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煽るとは
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うつ伏せの状態のまま、少し体を捻り背後を見ると、クリストが何かの瓶とタオルを持っていた。
「どうした?」
「な、何をした?」
「何って、体を拭いてから保湿の薬を塗るついでに、筋肉を解してやっただけだが? 長い間、横になっていたから気持ち良かっただろ?」
「あ、うん」
え? 今のって、夢? また、白昼夢というやつだろうか。まさか、俺欲求不満なのか?
今のは……確か、主人公がクリストの攻略ルートにいった時に出てくる場面だ。媚薬を盛られた主人公をクリストが、診察すると偽って悪戯するというイベント。
「それにしても、いつもの下品な声と違って、可愛い啼き声だった。もっと泣かしたい位だ」
そんな言葉を吐いたクリストから弱った身体に鞭打って全力で這い、ベッドヘッド付近まで逃げた。偉いぞ俺、よく逃げれた! こいつの笑った顔、確実にやってきそうで怖い。
「心配するな。そろそろ呼ばないと心配性の奴らがいるからな」
クリストがこっちに来いというように、手招きしている。手招きしていない反対の手に、替えの寝間着らしきものが握られていた。恐々、手を伸ばすと寝巻きを渡してくれた。マッサージしてくれたおかげか、体を動かすのも苦にならなくなった。クリストの目の前で着替えるのも恥ずかしいので、掛け布団の中で着替える。
「二人って、グランデとライトの事?」
まさか、二人に限って心配性である筈がない。彼らは戦で、レイルを近くで守るどころか前戦に駆けていく奴等だ。まぁ、レイル自身も戦場のど真ん中に駆けていく男だから、仕方がなく戦場に繰り出していたのかもしれない。
「そうに決まってんだろ。全く、大事ならちゃんと守れってんだ」
大事? 果たして彼らはレイルの事を大事だと思ってくれているのだろうか。領民に対して、暴虐を繰り返す領主を大事にしたいなんて思える筈がない。それなら、二人の大事にしたい人って誰なんだ?
「誰を?」
「はぁ! そんなこと言ってると、自覚させるぞ」
間近に迫るクリストの顔が怖い。メガネ越しに見える水色の瞳がギラギラし、嘘は言わないと言っている様で背筋がゾクゾクとした。これは、恐怖から来るものだ! 間違いないと、自分に言い聞かせた。
「すみません」
無意識の内に謝っていた。何も悪いことしていないのに、謝ってしまうのは、和が乱れるのを嫌う日本人の悪い癖だ。そんな俺を間近で何も言わず見つめてくるクリストが怖い。何を思って、じっと俺を見てくるのだろう。どうすれば良いのか分からなくて、少し首を傾げた。
「はぁぁ……いいか。悪い事は言わない」
「へ?」
「男を煽る様な事をするな。分かったか?」
煽る? いつ、俺が煽ったと言うのだ。怪しむ視線をクリストに向けた。
「その顔……無自覚か」
「無自覚って何だよ」
俺の答えを聞いたクリストが盛大にため息を吐いてきた。何だか馬鹿にされている様でムカつく。
「まぁ、良い。苦労するのは奴らだ。だがな……」
苦労? 奴ら? 誰が苦労すると言うのだ。よく分からない言葉を言われて混乱しそうだ。
「何か、困ったことがあれば俺に言え。俺に出来ることなら、手伝ってやる」
「え、おう。ありがとう」
クリストの優しい笑みを見るのは、珍しい出来事の一つだ。ゲーム内でもSっ気たっぷりのクリストがここまで優しく微笑んだ所を見る事はなかなかない。ニタリと意地悪く笑ったりする事は多いが、偽りのない優しい笑みは奇跡に近い。それ故に、微笑みの絵があるイベントは腐女子が意地でも起こしたがるイベントだった。
「なるほどな……少し、わかった気がする」
「何が?」
「教えない。自分で考えろ」
そう言ったクリストは俺の髪の毛をぐちゃぐちゃに撫で回してから、ベッドから離れ、扉に向かって行ってしまった。
「どうした?」
「な、何をした?」
「何って、体を拭いてから保湿の薬を塗るついでに、筋肉を解してやっただけだが? 長い間、横になっていたから気持ち良かっただろ?」
「あ、うん」
え? 今のって、夢? また、白昼夢というやつだろうか。まさか、俺欲求不満なのか?
