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グランデ・エトワールの視点『毒』
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数分後に、ライトがマルバールを引っ張って連れてきた。
「先生を連れてきたぜ!」
「誰だ! 野蛮兵士長を迎えに寄越した奴は!」
ライトに無理やり連れてこられたのか、髪や服装も乱れたままのマルバールが、苛立ちを隠そうともせずにこちらを睨みつけてくる。
「申し訳ありません。自身が行くと聞かないものですから。それよりも、レイル様が急変致しまして!」
「分かってる。メイドに聞いた」
頭を一撫でし髪を整えたマルバールが、鞄を持って近づいてきた。
「左腕が異常に腫れていまして」
左腕に固定していた氷嚢を外し、患部を見せるとマルバールは驚き目を丸くしていた。
「おいおい! なんて事だ!!」
「どう言う状況なのですか?」
落ち着く為か、マルバールが眼鏡を人差し指で少し押し上げた。
「こりゃ、ダメだ。明日の朝まではもたないな」
「何だって!!」
ライトもマルバールの言葉を聞いて目を丸くしている。
「もう手遅れなんですか!!」
「落ち着けって、ケシラの毒だ」
「ケシラって、巨大な赤色の花で南東の大陸にしか咲かない花だろ」
「そうだ。ケシラは根に猛毒の成分を持つ危険な植物の一種だ。食えば、消化器系に炎症を起こし、下痢と嘔吐が続き最終的には死ぬ。レイル様の様に皮膚から血管内に入れられれば、そこらかしこで炎症を起こし、最後は心不全で死ぬ。相手を苦しませて殺すには最適な毒でもあるな」
「治すことは出来ないんですか?」
「出来なくない。ただ、高価な薬だからのそれなりの額になる。まぁ、レイル様なら問題ないだろ」
マルバールが、手にしていた鞄をテーブルの上に置いて中を漁っている。
「これが、解毒薬だ」
中から取り出されたものは、一本の注射器と小瓶だった。小瓶の中は濃い紫色をしている為、本当に薬なのか怪しい。
「最後に聞くが……本当に、治療しても良いのか?」
「何を言ってるだよ!?」
そう問われて黙ってしまった私の代わりにライトが反応した。
「領主様のやって来た事は、褒められたものじゃない。このまま死んでもらった方が、領民の為になるのではないのか?」
マルバールが言いたい事は分かっている。現に私も先程まで、命を奪おうとしていたのだから。だが、それは前のレイル様に当てはまる事であり、今の彼にはどうなのだろうか。
「それは、その通りだと思います。このままレイル様には目を閉じて頂くのが一番だと言うことも」
「グランデ! お前までなんて事を!」
「ライト。貴方だって分かっている筈です。横暴過ぎる行動に、もう領民の怒りは爆発寸前です。このままだと、暴動が起きる。そうなれば、無意味な血の流し合いになってしまう」
「それは、そうだが……」
切なそうにしているライト。ライトとレイル様の関係は、どこまで行っているのだろう。体の関係はあると知っているが、付き合っているとは聞いていない。だが、最近はその関係も少なくなっているとライトが愚痴をこぼしていた。以前は程々にしろと受け流していたが、もし今、ライトにレイル様との体関係の事を相談されたとしたら、私はどう答えるのだろう。そんなことを考えていると胸の辺りがモヤモヤした。
私がそんな事を考えていた間にマルバールがライトに説得していた。
「この毒だって、恨んだ奴が仕組んだものだろう。そうそう手に入る代物じゃない。それに、意識が飛んだまま死なせてやるのも救いだろ」
薬を鞄の中にしまおうとしたマルバールの左手首を掴んだ。このまま何もせずに死なせる。苦しげに呼吸を繰り返している彼は、今でも死にたくないと足掻いている。
「何だよ」
「待ってください」
「もう結論は出ただろ」
「お願いがあります。私が責任を持ちますから、治療をして頂けませんか?」
「お前! さっきと言ってる事が逆だろ」
マルバールが目を丸くしている。
「分かっています。それでも、私の中である事が引っかかっているんです」
「そのある事とは?」
何事も伝えずに終わらせたいがそうはいかないようだ。マルバールはレイル様の主治医だ。面倒くさがりだが、仕事に対しては真面目な人間だ話しても大丈夫だろう。
「他言無用でお願いします」
「分かった」
「レイル様の様子がおかしくなったんです」
「頭がおかしいのは、いつも通りだろ。他人を金儲けの道具としか思っていない」
「そうではありません。数日前から、人が変わった様な態度を取るんです」
「はぁ? 意味が分からん」
「例えばですが、召使いに優しくなったり、下品な服を嫌がったり、仕事をきちんとしたり」
「それって、人として最高だろ」
「そうです。今のレイル様はそんな感じでして、とても……そのお優しくなったと言いますか。常人になられたと言いますか」
「……それは、確かに変だ」
「その行動や発言が何を意味するのか、わかりません。ですが、今のレイル様なら別に害はないじゃないかと思いまして、様子を見て行きたいんです」
「操られているとか偽物である可能性は?」
「全くないとは言えませんが、低いと思われます。色々な可能性を含めて、今後、様子を見て行きたいんです」
「なるほどな。だが、もし元のレイル様に戻るようなら、どう責任を取るつもりだ?」
「その時は……私が命を奪います」
「……はぁ。やっと解放されると思ったんだがな」
「申し訳ありません」
