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やさしさ時々異変
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立ち上がりたくても、震える足ではなかなか立ち上がれない。そんな俺にライトが差し出してくれた手に掴まりどうにか立ち上がった。ふらふらと歩き出した俺に、寄り添ってくれるライトに感謝した。道中、どのように屋敷へ帰ったのか、グランデの背中しか見ていなかった俺には、分からなかった。
屋敷に着いてから真っ直ぐに寝室へと戻り、ベッドに座った。
ゲームでグランデの過去は大体知って居るはずだった。グランデ・エトワールは、自ら家を出て兵士となった。兵士になり、武勲をあげ、今の地位に成り上がった。それだけだ。グランデに兄がいるとは知らなかった。その前の家族の事や、どう過ごしていたのか、描かれていない。だが、この世界のグランデは、明らかに過去を抱えて生きている。グランデと兄との間に何があったのか。それを知る術を俺は持っていない。レイルは、二人の関係を知っているのだろうか。
この鬱々とした思いをどうすればいいのか。俯いていると、トントンという音が部屋の中に響いた。
「レイル様。入ってもいいか」
ライトの声だ。いつもノックもせずに入ってくる男が、入室の許可を得ようとするなんて、なんだか可笑しく思う。
「あぁ」
扉を開けそっと入ってきたライトは、仮装から私服へと着替えていた。柔らかそうなシャツとズボンを着ている。
「大丈夫か」
「まぁ」
「すまない。あんな事になって」
「ライトの所為じゃない」
ライトが謝るなんておかしい。ライトは悪くない。グランデだって、そうだ。何も知らない俺が悪いんだ。
「その……グランデは?」
「部屋で休んでる筈だ」
「そうか……」
グランデのこと。ライトに聞いても大丈夫だろうか。踏み込んでいい領域ではない事はわかっている。それでも、何も知らないままでいるのは嫌だ。グランデの事、知りたい。
「ライト。グランデとお兄さんの間に何があったのか教えてくれないか」
「……俺から話す事は出来ない。グランデに直接聞いてみるしかない」
ライトの真面目な表情と言葉に、気持ちが沈む。今、グランデをそっとして置くのはダメだと何かが告げるように、不安が心を支配していく。レイルが教えてくれているのだろうか。
「そんな顔するなよ。俺が悪役みたいだろ……レイル様と家の事で兄貴とあまり仲良くなかったみたいだ。それ以上は話せない」
「ライト、ありがとう」
レイルと家の事でグランデは、兄と仲違いしていると言うことか。何があったのだろう。ライトはグランデに直接聞けというが、どうやって聞けばいいのだ。変に聞き出そうとすると、グランデの心の傷に塩を塗ってしまいそうだ。さて、どうすればいいか。
「なぁ、レイル様」
ライトがゆっくり歩いて、ベッドに座る俺の前と立った。さっきまでの真面目な表情と違い、穏やかな笑顔に胸が締め付けられる。
「ライト?」
差し出された左手に戸惑う。
「あんなことが無かったら、一緒に踊りたかったんだけど」
「踊る?」
祭会場の一部に躍る為の舞台が用意されていた。そこで、皆踊っていたのを思い出す。
「あぁ、こうやって」
ライトに手を引かれ立ち上がる。腰に回された右手、恋人の様に繋がれた左手にドキドキしてしまう。
「ま、待ってくれ! 俺、おど……」
危ない。踊れないなんて言える筈がない。レイルはよく夜会に出ていた。という事は、踊れて当たり前ということだ。だが、俺は踊った事なんてない。出来ないのに、どうすればこの現状を打破できるのだろう。
「久しぶりだからか? 心配するな。俺の動きに合わせれば大丈夫だ」
誘導されるまま右、左と足を踏み出す。ライトに全てを預け、体を揺らした。
「そう、うまいぞ」
「ライト、ありがとう」
ライトの優しさに触れ、胸の辺りがふわふわする。元気づけようとしてくれているライトに感謝してもしきれない。
「気にするな。疲れた時は、もっと寄りかかったって良いんだぜ」
「そうだな」
顔を見られない様に俯いた。俺は、色々と疲れている様だ。ポロポロと落ちていく涙を見ながら、ライトと緩やかに踊った。
踊っていた時間はそう長くなく、十五分程だった。それなのに、ふわふわとした感覚と身体が発熱しているのかあつい。風邪がぶり返ししてしまったのだろうか。一旦足を止め、ライトを見上げた。
