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グランデ・エトワールの視点『ガンバラナケレバ』

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 消えてしまいたい。そう思う様になったのはいつからだろう。

 暗殺未遂事件でレイル様が首に傷を負った。ライトと私の力不足の所為で負わせた傷。治療を終え、包帯を巻かれたレイル様の首元を見ると胸が苦しくなる。あの時、兄の事で落ち込んでいなければ良かった。もっと護衛に時間をかければ良かった。もっと側にいれば良かった。もっと頑張れば良かった。そうすれば、彼は怪我をしないで済んだのに。私じゃなくて兄ならば、良かったのに。兄の言葉が今更になって、刃となって突き刺さる。使えない男。彼も、私でなければ良かったと思っただろう。すてられてしまうかもしれない。いらないって言われてしまう。不安で潰れてしまいそうだった。

 仕方がないと彼は言ってくれたのに、私は怒鳴り散らした。自身に嫌気がさして、イライラを彼に押し付けて、私はどうしたいのだ。驚き、悲しい顔をさせた。兄なら、そんな顔をさせたりしないだろう。もっと彼へ当たり散らしてしまわない様、逃げるように庭へと出た。

 溢れる思いに、潰されてしまう。苦しくて、どうすればいいのかわからない。ふらふらと綺麗に手入れされた花の中を歩く。少しでも、苦しさを紛らわせたくて、花を見た。花は綺麗だ。綺麗だと思うのに、心から感じられない。

 汚れて使えない私が見ていいものではない。彼に怒鳴った私を綺麗な花達は卑怯だと言っているように思えてしまう。消えてしまいたい。ふと、そう思った感情に賛同したくなった。腰に短剣がある。右手でそっと鞘に触れる。ゆっくりと鞘から、持ち手へと指を滑らせた。一瞬だ。鞘から抜いて、首へと一突きすれば、楽になれる。この思いからも、兄からもレイル様からも、彼からも。全てから。自由に……。

「エトワール様」

 声を掛けられて、バカな考えを振り切った。振り返るとそこには、庭師のデリックがいた。沢山の花の苗を持っている。

「顔色があまり良くありません。どうなさったんです?」

 デリックが私の顔を見て、不安そうな表情を浮かべている。

「いえ、何もありませんよ」

 笑顔を浮かべて、応答した。これで、大丈夫な筈だ。立場の上である私が、召使達を不安にさせてはならない。

「この老ぼれにまで、偽りを作らなくっても大丈夫ですよ」

「そんな事ありません。私はいつも通りです」

「そうですか」

 デリックは、花壇に持っていた苗を植え始めた。

「花は、美しいですが毒を持つ物もあります」

「はい?」

「野花でも美しいものもある」

 デリックが何を言いたいのか分からず、首を傾げる。

「見た目以上に内に秘めているものがあるということです」

「どう言う意味ですか」

「エトワール様、変えられない物あるかと思いますが、どうぞご自愛を」

「ありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですから」

 大丈夫。私なら、頑張れる。もっと頑張らなければ、すてられてしまう。兄以上に、ガンバラナケレバならない。

 苗植えの手を止めたデリックがある花へと指さした。

「これを見て下さい。この花は、常に日を見ている」

 その花は、日向の花。常に日を追い求め花を向ける花だ。

「この花のように、素直であるものもおりますよ」

「デリック」

「私もエトワール様も、誰かに頼っても大丈夫だったんです」

 誰かに頼る。誰にも頼れない。頼れば、兄より劣ってしまう。

「そうですね。私も誰かに頼ってみます」

 そう言って、また逃げるように屋敷に戻った。兄よりも頑張る。そうすれば、そばに居られる。
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