死にゲーの世界のキャラに憑依したと思ったら、BL版の世界でした。 ~最悪領主になりきろうとしたが、日本人気質の所為でばれそうです~

番傘と折りたたみ傘

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悪夢

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 記憶は曖昧だ。苦しみと熱さが襲ってくる。潤む視界の中で、誰かが俺に眠れと囁く。その誰かが揺れ動き、段々と両親へと変わって行く。冷たい瞳が軽蔑する様に、睨んでくる。一文字だった唇の奥から出てくる声は、俺に眠れと言ってくる。

 二人はまだ怒っているんだ。俺が生まれなければ、父も母も妹も幸せだった。二人に土下座し、何度も許しを乞うた。

 沈黙が流れ、顔を上げればそこには、泥人形がいた。二人の形をした泥人形は次第に混ざり合い一つの大きな体になった。伸びてくる泥の手に恐怖した俺は逃げ出そうとしたが、絡みつく泥に囚われた。眠れ、眠れと囁かれ続け、体に絡みつく泥に混乱した。泥は段々と俺を覆い尽くし、顔を覆い、口を塞いできた。流れ込んでくる液体に驚き吐き出そうとするが、水と共に入ってきた物体に阻まれる。両手で絡みつく泥を押しやろうとしても、埋まるだけだった。呼吸ができなくなり苦しくなった。どうしようもなくなった俺は、その液体を飲み込んだ。生暖かい液体は俺の中に浸透していった。

「抵抗しないで、大丈夫ですよ」

 その声に誘われ、閉じていた目を開けると泥はなくなり、そこにいたのは、グランデだった。氷の王子が、ふわりと笑った。グランデの背後にキラキラと輝くダイヤモンドダストが見えそうだ。そんな彼を美しいと思った。大丈夫、微笑んでくれたグランデが俺を殺す筈がない。俺は、グランデに好かれた主人公になったんだろうか。レイルにキスなんてグランデがする筈ない。何度か口移しで与えられる液体を飲み込んでいる内に、胸が脈を打つ様に感じた。こんなにも胸が高鳴った事なんて無い。

 甘える様にグランデの服を握ったその時、視界の片隅にレイルを見た。グランデの後方に唖然として、立っているレイル。その顔は段々と切なそうに俯いていった。溢れる涙が、ぽつりぽつりと床に落ち波紋が広がる。

 あの時、表情なんて描かれてなかった。

 王族が開いたパーティーに呼ばれた領主達。その最中、誰も居ない庭で、転んでしまった主人公を偶然現れたグランデが介抱するイベント。主人公に想いを寄せていたグランデが、我慢できずに主人公にキスをする。その場面を、レイルが見ていたという事があった。

 ゲームの中での場面では、隠れたレイルの後ろ姿しか描かれていない。こんなにも悲しい表情をしていたなんて……。

「……大丈夫ですよ。きちんとお部屋までお連れしますから」

 グランデは淡々と俺に言葉を掛け続け、安心させようとしている。優しい言葉に頬を緩ませてしまった。そんな俺達を見てか、レイルが背をむけ立ち去って行く。

「待ってくれ! 行かないで!」

 グランデの胸の中から飛び出し、レイルへと右手を伸ばした。悲しく泣く姿を見たくない。レイルの後ろ姿が、妹の泣く姿に被ったと思った。その時、振り向いたレイルは幼い頃の俺になっていた。
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