死にゲーの世界のキャラに憑依したと思ったら、BL版の世界でした。 ~最悪領主になりきろうとしたが、日本人気質の所為でばれそうです~

番傘と折りたたみ傘

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傷の男の特徴

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「そんな話よりも、毒を注射してきた奴、見たか?」

 クリストの言葉に、身震いした。あの男は誰だったんだ。恐怖でさっとしか顔を見れなかったのを悔やんだ。

「茶色で短い髪だった。この中の誰よりも長身でガタイの良い大男で、右頬にある二つの引っ掻き傷が印象的だった。後は、恐かったからよく見えなかった」

「短髪で茶色の大男か。レイル様、見覚えはあるのか?」

「見た事ない。あ、後……剣を持っていた」

「剣だと」

 クリストと俺の話の間に割って入ってきたのはライトだった。

「そ、そう。この位長い剣だった」

 両手を一杯に広げて長さを表現した。それを見たライトが右手を顎に当て目を細めた。

「長剣か……屋敷内で、帯剣を許されている者は俺とグランデだけだ」

 ライトの言葉に二人の腰辺りを見るが、剣を持っている様子はない。特に、グランデの腰回りを見ていた所為か、グランデがふわりと笑った。

「持っていたとしても、大っぴらにぶら下げて歩いたりしません。皆を怖がらせるだけですから」

 そう言ったグランデが背中の方から短剣を取り出してきた。翡翠色の鞘から抜かれた刀身は綺麗に手入れされている様で、キラキラと輝いている。

「屋敷内くらいの狭さなら、小さな方が対処しやすいからな」

 グランデに続いてライトが取り出した短剣は、緋色の鞘だった。刀身もグランデの短剣に負けない位に、手入れされている様だ。

「それじゃ、なんで長剣なんて……」

 理にかなっていない長剣を持って歩く理由って何なんだ。

「ただの馬鹿か、もしくは」

 ライトの言葉に続いて、グランデが答えを出していた。

「レイル様を怖がらせたかったのかも知れません」

「怖がらせる?」

 グランデへの疑問に答えたのはクリストだった。

「怯えさせて確実に毒殺する為かと」

 怯えさせる。それは、見事に成功した。俺はあの時、ギラリと光った長剣に怯えた。傷の男の思う壺にハマったという訳だ。

「それに剣で断ち切れば、大きく証拠が残ってしまうし、血塗れで屋敷内を歩き回る訳にはいかない。それに比べて毒殺ならそう簡単に容疑者を割り出せないと踏んだ可能性があります」

 そうすることで、確実な復讐を遂げようとしたのだ。だが、それは失敗に終わった。果たして、あの男はこれで諦めてくれるのだろうか。いや、それは浅はかな考えに過ぎない。それに、あの男は言っていた。

「何故、生きてるんだ」「くそ、手を汚さずにいきたかったが」

 この二つの言葉から推測できる事。それは、一度、仕組んだ何かで殺そうとしたが何かしらの事で出来なかった。その為、自らの手で殺すことになったと言う事だ。一度失敗し、二度目もしくじった。そんな奴が諦めるなんてある筈がない。次こそは、あの長剣で首を断ち切られてしまうかもしれない。そう考えると、寒気がし、震える体を両手で摩った。一人になりたくない。

「これからは、護衛をつける事にします」

 ぼんやりと考え事をしていた所為か。俺の顔を覗く様に、グランデの顔が近くにあって驚いた。俺の考えを見透す様な視線に、戸惑う。
いや、そんな事よりも、グランデは今なんて言った? 確か、護衛と言った気がした。護衛が付くと言うことは、一人になる事がなくなると言う事だ。少し不便になるかもしれないが、命の安全や心の安定には代えられない。

「わかった」

「……分かって頂けて嬉しい限りです。それでは、今日の所はゆっくり休んで下さい。後で、食事をお持ちします」

 グランデの言葉で、皆が部屋を出て行こうとしている。一人になってしまうのか。俺がゆっくり休める様に、皆部屋を出て行こうとしているのは、わかるのだが……。

「あ! もう、行っちゃうのか?」

 怖かった。また、あの茶髪の男が来るんじゃないかって、不安でたまらない。誰でもいいから側に居て欲しい。

「俺たちがいると、ゆっくり寝れないだろ」

 ライトがベッドに横になる様、俺の肩をそっと押して促してくる。それに従い横になると、グランデが布団を掛けてくれた。

「大丈夫ですよ。ちゃんと近くにいますから」

 居てくれるのは、分かっている。それでも……俺は……。

「寂しんだろ。一緒に居てやれよ」

 俺の気持ちを代弁してくれたのは、クリストだった。

「「は?」」

 グランデとライトの声が重ねる。

「一人の時に恐い目にあったんだろ? 一人が怖くなる事だってある」

 眼鏡越しのクリストの瞳に優しさを感じた。その視線に、頬が熱くなり恥ずかしく思った。

「……そうだよな。分かった。レイル様が寝付くまで居てやるよ」

 ライトの手に頭を撫でられる。俺、ライトに撫でられるの好きかもしれない。いや、俺じゃなくて、レイルが嬉しいんだ! 握られる感触に目を向けると、右手がグランデの両手に包まれていた。

「側にいます。ゆっくり、休んで下さい」
 
 グランデの微笑みが不安で一杯だった心を優しく解いてくれた。撫でられ、優しく温かな体温に、思考も体も眠りへと導かれる。

「おやすみなさい」

 誰の言葉か分からないが優しいその声に安心して、俺は眠りへと落ちて行った。
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