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癒しの風呂場は何処

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 執務を終えた俺は、自室へと戻った。綺麗に整えられたベッドの上に座り、ため息を吐いた。

 夕食を食べていないのに胸が苦しい所為で、腹が空かない。グランデに逢いたいと訴えてくるこの感情が辛い。いや、ライトに逢いたいなのかもしれない。いまいち、複雑すぎるレイルの身体の思いが分からない。

 それに、とても疲れた。風呂に入りたい。この世界に来て二日目だと言うのに、色々とあり過ぎて、ゆっくりとした時がなかった。のんびりと湯船に浸かってリラックスしたい。だが、この世界に湯船なんてものあるのだろうか。ゲームでは豪華な湯船があったが、果たしてこのレイルの屋敷にはあるのだろうか。取り敢えず、探しに行ってみようと、着替えを持って自室を後にした。風呂といえば、一階にあるイメージが強い。一階へと向かう為、階段を目指して廊下を歩いていく。廊下には所々にランタンの様なものが吊るしてあり、少しだけ薄暗い。暗い赤の絨毯は毛足が長く、幾ら高らかに足踏みをしても、足音は小さくなった。深夜という事もあってか、廊下には誰もいない。静かすぎる廊下は、何とも心細い。落ち着かない胸の内を抱えながらも、階段を下り一階へ移動した。広い玄関ホールを抜け、キッチンなどがありそうな廊下へと向かった。水周りの方へと行けば、見つかるだろうと思ったのだ。

 廊下に並ぶ扉の一つを開けてみると、そこは厨房だった。隣の部屋は、倉庫。その隣は、リネン室。やはり、風呂場はないのだろうか。諦め気味に、リネン室の隣の扉を開くと、そこは脱衣場だった。その奥に、もう一つ扉が見える。高鳴る胸を抑えながら、その扉を開くと温かな湯気が俺を包んだ。大浴場かと思う程の広い風呂場に唖然とした。

「で、でかい」

 泳げる程の広い浴槽が一つあって、洗い場も三箇所ある。流石、日本の会社が作ったゲーム。風呂に関しては全力である。壁だけではなく床も大理石で出来ているのかピカピカですべすべだ。これはもう、入るしかないだろ! 

 脱衣場に戻り、棚に置かれたカゴの中に着ていた服を脱いでいれた。裸になり、脱衣場においてあった姿見の前に立ってみる。レイルの体は筋肉だけではなく脂肪にも嫌われているようで、なかなか肉の付きづらい体質という設定だった。そんな体は華奢で、きめ細かく白い肌が目立つ。だが、そんな綺麗な体の所々には、切り傷の跡がある。レイルは、戦場に立つ領主でもあった。ゲーム内で主人公と何度も打ち合いをする場面があり、主人公を何度も窮地に追いやった敵だ。体の軽さを存分に使ったスピード重視の剣術がレイルの得意技だ。

 もし今、戦になったとしたら、俺は戦えるのだろうか。レイルの体だとしても、俺は俺だ。平和な日本育ちの俺が、戦える筈がない。運動系の部活とかに入っている暇なんて無かったから、俺は運動できない部類に入る。戦に巻き込まれないように、気を付けるしかないな。いや、今はこんな事考えるのはやめよう。それよりも、風呂だ!

 風呂場に入り、洗い場で簡単に体を洗ってから浴槽に近づいた。ふわふわと上がる湯気に、頬を緩ませながら、そっと足先を湯につけた。少し熱めのお湯だ。もっと熱めのお湯の方が好きなのだが、まぁ……この温度でも充分だ。

 足先から入り、脹脛、太腿、腰、腹、胸、肩と順に浸かる。ビリビリとした刺激が肌を走り、体を震わせた。この感覚が堪らない。お湯の温度に慣れて、体から強張りが消えていく。

「ふー、極楽だぁ」

 気持ちが良くて、力が抜けていく。何も考えずに天井を見上げると、所々にある紋様に目が行った。レイル家の家紋だろうか。丸の中にある花。桜の様な花をぼんやりと見ていると、日本を懐かしく思った。今頃、俺はどうなっているのだろうか。目を覚さずに眠り続けているのだろうか。それとも、もう死んで……。

 折角の風呂なのに、こんな事考えたくない。だが、不安が俺を襲う。もし、死んでいたら、妹はどうなってしまうのだろう。大学に通い出したばかりの妹。金の心配をさせたくなくて、一生懸命に働いてきた。通帳に貯めた金、少しでも、足しになればいいのだが……。

 そんな事を考えていた時、ガチャと扉の開く音が風呂場に響いた。
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