「構わん。戦場で助けてくれた貸しがあるからな」
ため息を吐きながらも、マルバールは包帯や消毒液などを鞄から出し始めた。
「先生を連れてきたぜ!」
「誰だ! 野蛮兵士長を迎えに寄越した奴は!」
ライトに無理やり連れてこられたのか、髪や服装も乱れたままのマルバールが、苛立ちを隠そうともせずにこちらを睨みつけてくる。
「申し訳ありません。自身が行くと聞かないものですから。それよりも、レイル様が急変致しまして!」
「分かってる。メイドに聞いた」
頭を一撫でし髪を整えたマルバールが、鞄を持って近づいてきた。
「左腕が異常に腫れていまして」
左腕に固定していた氷嚢を外し、患部を見せるとマルバールは驚き目を丸くしていた。
「おいおい! なんて事だ!!」
「どう言う状況なのですか?」
落ち着く為か、マルバールが眼鏡を人差し指で少し押し上げた。
「こりゃ、ダメだ。明日の朝まではもたないな」
「何だって!!」
ライトもマルバールの言葉を聞いて目を丸くしている。
「もう手遅れなんですか!!」
「落ち着けって、ケシラの毒だ」
「ケシラって、巨大な赤色の花で南東の大陸にしか咲かない花だろ」
「そうだ。ケシラは根に猛毒の成分を持つ危険な植物の一種だ。食えば、消化器系に炎症を起こし、下痢と嘔吐が続き最終的には死ぬ。レイル様の様に皮膚から血管内に入れられれば、そこらかしこで炎症を起こし、最後は心不全で死ぬ。相手を苦しませて殺すには最適な毒でもあるな」
「治すことは出来ないんですか?」
「出来なくない。ただ、高価な薬だからのそれなりの額になる。まぁ、レイル様なら問題ないだろ」
マルバールが、手にしていた鞄をテーブルの上に置いて中を漁っている。
「これが、解毒薬だ」
中から取り出されたものは、一本の注射器と小瓶だった。小瓶の中は濃い紫色をしている為、本当に薬なのか怪しい。
「最後に聞くが……本当に、治療しても良いのか?」
「何を言ってるだよ!?」
そう問われて黙ってしまった私の代わりにライトが反応した。
「領主様のやって来た事は、褒められたものじゃない。このまま死んでもらった方が、領民の為になるのではないのか?」
マルバールが言いたい事は分かっている。現に私も先程まで、命を奪おうとしていたのだから。だが、それは前のレイル様に当てはまる事であり、今の彼にはどうなのだろうか。
「それは、その通りだと思います。このままレイル様には目を閉じて頂くのが一番だと言うことも」
「グランデ! お前までなんて事を!」
「ライト。貴方だって分かっている筈です。横暴過ぎる行動に、もう領民の怒りは爆発寸前です。このままだと、暴動が起きる。そうなれば、無意味な血の流し合いになってしまう」
「それは、そうだが……」
切なそうにしているライト。ライトとレイル様の関係は、どこまで行っているのだろう。体の関係はあると知っているが、付き合っているとは聞いていない。だが、最近はその関係も少なくなっているとライトが愚痴をこぼしていた。以前は程々にしろと受け流していたが、もし今、ライトにレイル様との体関係の事を相談されたとしたら、私はどう答えるのだろう。そんなことを考えていると胸の辺りがモヤモヤした。
私がそんな事を考えていた間にマルバールがライトに説得していた。
「この毒だって、恨んだ奴が仕組んだものだろう。そうそう手に入る代物じゃない。それに、意識が飛んだまま死なせてやるのも救いだろ」
薬を鞄の中にしまおうとしたマルバールの左手首を掴んだ。このまま何もせずに死なせる。苦しげに呼吸を繰り返している彼は、今でも死にたくないと足掻いている。
「何だよ」
「待ってください」
「もう結論は出ただろ」
「お願いがあります。私が責任を持ちますから、治療をして頂けませんか?」
「お前! さっきと言ってる事が逆だろ」
マルバールが目を丸くしている。
「分かっています。それでも、私の中である事が引っかかっているんです」
「そのある事とは?」
何事も伝えずに終わらせたいがそうはいかないようだ。マルバールはレイル様の主治医だ。面倒くさがりだが、仕事に対しては真面目な人間だ話しても大丈夫だろう。
「他言無用でお願いします」
「分かった」
「レイル様の様子がおかしくなったんです」
「頭がおかしいのは、いつも通りだろ。他人を金儲けの道具としか思っていない」
「そうではありません。数日前から、人が変わった様な態度を取るんです」
「はぁ? 意味が分からん」
「例えばですが、召使いに優しくなったり、下品な服を嫌がったり、仕事をきちんとしたり」
「それって、人として最高だろ」
「そうです。今のレイル様はそんな感じでして、とても……そのお優しくなったと言いますか。常人になられたと言いますか」
「……それは、確かに変だ」
「その行動や発言が何を意味するのか、わかりません。ですが、今のレイル様なら別に害はないじゃないかと思いまして、様子を見て行きたいんです」
「操られているとか偽物である可能性は?」
「全くないとは言えませんが、低いと思われます。色々な可能性を含めて、今後、様子を見て行きたいんです」
「なるほどな。だが、もし元のレイル様に戻るようなら、どう責任を取るつもりだ?」
「その時は……私が命を奪います」
「……はぁ。やっと解放されると思ったんだがな」
「申し訳ありません」
「構わん。戦場で助けてくれた貸しがあるからな」
ため息を吐きながらも、マルバールは包帯や消毒液などを鞄から出し始めた。
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