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やさしくして

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 少し落ち着いてから、ライトの胸から離れた。

「ごめん。その……」

 なんて言えばいいんだ。濡れたライトの胸は、艶々と輝いて鍛えられた筋肉が強調され、とても扇情的だ。

「心配すんな。レイル様の涙なら俺の皮膚も喜ぶってもんだ!」

「な! そんな筈ないだろ!! それよりも、何で裸なんだよ!」

「あぁ。これか? 暇だったから、鍛えてたんだ」

「そ、そうなのか……」

 うん? なんか変な気がするのだが……。鍛える為に脱ぐ必要ってあるのだろうか。

「そうだぜ。レイル様こそ、何で服のまま寝てんだ?」

「お、俺はその……面倒だったから」

「それなら、着替えしないとなぁ。領・主・様」

「え?」

 あっという間に押し倒されていた。ベッドの上で、ライトと話していたのが悪かった。ライトの顔が近づいてくる。蒼い瞳が肉食獣の様に輝き、舌が唇の間からチラリのぞき、上唇をゆっくりと舐める仕草に、お腹の奥が疼く。

「自分で脱ぐか? それとも、乱暴に脱がされたいか」

 低い声で囁かれ、身震いする。

「そ、そんな。俺、初めてなのに」

「初めて……か。それなら、尚更こんな服、脱がしてやりたくなる」

 ライトの両手が上着にかかったと思ったその瞬間、ボタンが弾け飛んだ。乱暴に引き千切られた布が、俺の体の周りに落ちた。グランデから貰った服だったのに……。

「俺の前で、他の男からもらった服なんて着るな。さぁ、次はどうする? シャツも引き千切られたいか?」

「ライト、お願いだ」

「なんだ?」

「優しくして、くれないか。本当に初めてなんだ」

「……分かった。甘く蕩かせてやる」

「あぁ!」

 ライトの手がシャツの裾から中へと入ってきた。するりと撫でられた肌のぞくぞくする感覚に、期待が高まってくる。

「初めてなのに、感じやすいんだな。可愛い」

 ライトの顔がさらに近づいてくる。キスってどんな感じなのだろう。どきどきと鳴り響く鼓動。熱く触れ合う肌。絡み合う視線に、恥ずかしくなって目を閉じた。

 だが、いつまで経ってもその感覚は訪れなかった。それだけではない。触れられる感覚や熱さもなくなっていった。



「レイル様?」

 ライトの顔が目の前にあるとても心配そうだ。

「あ、俺」

「大丈夫か? 急に黙り込んで」

 また、夢? あの夢は、確か主人公が、グランデ・ライトルートで二人の好感度が同率で上がっていると起こるイベント。グランデから送られた服を着て、夜ライトに会いに行くと起きるイベントで、ライトの嫉妬が見られると妹がはしゃいでいたっけ。どうして、レイルじゃない。主人公の夢ばかり見るのだろう。この体はレイルのものなのに……。

「俺、いつ黙り込んでたんだ」

「いつって、何で服を着たまま寝てんだって聞いた所だが」

 ということは、まるまる夢を見ていたということか……。

「それよりも、ほら。入ってこいって」

「え?」

 いつの間にか、ライトは俺のベッドで横になり、敷き布団をトントンと叩いている。その場所はどう見ても、ライトの真隣だ。添い寝ってやつだ。

「な! お、俺は一人で寝る!!」

「なに言ってんだ。最近はご無沙汰だったが、いつも一緒に寝てただろ」

 レイルが一緒に寝ていたとしても、俺は付き合ってもいないのに、他人と床を一緒にしたいとは思わない。だが、レイルの想いの所為か、ときめきが止まらない。上半身裸のライトがカッコよく、艶かしく見えてしまう。

「いや、でも!」

「いいから、来いよ。抱きしめてやる」

 ライトの手が伸びてきて、ぐっと引き寄せられる。

「お、俺、着替えないと!」

「今更過ぎだろ。上着と、ズボン脱げば寝れる」

 ライトの視線が上から下へと往復する。レイルのシャツは絹のような材質を使って作られている様で、そのままでも寝れなくは無いだろうが……。シャツと下着で寝ろというライトの言葉を、そのまま鵜呑みにはできない。襲われる恐れがある。

「それは……だって俺」

「寒いから、早くしろよ。それとも、脱がして欲しいのか」

 脱がして欲しいのかという言葉が何となく、ねっとりとしている様に思えてならない。夢で出てきた言葉に近いだけあって、この先が怖い。震える両手を握りしめる。

「わ、分かった! 脱げば良いんだろ!」

 潔く上着を脱ぎ捨て、ズボンを掴む。流石に、ズボンを脱ぐのは勇気がいる。ライトの視線がある中で、脱ぐのは恥ずかしい。

「どうした。やめるのか」

 煽られ、怒りに火がついた。黙ったままズボンを脱ぎ捨てる。何だろう、頬が熱くてたまらない。

「ほら、また風邪ひくぜ」

 ライトの言葉に従った訳ではない。両足を早く隠したくて、捲られた掛け布団の中に潜り込む。ライトの側だが、少し間を開けて横になった。ライトの顔が近くて、背を向ける。

 胴に何か回り、ライトの方へと引き寄せられ、背中全部に熱い何かが触れてきた。頭の下にも少し硬めだが柔らかく温かなものがある。ライトに抱きしめられている事に気づき、体が震えた。それが、恐怖からなのか、期待なのかは分からない。

「心配するな。獲って食いやしない。安心して寝ろ」

 優しく囁やかれ、頭を撫でられる感覚に、段々と力が抜けていく。安心してもいいのだろうか。慣れない生活から始まり、グランデに責められ、体調を崩して、命を狙われて、また責められて苦しかった心が癒される。

 枯れていた涙が、ほろほろと溢れてライトの腕を濡らした。

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