「ライト?」
一緒に踊っていたはずのライトが視界から消えた。いや、そうじゃない。崩れ落ちていくライトを俺は見つめていた。時間がゆったりと流れているかの様に、ゆっくりとライトは倒れた。
屋敷に着いてから真っ直ぐに寝室へと戻り、ベッドに座った。
ゲームでグランデの過去は大体知って居るはずだった。グランデ・エトワールは、自ら家を出て兵士となった。兵士になり、武勲をあげ、今の地位に成り上がった。それだけだ。グランデに兄がいるとは知らなかった。その前の家族の事や、どう過ごしていたのか、描かれていない。だが、この世界のグランデは、明らかに過去を抱えて生きている。グランデと兄との間に何があったのか。それを知る術を俺は持っていない。レイルは、二人の関係を知っているのだろうか。
この鬱々とした思いをどうすればいいのか。俯いていると、トントンという音が部屋の中に響いた。
「レイル様。入ってもいいか」
ライトの声だ。いつもノックもせずに入ってくる男が、入室の許可を得ようとするなんて、なんだか可笑しく思う。
「あぁ」
扉を開けそっと入ってきたライトは、仮装から私服へと着替えていた。柔らかそうなシャツとズボンを着ている。
「大丈夫か」
「まぁ」
「すまない。あんな事になって」
「ライトの所為じゃない」
ライトが謝るなんておかしい。ライトは悪くない。グランデだって、そうだ。何も知らない俺が悪いんだ。
「その……グランデは?」
「部屋で休んでる筈だ」
「そうか……」
グランデのこと。ライトに聞いても大丈夫だろうか。踏み込んでいい領域ではない事はわかっている。それでも、何も知らないままでいるのは嫌だ。グランデの事、知りたい。
「ライト。グランデとお兄さんの間に何があったのか教えてくれないか」
「……俺から話す事は出来ない。グランデに直接聞いてみるしかない」
ライトの真面目な表情と言葉に、気持ちが沈む。今、グランデをそっとして置くのはダメだと何かが告げるように、不安が心を支配していく。レイルが教えてくれているのだろうか。
「そんな顔するなよ。俺が悪役みたいだろ……レイル様と家の事で兄貴とあまり仲良くなかったみたいだ。それ以上は話せない」
「ライト、ありがとう」
レイルと家の事でグランデは、兄と仲違いしていると言うことか。何があったのだろう。ライトはグランデに直接聞けというが、どうやって聞けばいいのだ。変に聞き出そうとすると、グランデの心の傷に塩を塗ってしまいそうだ。さて、どうすればいいか。
「なぁ、レイル様」
ライトがゆっくり歩いて、ベッドに座る俺の前と立った。さっきまでの真面目な表情と違い、穏やかな笑顔に胸が締め付けられる。
「ライト?」
差し出された左手に戸惑う。
「あんなことが無かったら、一緒に踊りたかったんだけど」
「踊る?」
祭会場の一部に躍る為の舞台が用意されていた。そこで、皆踊っていたのを思い出す。
「あぁ、こうやって」
ライトに手を引かれ立ち上がる。腰に回された右手、恋人の様に繋がれた左手にドキドキしてしまう。
「ま、待ってくれ! 俺、おど……」
危ない。踊れないなんて言える筈がない。レイルはよく夜会に出ていた。という事は、踊れて当たり前ということだ。だが、俺は踊った事なんてない。出来ないのに、どうすればこの現状を打破できるのだろう。
「久しぶりだからか? 心配するな。俺の動きに合わせれば大丈夫だ」
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「そう、うまいぞ」
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「そうだな」
顔を見られない様に俯いた。俺は、色々と疲れている様だ。ポロポロと落ちていく涙を見ながら、ライトと緩やかに踊った。
踊っていた時間はそう長くなく、十五分程だった。それなのに、ふわふわとした感覚と身体が発熱しているのかあつい。風邪がぶり返ししてしまったのだろうか。一旦足を止め、ライトを見上げた。
「ライト?」
一緒に踊っていたはずのライトが視界から消えた。いや、そうじゃない。崩れ落ちていくライトを俺は見つめていた。時間がゆったりと流れているかの様に、ゆっくりとライトは倒れた。
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