16 / 97
1
針と糸
しおりを挟む
無言のままいつの間にか、採寸も終わり、グランデが上着を、ズボンの裾上げは俺がしていた。静寂の中で、針と糸で縫っていく。
気まずい……。採寸が終わった後、すぐに裾上げは自分ですると言ったのだが……。
「執務をサボられても困ります」
そう即答され、上着を強奪された。言葉の刃が痛い。サボるつもりなんて無いのに……。悲しみを何重にも塗り込まれ、心が折れてしまいそうだ。
そっと視線を上げて機嫌を伺おうとしたその時、グランデの手元であるものを見た。
え? え!? 等間隔に縫われて行く糸達の行進に、驚きを隠せなかった。早いのに、綺麗な出来栄えに目が離せない。
グランデの手は、沢山仕事をしてきたのだろう。たこやあかぎれがあった。それでも、日光に程良く焼けた手はとても綺麗だ。その手が紡ぎ出す綺麗な縫い目はとても美しかった。
昨日、あの手と手を繋いだんだ。そう思っただけで、痛いと訴えてきていた胸の中に少しだけ優しさが広がる。
「終わりました」
その声に視線を上げた。グランデの顔は出来栄えに満足したのかとても優しげに笑っていた。その表情を自分に向けて欲しいと思った。真っ直ぐに見て貰えれば、レイルの体も満足して胸の痛みも少しでも和らいでくれるかもしれない。
「はい。どうぞ」
グランデが上着を畳んでから、俺に差し出してきた。その上着をそっと両手で受け取った。まだ、グランデの体温を宿した暖かな上着。グランデが俺の……いや、レイルの為に綺麗に縫ってくれた上着、とても嬉しい。
「すごい! ありがとう」
「い、いえ。それよりも、早く裾上げして下さい。執務に遅れます」
そう言ったグランデは立ち上がり、部屋の扉まで歩いて行ってしまった。
「朝食は、執務室に用意致しますので、着替えましたら来て下さい」
こちらを一度も振り向かずに言い放ったグランデは、そのまま部屋を出て行った。
俺、また変な事言ってしまったのだろうか。グランデの一言で上下するこの感情に、疲れる。グランデが、レイルの事を嫌っているのは分かっている。それなのに、こんなに尽くしてくれるのは何でだろう。普通なら、縫い物を一緒にしてくれたりしない筈だ。
もう、何だかよく分からない。
負の思いに絡め取られてしまう前に、考えるのをやめた。早く終わらせて執務室に行かないと、また嫌味を言われてしまう。グランデが縫ってくれた上着をテーブルの上におき、ズボンの裾上げの続きを始めた。
ズボンの裾上げを終え、背伸びをした。同じ姿勢でいたから、肩やら腰が痛い。このまま、執務を休んでしまってはダメだろうか。ダメだろうな……あまり、サボっているとグランデが呼びに来そうだ。早く着替えてしまおう。
気まずい……。採寸が終わった後、すぐに裾上げは自分ですると言ったのだが……。
「執務をサボられても困ります」
そう即答され、上着を強奪された。言葉の刃が痛い。サボるつもりなんて無いのに……。悲しみを何重にも塗り込まれ、心が折れてしまいそうだ。
そっと視線を上げて機嫌を伺おうとしたその時、グランデの手元であるものを見た。
え? え!? 等間隔に縫われて行く糸達の行進に、驚きを隠せなかった。早いのに、綺麗な出来栄えに目が離せない。
グランデの手は、沢山仕事をしてきたのだろう。たこやあかぎれがあった。それでも、日光に程良く焼けた手はとても綺麗だ。その手が紡ぎ出す綺麗な縫い目はとても美しかった。
昨日、あの手と手を繋いだんだ。そう思っただけで、痛いと訴えてきていた胸の中に少しだけ優しさが広がる。
「終わりました」
その声に視線を上げた。グランデの顔は出来栄えに満足したのかとても優しげに笑っていた。その表情を自分に向けて欲しいと思った。真っ直ぐに見て貰えれば、レイルの体も満足して胸の痛みも少しでも和らいでくれるかもしれない。
「はい。どうぞ」
グランデが上着を畳んでから、俺に差し出してきた。その上着をそっと両手で受け取った。まだ、グランデの体温を宿した暖かな上着。グランデが俺の……いや、レイルの為に綺麗に縫ってくれた上着、とても嬉しい。
「すごい! ありがとう」
「い、いえ。それよりも、早く裾上げして下さい。執務に遅れます」
そう言ったグランデは立ち上がり、部屋の扉まで歩いて行ってしまった。
「朝食は、執務室に用意致しますので、着替えましたら来て下さい」
こちらを一度も振り向かずに言い放ったグランデは、そのまま部屋を出て行った。
俺、また変な事言ってしまったのだろうか。グランデの一言で上下するこの感情に、疲れる。グランデが、レイルの事を嫌っているのは分かっている。それなのに、こんなに尽くしてくれるのは何でだろう。普通なら、縫い物を一緒にしてくれたりしない筈だ。
もう、何だかよく分からない。
負の思いに絡め取られてしまう前に、考えるのをやめた。早く終わらせて執務室に行かないと、また嫌味を言われてしまう。グランデが縫ってくれた上着をテーブルの上におき、ズボンの裾上げの続きを始めた。
ズボンの裾上げを終え、背伸びをした。同じ姿勢でいたから、肩やら腰が痛い。このまま、執務を休んでしまってはダメだろうか。ダメだろうな……あまり、サボっているとグランデが呼びに来そうだ。早く着替えてしまおう。
53
お気に入りに追加
346
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる