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一時の幸せ
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その音の方へ振り向くと、そこには……。
「れ、レイル様! どうして……」
「あっ……」
開いた扉の前に居たのは、腰にタオルを巻いたグランデだった。
「何故、ここにいらっしゃるんですか?」
「それは、その……」
冷たいその瞳に射抜かれた俺は、温かいお湯に浸かっているはずなのに、体が震えた。
どう言い訳をしようかと考えを巡らせた。焦れば焦るほど、言い訳はすり抜けて落ちて行ってしまう。どうしてこんな事になってしまったんだ。それよりも、なんでこんなにも怒られないとならないんだ。
どうして、俺は責められなければならないんだ。無慈悲なグランデの言葉にふつふつと怒りが湧いてくる。ここはレイルの家であって、風呂だってレイルの物の筈だ。自分の風呂に入ったって構わないだろう!
「ただ、風呂に入っていただけだ! 何が悪い!」
風呂の水面を、片手で叩きつけた。水飛沫が上がり、水面に何重もの波紋が広がる。初めて、グランデに怒りをぶつけた気がする。俺の態度に、グランデも驚いたのか一瞬だが目を丸くしていた。だがすぐに、いつもの冷たい瞳に変わっていた。
「落ち着いて下さい。お風呂に入って頂くのは構いません。ただ、ここは使用人用の浴室です。レイル様の浴室は、お部屋の隣に……」
そこまで、聞いて俺は自分で墓穴を掘ってしまった事に気が付いた。レイルは領主で金持ちだ。使用人と一緒の浴室に入るなんてしない。まして、領民をボロクソに言うレイルが仲良しこよしで共に入浴しようなんて、言うわけない。
だが、自室の近くに浴室があるなんて、一般市民の俺がわかる筈ないだろ!
「そ……その」
「それに、珍しいですね。湯船に入られるとは。いつも面倒だと言って三日、四日の間隔でしか入られずに、湯をかぶるしかしませんのに」
え! そうなの!? こんな立派で広い湯船に入らないなんて、日本人として無理だ! レイルよ、損してるぞ!! 温かな湯に浸からないなんて……いやいや、そんな事考えている暇はない。どうする……どう誤魔化せばいい。何を言えばいいのか思い付かず黙っていると、静寂の中、ため息が聞こえてきた。
「もう、いいです。何も言う気がない様なので……」
「グ、グランデ!」
俺の焦りなんてどうでも良いように、グランデは洗い場に行き、体を洗い始めてしまった。深くなっていく溝にどうすれば良いのかわからなくなった。どうすれば、許して貰えるんだ。
「ごめん……本当にただ、風呂に入りたかっただけなんだ……」
「そうですか」
「そ、その朝は……。グランデは待っていてくれていたのに、俺……」
「そう……ですか」
グランデは、俺の方を一切見ようとしない。その光景を見たくなくて、俯いた。もう、ダメなのか。このまま俺はグランデと仲違いして、処刑されてしまうのだろうか。
ちゃぽんと水音が響き、視界に波紋入ってきた。それに気付き隣を見ると、グランデが湯船に浸かっていた。
「グランデ?」
「もう、良いですよ。私も少し言い過ぎました。今はゆっくりしましょう」
そう言ってくれたグランデの表情はとても穏やかに笑っていた。
グランデの笑顔にドキドキが止まらない。柔らかく下がった目尻、少しだけ上がった口角。大きめな肩幅に胸板。所々にある傷跡は戦でできたものだろう。その傷跡もグランデの魅力を損ねるどころか倍増させている。俺もなるんだったら、中性的なレイルよりも、漢らしいグランデやライトになりたかった! それよりも何故、グランデは俺なんかに笑ってくれるんだろう……。グランデになら、俺の事話しても大丈夫だろうか。グランデが味方になってくれたとしたら……俺は死なずに元の世界に戻れるかもしれない。
「グランデ、その……」
「明日は、食事を一緒にしましょう」
「明日?」
「はい。それで、今日はもうやめましょう」
