17 / 97
1
太陽の騎士と氷の王子様
しおりを挟む
着替え終わり、姿見の前に立つ。上着もズボンもピッタリサイズになった。やはり、実用重視の服は動きやすい。
それに、薬も効いてきた様で、頭痛は治まっていた。薬を持ってきてくれたメリーナに感謝をしなければと考えていた。その流れで、思い出した事があり、今その悩みに直面していた。メーリナの事を、グランデにお願いしておかないといけない。だが、どう言えば良いのだろう。そのまま言えば、疑われかねない。
「メーリナの家の土地だけど、いらなくなったから返しておいてくれ!」
変だ。
「あまり土地があると、管理が面倒だから……」
領主失格だな。違和感がない言い方ってないだろうか。土地……農民……。
「あ、これなら……」
「これなら、なんだ?」
急に聞こえてきた声に驚き、体が跳ねた。振り向くとそこには、ライトが立っていた。もしかして、聞かれた?
「の……ノックしろよ!」
「したぜ。随分と悩んでいた様だったから、聞こえなかったんだろ」
「そ、そうか」
本当にしたのだろうか。こいつは昨日、ノックなしで入ってきてたような……。
「部屋に無断で入った事は、怒らないんだな」
「あ……」
「今、気づいたのか? 相変わらず、可愛いな」
そう言われ、大きく温かい手に頭を撫でられる。胸がふわふわする。だが、可愛いなんて言われる筋合いはない。
「可愛くなんてない!」
「怒っても、可愛さが増すだけだぜ」
こいつに何言っても無駄だな。というか、なんでレイルに対して敬語じゃないんだ。レイルは領主様だぞ。確か、ライトとレイルの関係ってゲーム内では、兵士長と領主で戦友の関係だけで、そこまで恋愛関係になることってなかった様な気がする。
レイルのグランデへの想いは一途だった気がするのだが、この身体に入ってからいまいちレイルの想い人が分からなくなってきた。グランデの前でドキドキするのは分かるのだが、ライトの前でもドキドキするのは、何でだろうか。やはり、二股か? それよりも、ライトに独り言を聞かれた事の方が重大だ。
「もう良い。それより、何か聞いたか?」
「何かってなんだ?」
「その、さっきの」
「独り言か? これならって所しか聞いてないが……何か言ったのか?」
「いや、何でもない。ライトは何か用事があってきたのか?」
そう俺が言うと、笑顔だったライトの表情が、少し真面目な表情に変わった。
「謝りに来たんだ。昨日は、すまん。無理に飲ませちまって、その……体、大丈夫か?」
その言葉がとても優しくて、嬉しかった。問題を作った張本人だとしても、誰かに気遣ってもらえるなんて思ってもみなかった。グランデなんて、人をボロクソに言ってくれやがったからなぁ。
「薬飲んだから、大丈夫。心配してくれて、ありがとう」
俺の答えに照れ臭そうに笑ったライトは、とてもカッコいい。普通版のライトは厳つい大男だったのに、BL版のライトは、男前に描かれていた。キリッとした眉、二重の蒼い瞳、厚めの唇、グランデ以上に高い身長。グランデが氷の王子様風だとしたら、ライトは太陽の騎士様だ。
「そうか。それなら良かった」
「ライト?」
ライトは笑っているのに、少し寂しそうだと感じたのは何故なんだろう。
「グランデの服、着てるんだな」
頭から爪先までライトの視線が往復しているのを感じる。綺麗なものが大好きなレイルが、地味目の服を着ている時点で怪しいかもしれない。だが、どうしてもあのキラキラは恥ずかしくて着たくなかった。あれ? そういえば何で、グランデはそこの所を追求しなかったんだろう。あの時は、たまには普通の服を着たいと言ったが、どう考えてもおかしい答えに何も言わずに用意してくれた。何でだろう、胸がモヤモヤする。
「あぁ、最近疲れやすくて、動きやすい服を着たかったんだ」
「それなら、俺の服貸してやるか?」
「え?」
ライトの服? グランデの服で大幅に裾上げしないといけなかったのに、ライトの服なんてこれでもかって程にあげないといけなくなる。だが、ライトの服はグランデの服以上に動きやすいだろう。今だって、動きやすそうな綺麗目なシャツとズボンは魅力的だ。
