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グランデ・エトワールの視点『謝りたかったのに』
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遅くなってしまった。急に起こった事件の対応に追われて気が付けば、深夜になっていた。
急いでレイル様の執務室に向かったが、部屋には誰もいなかった。執務用の机には、確認が終わった書類が山積みになっている。執務を終えて、部屋で休んでいるのだろうか。
部屋といえば、今朝、私の服を着ているレイル様を見て、胸が締め付けられる思いをした。大き過ぎる上着を羽織ったレイル様、ズボンも穿かずに上着から見える真っ白な柔らかな大腿、ふくらはぎ、足先まで身体のラインを辿る様に見てしまった。あわよくば触れたいと、採寸を手伝い、その大腿に触れてしまった。目を瞑りながらも頬を赤らめ、抵抗しないレイル様を押し倒したいなんてなんで思ってしまったのは何故なんだろう。以前は触れると思うだけで、吐き気がしていたのに……。
それだけではない。何故だかわからないが、レイル様の考えている事を知りたいと思う様になった。それなのに、返ってくるのは何でも無いの一言ばかりだ。悲しいのか、苛立つのかよく分からないその感情に引き摺られ、キツく言ってしまう自分を嫌悪した。以前のレイル様なら、なんでもかんでも言って、反撃してくるのに、今のレイル様は悲しそうに俯いてしまわれるだけだ。
泣かせたくないと思ってしまうこの感情にもついて行けない。自分でもよく分からない感情をレイル様に見られない様、服の丈を早々に直して退室してしまった。その位異常な感情に振り回されている。
その後に執務室でレイル様と自分用に用意した朝食を見て、笑ってしまった事も思い出した。挽回したいと思い、朝食はいつも以上に丁寧に作った。一緒に食事したいと思ったのは初めてだった。幸せそうに食べるレイル様を間近に見たいと言う欲求に勝てなかったのだ。私から服を受け取り「ありがとう」と言って笑ってくれた表情を思い出す。不安そうな表情から嬉しそうに笑うレイル様。何故か分からないが、鼓動が早くなった。料理を見て、また喜んでくれるだろうかと期待していた。笑って欲しかった。だが、その願いは叶わなかった。
いつまで経っても、姿を現さないレイル様を心配して迎えに行く事にしたのだ。寸法を間違えてしまっていただろうか。それとも、先程きつく当たってしまったから、行きづらくて部屋で待っているのだろうか。申し訳ない気持ちでいっぱいの俺を迎えてくれた現実は残酷だった。
レイル様の部屋にたどり着いて、中から聞こえてくる声に苛立ちが込み上げてきた。ライトとレイル様が馴れ合っているのは知っていた。以前のレイル様なら、執務に影響がなければいいと思うだけだった。それなのに、この二日間、私はどうしてしまったのだろう。レイル様がおかしくなってから、たったの二日なのに、ライトとレイル様が話しているだけで、おかしい位に苛立つ。ライトに手を握られ、頬を赤らめ微笑んでいるレイル様を引き離してしまいたいと思う感情に戸惑った。その笑みを私にも向けて欲しいと願う自分に、混乱した。
それなのに……キツく当たる必要性なんてないのに、レイル様に当たり散らした。言い訳なんて聞きたくないと、一方的に話を切り上げてしまった。
自分の言葉で悲しくさせたのに、朝食を悲しそうに食べるレイル様を見て、自分も悲しくなるなんて、自業自得だ。執務をしている内に苛立ちが収まり、後悔に沈んだ。酷いことをしてしまった。謝りたいと思った自分に驚いた。今まで、レイル様に謝りたいと思った事なんて無いのに……。
それからは、緊急な事件が起こり対応に忙しく、今の今まで謝る機会はなかった。レイル様の為に用意された食材に毒が混ざっていたのだ。食用のキノコに混ざっていた毒キノコ。食べると、吐き気と下痢を起こし、処置が遅れると死に至る毒をもつ灰色の毒キノコ。
誰が用意したとコック達に聞いて回ったが、犯人は分からず仕舞いに終わった。こう言うことは多々ある事だった。レイル様は領民に嫌われている為、暗殺を目論む者も多い。前回はレイル様のペンに毒が塗られていた。その時、肌が弱いレイル様の手は赤く腫れただけで済んだ。もし、肌が荒れずに気付かないまま、食べ物を手に取って口にしていたらどうなっていただろうか。怒り狂ったレイル様は、執務室の掃除を担当していたメイドを殴り、牢獄に入れ三日間食事を与えなかった。あの時は、毒に気づかずに死んでしまえば良かったのにと思っていた。
今回も、暗殺は未遂で終わった。この事は黙っていよう。レイル様に言えば、メイドや召使い、コック達を皆殺しにしようと言いかねない。いや、それは前のレイル様か。今のレイル様なら泣いてしまわれるかもしれない。食事に関しては、私が気を付けていればいい話だ。そういえば、レイル様は夕食を食べただろうか。昼食は用意したが、その後に毒騒ぎがあった為、夕食は用意できなかった。寝室へ様子を見に行くべきだろうか。いや、大騒ぎしていない所を見ると、食べずに眠ってしまったのかもしれない。あまり騒がしくして、睡眠の邪魔するのは良くない。
