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医師の勘
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事件が解決してから、クリストに盛大に怒られた。首を少し切られた事。暗殺者を庇った事。剣に毒が塗られていたら、どうするつもりだったと、激怒していた。執務室の応接用のソファで治療を受ける。首の傷に、痛みの伴う消毒液を塗られて泣いた。心配させないでくれと首に包帯を巻いてくれた時は、さすがに申し訳ないと思った。
「ごめん」
「謝るな。謝るくらいなら、礼の一つくれるだけでいい」
「そうだな」
「よし! 終わった」
クリストがカバンに治療道具を仕舞っていくのを見つめる。
「あの二人は?」
「ライトは、軍議だって。グランデは、隣の部屋で待機して貰ってる」
「なぁ、エトワール殿だが……一人にしないでやってくれるか」
「え? どう言う事だ?」
「そのままの意味だ。孤独になれば、何をしでかすか分からないからな」
「何をって」
クリストは医者だ。その彼が、心配する程の事。その話の先を促そうとした時、扉がノックされた。
「終わりましたか?」
「終わった」
グランデの声に俺が反応する前に、クリストが返事を返してしまっていた。グランデが入ってくる。詳しく聞けなかった。
全て、仕舞い終わったクリストが立ち上がった。
「頼んだぞ。それじゃ、もう俺の手を煩わせるなよ」
「あぁ、ありがとう」
グランデと入れ替わる様に、クリストが出ていった。
ソファに座る俺の向かい側のソファにグランデが座ってきた。
そういえば、グランデと話したいことがあったのを思い出した。片付けが終わったら、話そうと言ったのは自分からだ。グランデの兄の事、家族の事が知りたかった。グランデの生い立ちをどう聞けば、疑われずに済むか。
「申し訳ありません」
俺が考え事をしていた内に、俺の顔を見ていた筈のグランデの視線が下へ落ちていた。
「どうして、謝る?」
「悲鳴が聞こえて来たものですから」
「あぁ、クリストが痛くなる消毒液を塗ってやるって、怒ってたからさ。ひどいよな。俺だって怪我をしたくてしたわけじゃないって言うのに……グランデ?」
いつもなら、自業自得だとか、それで済んだだけましだとか、言いそうなのに。グランデが、ぼんやりと俺の首元を見ている。巻かれた包帯は、それほど、痛々しく見えるのだろうか。
手をグランデの前で振ってみる。それで、やっと俺へと視線が戻ってきた。しかし、その瞳はいつもの輝きを宿していなかった。
「私とライトの所為です」
「え?」
「レイル様が、痛み苦しんだのも、護衛でありながら防げなかった私の所為です」
「グランデ、そんな事ない。あれは、仕方がない事だっ」
「違います!!」
突然の大きな声に、言葉を失った。あぁ、あの時と、同じだ。俺の驚きに、何かを堪える様に唇を噛みめたグランデを、俺は見ている事しかできなかった。
「申し訳、ありません」
そう言って、グランデは部屋を出て行ってしまった。しばらくの間、閉められた扉を見つめていた。俺は、何を間違えてしまったのだろう。それを聞きに行きたい相手は、もういない。
「ごめん」
「謝るな。謝るくらいなら、礼の一つくれるだけでいい」
「そうだな」
「よし! 終わった」
クリストがカバンに治療道具を仕舞っていくのを見つめる。
「あの二人は?」
「ライトは、軍議だって。グランデは、隣の部屋で待機して貰ってる」
「なぁ、エトワール殿だが……一人にしないでやってくれるか」
「え? どう言う事だ?」
「そのままの意味だ。孤独になれば、何をしでかすか分からないからな」
「何をって」
クリストは医者だ。その彼が、心配する程の事。その話の先を促そうとした時、扉がノックされた。
「終わりましたか?」
「終わった」
グランデの声に俺が反応する前に、クリストが返事を返してしまっていた。グランデが入ってくる。詳しく聞けなかった。
全て、仕舞い終わったクリストが立ち上がった。
「頼んだぞ。それじゃ、もう俺の手を煩わせるなよ」
「あぁ、ありがとう」
グランデと入れ替わる様に、クリストが出ていった。
ソファに座る俺の向かい側のソファにグランデが座ってきた。
そういえば、グランデと話したいことがあったのを思い出した。片付けが終わったら、話そうと言ったのは自分からだ。グランデの兄の事、家族の事が知りたかった。グランデの生い立ちをどう聞けば、疑われずに済むか。
「申し訳ありません」
俺が考え事をしていた内に、俺の顔を見ていた筈のグランデの視線が下へ落ちていた。
「どうして、謝る?」
「悲鳴が聞こえて来たものですから」
「あぁ、クリストが痛くなる消毒液を塗ってやるって、怒ってたからさ。ひどいよな。俺だって怪我をしたくてしたわけじゃないって言うのに……グランデ?」
いつもなら、自業自得だとか、それで済んだだけましだとか、言いそうなのに。グランデが、ぼんやりと俺の首元を見ている。巻かれた包帯は、それほど、痛々しく見えるのだろうか。
手をグランデの前で振ってみる。それで、やっと俺へと視線が戻ってきた。しかし、その瞳はいつもの輝きを宿していなかった。
「私とライトの所為です」
「え?」
「レイル様が、痛み苦しんだのも、護衛でありながら防げなかった私の所為です」
「グランデ、そんな事ない。あれは、仕方がない事だっ」
「違います!!」
突然の大きな声に、言葉を失った。あぁ、あの時と、同じだ。俺の驚きに、何かを堪える様に唇を噛みめたグランデを、俺は見ている事しかできなかった。
「申し訳、ありません」
そう言って、グランデは部屋を出て行ってしまった。しばらくの間、閉められた扉を見つめていた。俺は、何を間違えてしまったのだろう。それを聞きに行きたい相手は、もういない。
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