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狂人? 鬼神? 蝶? 猫?

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 額に温かみを感じる。そっと撫でられる感覚に、ほっとした。この優しい感情を手放したくない。そう思った時、離れていく温もりを失いたくなくて、手を伸ばした。

「行かないで!」

 何かを掴んだ感覚に、眼を開けてみるとそこには、目を丸くしたライトがいた。

「レ、レイル様……」

「ライト?」

「お、起きたんだな」

 掴んだものはライトの右手首だった。ライトの左手が伸びてきて俺の手を包んだ。

「どこにも行かない。だから……」

 段々と消えていく言葉は、どこか切なくて続きを要求できる雰囲気ではなかった。苦しげな瞳を隠す様に、口角を上げて笑っているのは何故なのだろう。

「泣かないで……」

 泣いてもいない相手に、泣かないで欲しいと思ったのは何故なんだろうか。締めつけられる様なこの胸の痛みは誰のものだ。

「泣いてなんかいないさ」

「そうですよ。狂人が泣くわけありません」

 声の方を向くと、丁度部屋の扉からグランデが入ってくる所だった。グランデが来た事に気づいたライトの表情がおちゃらける時の表情へと変わってしまった。

「鬼神に言われるとは思わなかったぜ」

「狂人? 鬼神? どう言う……」

 危ない。少しぼやけた思考の所為で、分かりません発言してしまう所だった。いや、少し遅かったかもしれない。二人の視線が俺に突き刺さる。通り名なんて、ゲームの設定では無かった。

「何を言ってるんです? 戦場での通り名じゃないですか。ライトは馬鹿みたいに笑いながら、殺戮を繰り返していたから狂人って呼ばれているんです」

 そう言って、グランデが俺の額に右手をあててきた。小声で「大丈夫そうですね」言うと、キリッとしていた表情をくしゃっと崩し笑っている。

「え?」

 教えてくれるとは思ってもいなかった。疑われると思っていたのに、拍子抜けしてしまう。笑いながら、殺戮って……。優しく笑うライトを見てドキドキする意味って、もしかして……恐怖からくるものなのだろうか。

「そうそう。グランデは、冷酷で無慈悲に無表情で殺し回っていたから鬼神なんて呼ばれているんだよな」

 冷酷、無慈悲、無表情。グランデに合っていそうな通り名だ。ライトは、グランデの冷たい視線を受けて、何故平気いられるのだろう。

「それに比べて、レイル様の通り名は残念だよなぁ」

「そうですね。どうして、あんな通り名がついたのか。謎ですね」

えー!! レイルにも通り名があったのか! 知らないって! レイルは、なんて呼ばれていたんだよ!!

「そ、そうだな。俺も……何であんな風に呼ばれ始めたのか分かんない」

 どうしよう! 言い訳が思いつかん!! 残念な通り名って何だ。冷酷非道なレイルの事だ。ヤバい通り名の筈だ。冷酷外道とかだろうか? それとも、殺戮マシーンとか? いや、流石にそれはないか。

「全くです。戦場の舞蝶なんて誰が呼び始めたんですかね」

 戦場の舞蝶……?

「だよなぁ。踊るように舞う綺麗な蝶とか誰が喩えたんだろう。どっちかと言うと、暴れる銀猫だろ」

 暴れる銀猫? どちらも違う様な気がする。

 二人の穏やかな表情を見る。グランデ達と話をしていると何だろう。優しくて穏やかになれる。恐ろしい事が起こった所為で、心も体も疲れていた様だ。このまま、三人で居られたら良いのに。その思いに答えてくれたのは、突如として現れた男だった。 
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