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キエナ・ビートルとの接触

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 調理室から、大きなカゴを両手に抱えて庭へ急いで戻ろうとしていた。二種類の料理をしていた為、軽く一、二時間掛かってしまった。グランデが庭に居たらどうしよう。絶対、凍らされる!!

 焦りとカゴの中の料理が傾いてしまわないかと、注意が散漫になって居たせいだろう。勢い良く、何かにぶつかった。

「わぁ!!」

 それは、柔らかくもがっしりとしていたらしく、反動を受けたのは俺だけだった。尻餅をつくという恐怖よりも、料理が崩れてしまうという恐怖が優った。グランデへのご機嫌取りの料理が!! と思ったのは墓場まで持っていくつもりだ。

「大丈夫ですか!?」

 ぶつかった相手にがっしりと腕を腰に回されて、抱き止められていた。料理も床に落とさずに済んだ。

「すみませ……!!」

 驚いた。なんで、キエナ・ビートルがレイルの屋敷にいるんだ! キエナ・ビートルは、レイルに片想いをしている男だった。確か、グランデ・ライトルートで主人公を撲殺しようとし、失敗したレイルは領地を追放されてしまう。それを意気揚々とキエナが迎え入れた。その後、敵国侵略され敵国捕虜エンドとなるんだ。それはそれは、死を受け入れたくなる程の最低最悪のエンドだ。キエナに性奴隷並の扱いを受け、敵国が侵略した時は、敵国に許しを乞う為の貢物として、捧げられ捕虜となる。捕虜にされてからも輪姦され、心が壊れたレイルはその後、娼館に売られて、誰だか分からない人から病気をうつされてしまう。しかし、それでも娼館のオーナーに客を取らされ続ける。そんなある時、客から暴力を受けてやっと死を迎えられた。そのエンドを見た妹も流石に可哀想だと言っていたっけ。いや、妹の事よりもこの状況は最悪だ。もしかして、このまま敵国捕虜エンドに行くって事ないよな。絶対嫌だ!!

「あれ? レイ! 来てくれたんだね」

 奴の左手が伸びてきて、頬を摩られ、顎先を摘まれる。親指に唇をなぞられる度にゾワゾワした何かが湧き上がってくる。近づく奴の顔にこのまま流されるのは危険だと判断したのに、体が動かない。不安で呼吸が荒くなってく、乱れていく脈に、このままだと過呼吸を起こしてしまいそうだと思った。

「やっぱり僕達は、繋がる運命なんだね。心も体も」

「そんな馬鹿げた運命、私が細切れに断ち切ってあげます」

「いや、俺が引き裂いてやる」

 何かに引っ張られ、気がついた時にはライトの腕の中だった。見上げると、綺麗な蒼と視線がぶつかった。少し口角が上がり、目尻が下がったライトの表情はとても穏やかだった。そんな表情は反則だ。未だに呼吸や脈も荒いのに、感じていた不安がなくなった。ただ、頬が熱くなっていく。

「ライト、その……ありがとう」

「おう。レイル様、大丈夫だったか? 顔が真っ赤だぞ」

「だ、大丈夫だ」

くそ、レイルの身体の所為だ。絶対そうに違いない!

「ライト、レイル様を離しなさい。困っているじゃないですか」

その声の方を見ると、グランデが俺を隠す様に、キエナの前に立ち塞がっていた。その後ろ姿は、とても凛々しく逞しい。くそ、カッコイイ……胸が苦しい。

「ぐ、グランデ。その……」

「レイ~。邪魔者は下げさせて、二人で話をしようよ」

 謝りたかったのに、キエナの野郎邪魔してきやがった。睨みつけてやろうと思ったのに、グランデの背中が広すぎてキエナが見えない。

「大変、申し訳ありません。当主は急用が入りましたので、速やかにお帰り下さい」

「ぐ!! わかった。日を改めてまた来る」

 何が起こったのか知りたくて、ライトの腕の中から抜け出し、グランデの背から少しだけ顔出して覗きみる。キエナの表情が、強張り真っ青になっていた。グランデの表情は見えない為、何が起きているのか分からないが、これはまずい気がする。グランデに押し出される様に、キエナは屋敷を出て行った。取り敢えず、敵国捕虜エンドには行かないで済んだようだ。最悪のエンドを回避して良かったと思った俺は甘かった。
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