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ジェット・バナードの料理が出来上がりました

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 彼の笑みが父と笑みと重なる。まるで父が許してくれたように思えた。それよりも、なんだか周りの視線を感じる。

「レイル様が謝ってくださると思っても見なかったにょ。優しくなられて、なんだか……人が違」

「何を言っている!! 俺はそ、その……優しくなんてない!」

 段々と周りが何事だと、視線を向けてくる。バレる! このままではバレてしまう! 自分が明らかに可笑しな事を言っているのは分かっているが、上手い言い訳が思い付かない。もう、押し通すしかない。 

「そ、そうですかにょ」

「そうなんだ! それよりも、お菓子の事だよ! 教えてくれないのか?」

「わかりましたにょ。てぇりやきの事を詳しく教えて頂ければ、お菓子はお教えしますにょ」

「よし! 今すぐ、頼む。お前ら! 見てんじゃねぇ!! 仕事しろ!!」

 俺の怒鳴り声で皆瞬時に仕事に戻ったが、コソコソと声が聞こえてくる。「一喝だけで許してくれるなんて、柔らかになられた」「怒鳴り声も、以前よりも穏やかだ」「何というか、愛らしさがある」等と聞こえてくる。

 くそ、舐められている様に思えてならない。特に最後の一言、愛らしいとはなんだ! 表情に怒りを表しているというのに、なんでなんだ!

「レイル様、ご指導の程、宜しくお願い致しますにょ」

 怒っている俺の目の前で、方言のコックが頭を下げてきた。

「あ、こちらこそ宜しく頼む」

 ついついやってしまう癖だ。日本人の悪い癖。相手が頭を下げると自らも何故か下げたくなる。やってしまってから、盛大に後悔した。

「レイル様が、二回も頭を下げられたぞ!」「天変地異の前触れか!」「そのお姿も愛らしい」等と、周囲の小声が聞こえてくる。

「良い加減に、真面目にやれ!」

 怒鳴っているのに、何故だか周りの雰囲気が、和やかになっていく。この調子ではいずれバレてしまいそうだ。バレないように、癖を直さないとならない。それを思うと苦労しそうだ。ふぅと、ため息を吐いた。



 あれから、俺は照り焼きのソースの作り方をジェットに伝授し、ジェットに教わりながらお菓子を作った。ジェット・バナード、それが方言を話す彼の名前だ。ジェット・バナードはBL版のゲームでは出てきていないが、全年齢版で名前だけ登場したキャラクターだ。俗にいう、モブという存在。彼は主人公の領地内で料理店をしていた。料理店には入ると、料理の選択肢が出てくる。その中から、一つ選択すると、『ジェット・バナードの料理が出来上がりました』という言葉と共に料理系回復アイテムが手に入る仕組みだった。ゲームの中で戦に出陣する時にはいつもジェットに、世話になっていたという事だ。

 ジェットは、料理長という調理室の中で偉い立場の人間だった。そんな男から、教わった料理は紅茶のシフォンケーキと葡萄酒で漬けた苺を使ったパイだ。
 
 ジェットが言うにはグランデは紅茶の物であれば、何でも好き。ライトは、酒と実は果物も好きだという。大きめのカゴの中にシフォンケーキと苺パイを入れ、ジェットに礼を言い、賑やかになりつつある調理室を早々に出た。

 二人は、喜んでくれるだろうか。この時、初めてレイルの体の想いと自身の思いが一致した様な気がした。

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