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グランデ・エトワールの視点『灰色』
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レイル様の部屋に戻って、怒鳴った事を謝った。常に、笑顔であるように努めた。失敗の無いように仕事をこなす。紛らわせる為に、忙しくしていても、苦しさは消えてくれない。かれこれ十日程寝る間も惜しんで、レイル様と仕事をし続けた。
処理の終わった書類を持って、廊下を出る。苦しみが段々と強くなってきていた。皆の前で笑顔の仮面をかぶり続けたせいなのか。気持ち悪い。体がふらつき、咄嗟に壁へ寄りかかった。なぜ、こうなった。どうすれば良かった。誰かに頼れば、良かったのか。だが、それをすれば私は完璧な私ではなくなる。兄よりも完璧にならなければ。
「大丈夫か」
背後からの声に振り返った。ライトだ。即座に笑顔を作る。誰にも知られてはならない。
「えぇ。大丈夫です。少し眩暈がしただけですから」
「そうか」
ライトは、分かってくれている。こういう時に私が、そっとして欲しい人間であるという事を。その為、彼は見て見ぬふりをしてくれる。
「もし、ダメだと思ったら、先生とこ行けよ」
「分かってます」
それで、終わり。互いに向かうべき所へ行くだけだ。
「あと、ほれ」
ライトが書類を差し出してくる。
「なんです?」
「落ちてた」
「申し訳ありません」
書類を受け取る。いつ、落としたのだろうか。
「じゃあな」
そう言ったライトが私を追い抜かしていってしまった。
書類を落とした事にも気づかないなんて、完璧になれていないという事だ。大丈夫。私なら、もっと頑張れる。そう思った時、世界は変わり始めていた。徐々に消えていく暖かな色。それでも、構わない。完璧になる為の犠牲に過ぎない。
この数日、やらなければならないことが沢山で時間が殆どなかった。レイル様と一緒に食事をとるのも、久しぶりだった。レイル様は、不安そうに何か俺に言う事はないかと言う。不安にさせたくなくて、笑顔を作り、何もないと言ったのに、レイル様は休んだ方がいいと言ってくる。だが、それはレイル様も一緒だ。ずっと一緒に仕事をし続けてきたのだから。私に時間を割くよりも、自分自身に時間をかけるべきだ。それでも、頑なに休めと彼は私を心配している。大丈夫だと、私は今以上に頑張れると彼に伝えた時、苦しみが消えた。
何も感じられない。何かが、壊れたのか。分からない。
その後、ライトがきて、いつもの雰囲気が戻ってきたのに、何も感じられなかった。あたたかさや優しさ、喜びも悲しみも怒りも何もかも。随分前から暖かな色は消えた。私が気付かない内に暗い色も消えてしまっていた。色を失った世界は、全てが灰色だった。いや、これでいいんだ。私はこれで、完璧なれたんだ。
あれ? 私はなんで、完璧になりたかったのだろうか。
処理の終わった書類を持って、廊下を出る。苦しみが段々と強くなってきていた。皆の前で笑顔の仮面をかぶり続けたせいなのか。気持ち悪い。体がふらつき、咄嗟に壁へ寄りかかった。なぜ、こうなった。どうすれば良かった。誰かに頼れば、良かったのか。だが、それをすれば私は完璧な私ではなくなる。兄よりも完璧にならなければ。
「大丈夫か」
背後からの声に振り返った。ライトだ。即座に笑顔を作る。誰にも知られてはならない。
「えぇ。大丈夫です。少し眩暈がしただけですから」
「そうか」
ライトは、分かってくれている。こういう時に私が、そっとして欲しい人間であるという事を。その為、彼は見て見ぬふりをしてくれる。
「もし、ダメだと思ったら、先生とこ行けよ」
「分かってます」
それで、終わり。互いに向かうべき所へ行くだけだ。
「あと、ほれ」
ライトが書類を差し出してくる。
「なんです?」
「落ちてた」
「申し訳ありません」
書類を受け取る。いつ、落としたのだろうか。
「じゃあな」
そう言ったライトが私を追い抜かしていってしまった。
書類を落とした事にも気づかないなんて、完璧になれていないという事だ。大丈夫。私なら、もっと頑張れる。そう思った時、世界は変わり始めていた。徐々に消えていく暖かな色。それでも、構わない。完璧になる為の犠牲に過ぎない。
この数日、やらなければならないことが沢山で時間が殆どなかった。レイル様と一緒に食事をとるのも、久しぶりだった。レイル様は、不安そうに何か俺に言う事はないかと言う。不安にさせたくなくて、笑顔を作り、何もないと言ったのに、レイル様は休んだ方がいいと言ってくる。だが、それはレイル様も一緒だ。ずっと一緒に仕事をし続けてきたのだから。私に時間を割くよりも、自分自身に時間をかけるべきだ。それでも、頑なに休めと彼は私を心配している。大丈夫だと、私は今以上に頑張れると彼に伝えた時、苦しみが消えた。
何も感じられない。何かが、壊れたのか。分からない。
その後、ライトがきて、いつもの雰囲気が戻ってきたのに、何も感じられなかった。あたたかさや優しさ、喜びも悲しみも怒りも何もかも。随分前から暖かな色は消えた。私が気付かない内に暗い色も消えてしまっていた。色を失った世界は、全てが灰色だった。いや、これでいいんだ。私はこれで、完璧なれたんだ。
あれ? 私はなんで、完璧になりたかったのだろうか。
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