それに、私も今日は色々とあり過ぎて疲れた。入浴を済ませて、そのまま寝てしまおう。それから明日、謝ろう。
そう心に決め、レイル様の執務室を出て、自室へと向かった。
急いでレイル様の執務室に向かったが、部屋には誰もいなかった。執務用の机には、確認が終わった書類が山積みになっている。執務を終えて、部屋で休んでいるのだろうか。
部屋といえば、今朝、私の服を着ているレイル様を見て、胸が締め付けられる思いをした。大き過ぎる上着を羽織ったレイル様、ズボンも穿かずに上着から見える真っ白な柔らかな大腿、ふくらはぎ、足先まで身体のラインを辿る様に見てしまった。あわよくば触れたいと、採寸を手伝い、その大腿に触れてしまった。目を瞑りながらも頬を赤らめ、抵抗しないレイル様を押し倒したいなんてなんで思ってしまったのは何故なんだろう。以前は触れると思うだけで、吐き気がしていたのに……。
それだけではない。何故だかわからないが、レイル様の考えている事を知りたいと思う様になった。それなのに、返ってくるのは何でも無いの一言ばかりだ。悲しいのか、苛立つのかよく分からないその感情に引き摺られ、キツく言ってしまう自分を嫌悪した。以前のレイル様なら、なんでもかんでも言って、反撃してくるのに、今のレイル様は悲しそうに俯いてしまわれるだけだ。
泣かせたくないと思ってしまうこの感情にもついて行けない。自分でもよく分からない感情をレイル様に見られない様、服の丈を早々に直して退室してしまった。その位異常な感情に振り回されている。
その後に執務室でレイル様と自分用に用意した朝食を見て、笑ってしまった事も思い出した。挽回したいと思い、朝食はいつも以上に丁寧に作った。一緒に食事したいと思ったのは初めてだった。幸せそうに食べるレイル様を間近に見たいと言う欲求に勝てなかったのだ。私から服を受け取り「ありがとう」と言って笑ってくれた表情を思い出す。不安そうな表情から嬉しそうに笑うレイル様。何故か分からないが、鼓動が早くなった。料理を見て、また喜んでくれるだろうかと期待していた。笑って欲しかった。だが、その願いは叶わなかった。
いつまで経っても、姿を現さないレイル様を心配して迎えに行く事にしたのだ。寸法を間違えてしまっていただろうか。それとも、先程きつく当たってしまったから、行きづらくて部屋で待っているのだろうか。申し訳ない気持ちでいっぱいの俺を迎えてくれた現実は残酷だった。
レイル様の部屋にたどり着いて、中から聞こえてくる声に苛立ちが込み上げてきた。ライトとレイル様が馴れ合っているのは知っていた。以前のレイル様なら、執務に影響がなければいいと思うだけだった。それなのに、この二日間、私はどうしてしまったのだろう。レイル様がおかしくなってから、たったの二日なのに、ライトとレイル様が話しているだけで、おかしい位に苛立つ。ライトに手を握られ、頬を赤らめ微笑んでいるレイル様を引き離してしまいたいと思う感情に戸惑った。その笑みを私にも向けて欲しいと願う自分に、混乱した。
それなのに……キツく当たる必要性なんてないのに、レイル様に当たり散らした。言い訳なんて聞きたくないと、一方的に話を切り上げてしまった。
自分の言葉で悲しくさせたのに、朝食を悲しそうに食べるレイル様を見て、自分も悲しくなるなんて、自業自得だ。執務をしている内に苛立ちが収まり、後悔に沈んだ。酷いことをしてしまった。謝りたいと思った自分に驚いた。今まで、レイル様に謝りたいと思った事なんて無いのに……。
それからは、緊急な事件が起こり対応に忙しく、今の今まで謝る機会はなかった。レイル様の為に用意された食材に毒が混ざっていたのだ。食用のキノコに混ざっていた毒キノコ。食べると、吐き気と下痢を起こし、処置が遅れると死に至る毒をもつ灰色の毒キノコ。
誰が用意したとコック達に聞いて回ったが、犯人は分からず仕舞いに終わった。こう言うことは多々ある事だった。レイル様は領民に嫌われている為、暗殺を目論む者も多い。前回はレイル様のペンに毒が塗られていた。その時、肌が弱いレイル様の手は赤く腫れただけで済んだ。もし、肌が荒れずに気付かないまま、食べ物を手に取って口にしていたらどうなっていただろうか。怒り狂ったレイル様は、執務室の掃除を担当していたメイドを殴り、牢獄に入れ三日間食事を与えなかった。あの時は、毒に気づかずに死んでしまえば良かったのにと思っていた。
今回も、暗殺は未遂で終わった。この事は黙っていよう。レイル様に言えば、メイドや召使い、コック達を皆殺しにしようと言いかねない。いや、それは前のレイル様か。今のレイル様なら泣いてしまわれるかもしれない。食事に関しては、私が気を付けていればいい話だ。そういえば、レイル様は夕食を食べただろうか。昼食は用意したが、その後に毒騒ぎがあった為、夕食は用意できなかった。寝室へ様子を見に行くべきだろうか。いや、大騒ぎしていない所を見ると、食べずに眠ってしまったのかもしれない。あまり騒がしくして、睡眠の邪魔するのは良くない。
それに、私も今日は色々とあり過ぎて疲れた。入浴を済ませて、そのまま寝てしまおう。それから明日、謝ろう。
そう心に決め、レイル様の執務室を出て、自室へと向かった。
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