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優しい暖かさと現実

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 背中から、あたたかな何かを感じた。

「大丈夫ですよ。あの男が、そう簡単にやられる訳ありません」

 そっと抱きしめられ、耳元で囁かれた言葉にハッとした。虚無に堕ちていく俺をグランデが引っ張り上げてくれた。
 俯いていた顔を上げた時には、グランデは俺から離れ、ロッドに対峙していた。

「そうですね。レイル様が居なければ、多くの命が亡くならずに済んだのかもしれません」

「そうだ。あいつが居なければ」

「それ以上に多くの命が殺されていたかも知れません」

「な、に」

「レイル様のやり方には、多くの者が反対しています。ですが、ふせがれた戦や略奪もあります。レイル様の政略に、今の均衡が保たれているですよ」

「詭弁だ!!」

 ロッドがグランデに向かって切りかかってくる。グランデが長剣は狭い室内での戦闘は向かないと言っていたが、グランデの部屋はそれなりに広い。長剣を振れるだけの余裕はある。それに比べてグランデは、短剣だ。リーチや振り切るパワーも劣る。ハンデがありすぎる。グランデが、戦場で鬼神と呼ばれていたとしても、相手は殺しのプロ。勝てる確率は、低い。
 ここでグランデまで殺されてしまえば、俺の所為でまた大事な人が……。

「グランデ!!」

 勝負は一瞬で決着がついていた。ロッドが倒れ、長剣が天井に突き刺さっている。な、何が起こったというのだろう。見ていたはずなのに、理解が追いつかない。

「甘いです。そんな戦闘技術では、私には勝てませんよ」

「何故だ! 俺はこれまで何十人と殺してきたのに!!」

「そうですね。私は戦場で何千という人を殺めてきました。戦場は幾多の猛者もいましたし、対峙してきた数は数え切れません。それに、暗殺と戦場では戦い方が違います。相手と対峙する戦なら私の方が上ですね」

 鬼神、そう呼ばれたとグランデは言っていた……。これが、鬼神の強さと目にも映らない程の速さ。その動きに、ときめきを感じた。カッコ良くて、羨ましい。

「相手の剣を短剣で受け流し、間合いを一気に詰めて相手の武器を跳ね上げ、奪う。流石だな」

 この声に、どれだけホっとしたのだろう。皆の視線が部屋の入り口にあつまる。そこには、虎の魔ぐるみに寄りかかりながらも立つライトがいた。生きていた……良かった。

「無事でしたか。これは、貴方の油断が招いたものですか?」

「あぁ、霧の痺れ薬を盛られた。気付けなかった俺の所為だ」

 薬を仕掛けられていたのか。全く分からなかった。

「処遇は後で決めるとして。さぁ、どうしますかね」

 グランデが持つ短剣の先がロッドへと向かう。

「暗殺未遂だ。決まってんだろ」

 ライトの返答で、グランデが短剣を振り上げる。振り下ろされれば、ロッドは命を失うだろう。ロッドもそれを分かっているようで、諦めがちに俯いている。

 俺は、それで、いいのか……。考えるより先に体が先に動く。なぜだかわからない。それでも、この状況をどうにかしたいという思いで一杯だった。急いで、グランデとロッドの間に割り込んだ。

「れ、レイル様!」

「レイル様!!」

 グランデとライトの驚く声。馬鹿なことをしているのは分かっている。それでも、ここはこうするしかないのだ。

「待ってくれ! 確かにロッドは、俺の命を狙った。それは、何か……」

 理由があった筈だ……。その理由が知りたい。だが、それを俺が問う事はできない。理由を問うという事は俺がレイルではないと認めると同じだ。レイルならば知っている筈の情報を、知らないとは言えない。

 レイルだったら、どうしているのだろう。多分、いや、確実にロッドの処刑を止めたりしないだろう。だが、ロッドの人柄を知る俺は、このまま処刑なんてさせられない。まして、グランデの手を俺の意思で汚させたくない。俺は、行動で示すしかないのだ。

 両手を広げ、ロッドを背中に庇った。グランデの剣先が目の前にあるのに、全く恐怖を感じなかった。

「グランデ、お願いだ。殺さないで……」

 グランデの視線の先が俺から、後ろへと動いた瞬間、驚いていたグランデの表情が、焦りへと変わっていった。

「分かりましたから、早くこちらに!!」

 短剣の持たない手が差し伸ばされたが、俺に届く事はなかった。
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