「レイル様がいつも着ている服の生地と比べたら、微妙かもしれなが、それなりに良い生地を選んでるんだぜ。触ってみるか?」
「え!? でも……」
「いいから、触ってみろよ」
そう言われ、ライトに右手を掴まれ胸元へと誘導された。そっとシャツに触れてみる。柔らかですべすべしている生地なのに、しっとりとして保湿性に優れているのを感じた。絹と綿を併せ持っている様な不思議な感覚だ。
「凄い! こんなの触った事ない!」
すりすりと不思議な感覚をもたらす生地を触る。やばい、肌触り良すぎて気持ちいい。この生地なら是非とも欲しい。
「……そうか」
「うん! いいなぁ、欲しい」
「……なぁ、レイル様。俺の部屋に行かないか?」
すりすりと生地を摩っていた俺の手の上にライトの手が重なった。その手にぎゅっと握られ、どうしたのかと思い、ライトの顔を見上げた。その顔は真面目な表情なのに、瞳が獲物を捕らえようとする様に鋭く光っていた。
「へ? 今?」
「あぁ、今すぐ」
その低い声に腹の奥がドクっと脈動した。まずい、何か嫌な予感がする。
「あっ……でも、グランデが」
逃れようと視線を外したその時、ライトの顔が耳元へと近づいてきた。
「ここまで煽っておいて、それは無しだぜ。グランデを忘れさせてやるよ」
そっと囁かれるその言葉に、体が震えた。
「え!」
いつ、煽ったって言うんだ。思い出そうとしているのに、ライトが手を引いてくる。
「さぁ、行こう」
そんな表情は反則だ。優しく笑うライトにドキドキが止まらない。行ってもいいんじゃないか。きっと、ライトは優しくしてくれる。冷たく睨んだり、傷つけるような言葉を使ったり、痛い事をしたりはしないだろう。優しく甘やかしてくれるかもしれない。
そう思った瞬間に、聞きたくない言葉を聞いた。
「ライトとどこへ行かれるんですか?」
その声の方に振り向くと、扉からグランデが入ってくる所だった。
それに、薬も効いてきた様で、頭痛は治まっていた。薬を持ってきてくれたメリーナに感謝をしなければと考えていた。その流れで、思い出した事があり、今その悩みに直面していた。メーリナの事を、グランデにお願いしておかないといけない。だが、どう言えば良いのだろう。そのまま言えば、疑われかねない。
「メーリナの家の土地だけど、いらなくなったから返しておいてくれ!」
変だ。
「あまり土地があると、管理が面倒だから……」
領主失格だな。違和感がない言い方ってないだろうか。土地……農民……。
「あ、これなら……」
「これなら、なんだ?」
急に聞こえてきた声に驚き、体が跳ねた。振り向くとそこには、ライトが立っていた。もしかして、聞かれた?
「の……ノックしろよ!」
「したぜ。随分と悩んでいた様だったから、聞こえなかったんだろ」
「そ、そうか」
本当にしたのだろうか。こいつは昨日、ノックなしで入ってきてたような……。
「部屋に無断で入った事は、怒らないんだな」
「あ……」
「今、気づいたのか? 相変わらず、可愛いな」
そう言われ、大きく温かい手に頭を撫でられる。胸がふわふわする。だが、可愛いなんて言われる筋合いはない。
「可愛くなんてない!」
「怒っても、可愛さが増すだけだぜ」
こいつに何言っても無駄だな。というか、なんでレイルに対して敬語じゃないんだ。レイルは領主様だぞ。確か、ライトとレイルの関係ってゲーム内では、兵士長と領主で戦友の関係だけで、そこまで恋愛関係になることってなかった様な気がする。
レイルのグランデへの想いは一途だった気がするのだが、この身体に入ってからいまいちレイルの想い人が分からなくなってきた。グランデの前でドキドキするのは分かるのだが、ライトの前でもドキドキするのは、何でだろうか。やはり、二股か? それよりも、ライトに独り言を聞かれた事の方が重大だ。
「もう良い。それより、何か聞いたか?」
「何かってなんだ?」
「その、さっきの」