今のは……確か、主人公がクリストの攻略ルートにいった時に出てくる場面だ。媚薬を盛られた主人公をクリストが、診察すると偽って悪戯するというイベント。
「それにしても、いつもの下品な声と違って、可愛い啼き声だった。もっと泣かしたい位だ」
そんな言葉を吐いたクリストから弱った身体に鞭打って全力で這い、ベッドヘッド付近まで逃げた。偉いぞ俺、よく逃げれた! こいつの笑った顔、確実にやってきそうで怖い。
「心配するな。そろそろ呼ばないと心配性の奴らがいるからな」
クリストがこっちに来いというように、手招きしている。手招きしていない反対の手に、替えの寝間着らしきものが握られていた。恐々、手を伸ばすと寝巻きを渡してくれた。マッサージしてくれたおかげか、体を動かすのも苦にならなくなった。クリストの目の前で着替えるのも恥ずかしいので、掛け布団の中で着替える。
「二人って、グランデとライトの事?」
まさか、二人に限って心配性である筈がない。彼らは戦で、レイルを近くで守るどころか前戦に駆けていく奴等だ。まぁ、レイル自身も戦場のど真ん中に駆けていく男だから、仕方がなく戦場に繰り出していたのかもしれない。
「そうに決まってんだろ。全く、大事ならちゃんと守れってんだ」
大事? 果たして彼らはレイルの事を大事だと思ってくれているのだろうか。領民に対して、暴虐を繰り返す領主を大事にしたいなんて思える筈がない。それなら、二人の大事にしたい人って誰なんだ?
「誰を?」
「はぁ! そんなこと言ってると、自覚させるぞ」
間近に迫るクリストの顔が怖い。メガネ越しに見える水色の瞳がギラギラし、嘘は言わないと言っている様で背筋がゾクゾクとした。これは、恐怖から来るものだ! 間違いないと、自分に言い聞かせた。
「すみません」
無意識の内に謝っていた。何も悪いことしていないのに、謝ってしまうのは、和が乱れるのを嫌う日本人の悪い癖だ。そんな俺を間近で何も言わず見つめてくるクリストが怖い。何を思って、じっと俺を見てくるのだろう。どうすれば良いのか分からなくて、少し首を傾げた。
「はぁぁ……いいか。悪い事は言わない」
「へ?」
「男を煽る様な事をするな。分かったか?」
煽る? いつ、俺が煽ったと言うのだ。怪しむ視線をクリストに向けた。
「その顔……無自覚か」
「無自覚って何だよ」
俺の答えを聞いたクリストが盛大にため息を吐いてきた。何だか馬鹿にされている様でムカつく。
「まぁ、良い。苦労するのは奴らだ。だがな……」
苦労? 奴ら? 誰が苦労すると言うのだ。よく分からない言葉を言われて混乱しそうだ。
「何か、困ったことがあれば俺に言え。俺に出来ることなら、手伝ってやる」
「え、おう。ありがとう」
クリストの優しい笑みを見るのは、珍しい出来事の一つだ。ゲーム内でもSっ気たっぷりのクリストがここまで優しく微笑んだ所を見る事はなかなかない。ニタリと意地悪く笑ったりする事は多いが、偽りのない優しい笑みは奇跡に近い。それ故に、微笑みの絵があるイベントは腐女子が意地でも起こしたがるイベントだった。
「なるほどな……少し、わかった気がする」
「何が?」
「教えない。自分で考えろ」
そう言ったクリストは俺の髪の毛をぐちゃぐちゃに撫で回してから、ベッドから離れ、扉に向かって行ってしまった。
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