少し、怪訝な顔をしたグランデの右手が俺の頬に触れてきた。優しい触れ方に嬉しくて胸が締め付けられる。それにしても、グランデの手が冷たく感じるのは、何故だろう。
「グランデ?」
「頬が赤い。呼吸も乱れて……のぼせた様ですね」
グランデの顔が近い。俺がのぼせた? それとも……レイルの体の想いに引きずられているのか……。
「え!」
体が浮く感覚に驚き、近くにあったものにしがみ付く。
「相変わらず、軽いですね」
今のこの状況、全てを理解するのに時間がかかった。俺は、グランデに抱き上げられていた。俗に言う、お姫様抱っこ。無意識とはいえ、グランデの首に手を回していた自分に戸惑う。
「お、下ろしてくれ! 自分で歩くから!」
「ダメです。転んで頭を打っては大変です」
「それは、そうかもしれないけど! グランデは湯に浸かったばかりだろ」
「構いません。また、後で入ればいい話です」
「だけど!」
「口を閉じていないと……舌を噛みますよ」
軽々と湯船から、脱衣場まで運ばれてしまった。長椅子に座らせられ、額に冷たい何かを感じる。冷たいその手に、ずっと触れていて欲しいと思った。だが、これは夢だろうか。
「やはり、少し熱っぽいですね。水を持ってきます。辛いようでしたら、横になっていて下さい」
俺の肩にバスタオルを掛けてくれたグランデは、さっさと部屋着に着替えて行ってしまった。
やはり、これは夢だ。主人公がグランデと出会って、少し仲良くなってきた頃にあったイベントの一つ。長湯をし過ぎた主人公をグランデが介抱するイベント。のぼせた主人公を湯船から脱衣場まで運び、水を持ってきてくれる。そこから、主人公の着替えから部屋の移動まで手取り足取りやってくれたっけ。
どこからが、夢でどこから現実だ。あの笑ってくれた所は夢なのだろうか。そうではない事を祈りたい。少しだけだとしても、グランデとの仲を保っていたい。
それにしても、グランデの部屋着姿、初めて見た。ゲームの中では、執事服、普段着のみ立ち絵で、部屋着なんて見た事ない。柔らかそうな白のチュニックに、紺色のズボン。きっちりとした執事服を着ているグランデはカッコいい分類に入るが、部屋着でカッコいいってどうなってんだろう。着崩れせずに、着こなせている男っているんだなぁ。
そんな事を考えていると、頭がぼんやりしてきた。やはり、のぼせたみたいだ。少しだけ……グランデが来たら起きればいい。体を長椅子に横たえると、少し楽になったような気がした。
「れ、レイル様! どうして……」
「あっ……」
開いた扉の前に居たのは、腰にタオルを巻いたグランデだった。
「何故、ここにいらっしゃるんですか?」
「それは、その……」
冷たいその瞳に射抜かれた俺は、温かいお湯に浸かっているはずなのに、体が震えた。
どう言い訳をしようかと考えを巡らせた。焦れば焦るほど、言い訳はすり抜けて落ちて行ってしまう。どうしてこんな事になってしまったんだ。それよりも、なんでこんなにも怒られないとならないんだ。
どうして、俺は責められなければならないんだ。無慈悲なグランデの言葉にふつふつと怒りが湧いてくる。ここはレイルの家であって、風呂だってレイルの物の筈だ。自分の風呂に入ったって構わないだろう!
「ただ、風呂に入っていただけだ! 何が悪い!」
風呂の水面を、片手で叩きつけた。水飛沫が上がり、水面に何重もの波紋が広がる。初めて、グランデに怒りをぶつけた気がする。俺の態度に、グランデも驚いたのか一瞬だが目を丸くしていた。だがすぐに、いつもの冷たい瞳に変わっていた。
「落ち着いて下さい。お風呂に入って頂くのは構いません。ただ、ここは使用人用の浴室です。レイル様の浴室は、お部屋の隣に……」
そこまで、聞いて俺は自分で墓穴を掘ってしまった事に気が付いた。レイルは領主で金持ちだ。使用人と一緒の浴室に入るなんてしない。まして、領民をボロクソに言うレイルが仲良しこよしで共に入浴しようなんて、言うわけない。
だが、自室の近くに浴室があるなんて、一般市民の俺がわかる筈ないだろ!
