

「大分、暑いな」

「そうですか?」

「え? グランデ暑くないのか」

「夏用の執事服ですから」

「夏用とかあるんだ」

 グランデの着ている服を見る。春頃に着ていた服と違いがわからない。素材が通気性の良いものに変わっているのかも知れない。今まで俺は、グランデから貰った服とレイルの比較的装飾のない物を交互に着ていた。レイルのクローゼット中のもので、薄手で装飾のない物はなかった。このまま、どんどん暑くなるのは、正直困る。レイルの屋敷内は魔法瓶『アイスカーテン』が冷房として入っているので困らないが、外は別だ。熱中症とかにかかって死ぬエンドとかありそうで恐い。

「夏用でしたら発注しておきましたので、届きましたらお持ちしますよ」

 グランデの顔を見上げる。今、なんと言いました。嘘ではないですよね。

「本当に?」

「えぇ。随分、装飾の無いものを探していらしたので」

 神がここにいた。仕事が早くて助かる。だが、最近、少し困っていることがある。

「グランデ! ありがとう!」

「そうですか。それなら、褒美が欲しいものですね」

「ぐ……」

 最近、グランデは褒美を欲しがる。別にすごい物を欲しがったりするわけではないが……。内容が内容で困っている。

「な、何が欲しいって言うんだ」

「そんなに怯えないで頂きたいですね」

 前回は、俺に背中の筋肉が凝ったからとマッサージを所望してきやがった。その前は、肩たたきだった。頼まれた時、仕えるべき主人に願うのはなんだか違う気がしていたが、まぁ許せる範囲だと思って承諾したのが間違っていた。

 肩たたきをした時、下手くそだの力の入り方がダメだの散々言われた。それだけなら良かった。何を思ったのかグランデは、私が見本を見せると俺の肩を揉み出したのだ。これが、なんとも上手くて気持ちよかった。最高だったのは、認めよう。だが、こいつはなんと、急に俺の首筋に吸い付きやがったんだ。案の定、内出血と言う名のキスマークができていた。何しやがると怒ると、なんとなくしてみたかっただけだと言ってきた。それも真顔で言ってきやがったんだ。反応に困るだろう! 

 マッサージの時も、同じくマッサージをすれば、下手だと罵られ、見本を見せるとマッサージされた。最高に気持ち良かったのは、認めよう。だが、気づいた時には、背中の数箇所に内出血だ。こいつ、何がしたい。もしかして、好感度がMAXになったんだろうか。それにしては、毒舌のままだし、バカにしてくるし、地味に優しくない。まさか、吸血鬼にでもなって血が吸いたいとか言ってくるんじゃないかと怯えた時もあった。いや、流石にそれはないと考え直したが、二度ある事は三度あるということわざもある位だ。警戒するに越した事はない。
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