「独り言か? これならって所しか聞いてないが……何か言ったのか?」
「いや、何でもない。ライトは何か用事があってきたのか?」
そう俺が言うと、笑顔だったライトの表情が、少し真面目な表情に変わった。
「謝りに来たんだ。昨日は、すまん。無理に飲ませちまって、その……体、大丈夫か?」
その言葉がとても優しくて、嬉しかった。問題を作った張本人だとしても、誰かに気遣ってもらえるなんて思ってもみなかった。グランデなんて、人をボロクソに言ってくれやがったからなぁ。
「薬飲んだから、大丈夫。心配してくれて、ありがとう」
俺の答えに照れ臭そうに笑ったライトは、とてもカッコいい。普通版のライトは厳つい大男だったのに、BL版のライトは、男前に描かれていた。キリッとした眉、二重の蒼い瞳、厚めの唇、グランデ以上に高い身長。グランデが氷の王子様風だとしたら、ライトは太陽の騎士様だ。
「そうか。それなら良かった」
「ライト?」
ライトは笑っているのに、少し寂しそうだと感じたのは何故なんだろう。
「グランデの服、着てるんだな」
頭から爪先までライトの視線が往復しているのを感じる。綺麗なものが大好きなレイルが、地味目の服を着ている時点で怪しいかもしれない。だが、どうしてもあのキラキラは恥ずかしくて着たくなかった。あれ? そういえば何で、グランデはそこの所を追求しなかったんだろう。あの時は、たまには普通の服を着たいと言ったが、どう考えてもおかしい答えに何も言わずに用意してくれた。何でだろう、胸がモヤモヤする。
「あぁ、最近疲れやすくて、動きやすい服を着たかったんだ」
「それなら、俺の服貸してやるか?」
「え?」
ライトの服? グランデの服で大幅に裾上げしないといけなかったのに、ライトの服なんてこれでもかって程にあげないといけなくなる。だが、ライトの服はグランデの服以上に動きやすいだろう。今だって、動きやすそうな綺麗目なシャツとズボンは魅力的だ。
「レイル様がいつも着ている服の生地と比べたら、微妙かもしれなが、それなりに良い生地を選んでるんだぜ。触ってみるか?」
「え!? でも……」
「いいから、触ってみろよ」
そう言われ、ライトに右手を掴まれ胸元へと誘導された。そっとシャツに触れてみる。柔らかですべすべしている生地なのに、しっとりとして保湿性に優れているのを感じた。絹と綿を併せ持っている様な不思議な感覚だ。
「凄い! こんなの触った事ない!」
すりすりと不思議な感覚をもたらす生地を触る。やばい、肌触り良すぎて気持ちいい。この生地なら是非とも欲しい。
「……そうか」
「うん! いいなぁ、欲しい」
「……なぁ、レイル様。俺の部屋に行かないか?」
すりすりと生地を摩っていた俺の手の上にライトの手が重なった。その手にぎゅっと握られ、どうしたのかと思い、ライトの顔を見上げた。その顔は真面目な表情なのに、瞳が獲物を捕らえようとする様に鋭く光っていた。
「へ? 今?」
「あぁ、今すぐ」
その低い声に腹の奥がドクっと脈動した。まずい、何か嫌な予感がする。
「あっ……でも、グランデが」
逃れようと視線を外したその時、ライトの顔が耳元へと近づいてきた。
「ここまで煽っておいて、それは無しだぜ。グランデを忘れさせてやるよ」
そっと囁かれるその言葉に、体が震えた。
「え!」
いつ、煽ったって言うんだ。思い出そうとしているのに、ライトが手を引いてくる。
「さぁ、行こう」
そんな表情は反則だ。優しく笑うライトにドキドキが止まらない。行ってもいいんじゃないか。きっと、ライトは優しくしてくれる。冷たく睨んだり、傷つけるような言葉を使ったり、痛い事をしたりはしないだろう。優しく甘やかしてくれるかもしれない。
そう思った瞬間に、聞きたくない言葉を聞いた。
「ライトとどこへ行かれるんですか?」
その声の方に振り向くと、扉からグランデが入ってくる所だった。
53
お気に入りに追加
346
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる