上 下
53 / 97
1

氷の刃

しおりを挟む
 グランデが振り返った時、氷の王子様が降臨していた。久しぶりの氷の王子様に背筋が伸びる。

「レイル様」

「はい!!」

「庭で待っていて下さいと言いませんでしたか?」

「はい」

「分かっているんですか? 貴方は暗殺されそうになったんですよ」

「分かっています……」

「いえ、貴方は全然分かっていません。命が狙われているというのに、一人で屋敷内を歩き回って、私達の苦労を分かっているのですか」

「分かってるって」

 段々と、強くなっていく言葉が刃の様に突き刺さる。

「これだから、貴方という人は肯定ばかりで話を聞かない。貴方の命を守る人達の思いってものを知ろうとする努力を少しでもしたらどうですか?」

「……するから」

 そう呟き、俯いた。グランデの顔を見ていられなかった。俺を射抜く冷たい瞳に全て凍らされてしまいそうだ。

「から、なんですか? そうやって、自分の都合の悪い話を直ぐに終わろうとするのは、どうかと思いますが」

「おい、グランデ。そう、いじめんなって」

 ライトの優しい声が聞こえてくるが、震えが止まらない。

「いじめてなんかいません。これは」

「もう、分かったって!!」

 もう、声を抑えられなかった。分かっているんだ。グランデやライト、色んな人達に助けれて俺は生かされているって。それでも、それでも、俺は!!

「れ、レイル様!!」

「おい!」

 持っていたカゴを廊下に叩きつけて、駆け出す。もう、誰にも会いたくない。一人になりたい。階段を駆け上がり、レイルの寝室に入り鍵を内側からかけた。

 扉を背に、力無く座り込む。怒り、悲しみ、切ない、苦しい。心の中はそんなモノでぐちゃぐちゃだ。なんでこんなにも、辛いのだろう。普通、異世界に転生とか転移とかした主人公は、チートの能力とか、世界最強の力を持っているんじゃないのか。そして、面白おかしく異世界生活を送るんじゃないのか。此処に来て、分からない事ばかりなのに、冷たくされて、体調を崩して、毒殺されそうになって、やっと何もかも好調になって来たと思ったのにまた怒られてしまった。俺の所為だって事は分かっているんだ。グランデの言いたい事も理解している。あの時、勝手な事をしないで、あの場で待って居れば良かった。

 帰りたい。元の俺に戻りたい。何もない日々がこんなにも平和で幸せだったなんて知りもしなかった。

 溢れる涙に濡れた両手を持ち上げ、手のひらを見てみる。綺麗な雪程に真っ白な手ひらの中には、何もない。傷とあかぎれの指をもつ俺の手はどこにあるのだろう。

 もう、疲れた……ダメかもしれない……。

 止まらない涙と叫びは部屋に満ちていく様に思えた。ずっと続くと思った涙も、だんだんと枯れて、少しずつ落ち着いてきた。それでも、胸の中に巣食う痛みは消えない。

 ゆっくりと立ち上がり、ノソノソと歩いてベッドへと向かう。綺麗に整えられた布団中へと潜り込んだ。着替えるのも億劫で、そのまま体を横たえる。ふわふわの布団に誘われて、眠りへと落ちていく。お願いだ……もう、目覚めないで。そう願って意識を手放した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...