「そ……その」
「それに、珍しいですね。湯船に入られるとは。いつも面倒だと言って三日、四日の間隔でしか入られずに、湯をかぶるしかしませんのに」
え! そうなの!? こんな立派で広い湯船に入らないなんて、日本人として無理だ! レイルよ、損してるぞ!! 温かな湯に浸からないなんて……いやいや、そんな事考えている暇はない。どうする……どう誤魔化せばいい。何を言えばいいのか思い付かず黙っていると、静寂の中、ため息が聞こえてきた。
「もう、いいです。何も言う気がない様なので……」
「グ、グランデ!」
俺の焦りなんてどうでも良いように、グランデは洗い場に行き、体を洗い始めてしまった。深くなっていく溝にどうすれば良いのかわからなくなった。どうすれば、許して貰えるんだ。
「ごめん……本当にただ、風呂に入りたかっただけなんだ……」
「そうですか」
「そ、その朝は……。グランデは待っていてくれていたのに、俺……」
「そう……ですか」
グランデは、俺の方を一切見ようとしない。その光景を見たくなくて、俯いた。もう、ダメなのか。このまま俺はグランデと仲違いして、処刑されてしまうのだろうか。
ちゃぽんと水音が響き、視界に波紋入ってきた。それに気付き隣を見ると、グランデが湯船に浸かっていた。
「グランデ?」
「もう、良いですよ。私も少し言い過ぎました。今はゆっくりしましょう」
そう言ってくれたグランデの表情はとても穏やかに笑っていた。
グランデの笑顔にドキドキが止まらない。柔らかく下がった目尻、少しだけ上がった口角。大きめな肩幅に胸板。所々にある傷跡は戦でできたものだろう。その傷跡もグランデの魅力を損ねるどころか倍増させている。俺もなるんだったら、中性的なレイルよりも、漢らしいグランデやライトになりたかった! それよりも何故、グランデは俺なんかに笑ってくれるんだろう……。グランデになら、俺の事話しても大丈夫だろうか。グランデが味方になってくれたとしたら……俺は死なずに元の世界に戻れるかもしれない。
「グランデ、その……」
「明日は、食事を一緒にしましょう」
「明日?」
「はい。それで、今日はもうやめましょう」
少し、怪訝な顔をしたグランデの右手が俺の頬に触れてきた。優しい触れ方に嬉しくて胸が締め付けられる。それにしても、グランデの手が冷たく感じるのは、何故だろう。
「グランデ?」
「頬が赤い。呼吸も乱れて……のぼせた様ですね」
グランデの顔が近い。俺がのぼせた? それとも……レイルの体の想いに引きずられているのか……。
「え!」
体が浮く感覚に驚き、近くにあったものにしがみ付く。
「相変わらず、軽いですね」
今のこの状況、全てを理解するのに時間がかかった。俺は、グランデに抱き上げられていた。俗に言う、お姫様抱っこ。無意識とはいえ、グランデの首に手を回していた自分に戸惑う。
「お、下ろしてくれ! 自分で歩くから!」
「ダメです。転んで頭を打っては大変です」
「それは、そうかもしれないけど! グランデは湯に浸かったばかりだろ」
「構いません。また、後で入ればいい話です」
「だけど!」
「口を閉じていないと……舌を噛みますよ」
軽々と湯船から、脱衣場まで運ばれてしまった。長椅子に座らせられ、額に冷たい何かを感じる。冷たいその手に、ずっと触れていて欲しいと思った。だが、これは夢だろうか。
「やはり、少し熱っぽいですね。水を持ってきます。辛いようでしたら、横になっていて下さい」
俺の肩にバスタオルを掛けてくれたグランデは、さっさと部屋着に着替えて行ってしまった。
やはり、これは夢だ。主人公がグランデと出会って、少し仲良くなってきた頃にあったイベントの一つ。長湯をし過ぎた主人公をグランデが介抱するイベント。のぼせた主人公を湯船から脱衣場まで運び、水を持ってきてくれる。そこから、主人公の着替えから部屋の移動まで手取り足取りやってくれたっけ。
どこからが、夢でどこから現実だ。あの笑ってくれた所は夢なのだろうか。そうではない事を祈りたい。少しだけだとしても、グランデとの仲を保っていたい。
それにしても、グランデの部屋着姿、初めて見た。ゲームの中では、執事服、普段着のみ立ち絵で、部屋着なんて見た事ない。柔らかそうな白のチュニックに、紺色のズボン。きっちりとした執事服を着ているグランデはカッコいい分類に入るが、部屋着でカッコいいってどうなってんだろう。着崩れせずに、着こなせている男っているんだなぁ。
そんな事を考えていると、頭がぼんやりしてきた。やはり、のぼせたみたいだ。少しだけ……グランデが来たら起きればいい。体を長椅子に横たえると、少し楽になったような気がした。
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