上 下
14 / 97
1

採寸から続く

しおりを挟む
 痛む頭を押さえながら、薬を飲んだ。その後、着替えをしようと、ベッドから立ち上がるとテーブル上にある黒い物体が視界に入った。近づくとそれは執事服である事に気が付いた。隣に裁縫道具も置かれている。

 グランデが用意してくれたのだろうか。執事服を手に取って、広げてみると上質な繊維で作られているのか手触りが良く、重量も軽く紺色の執事服は動きやすそうだった。

 だが、案の定手足は長めだ。寝巻きのワンピースを脱ぎ、白のシャツを着てから、試しに上着を羽織ってみる事にした。

 上着を羽織り、姿見の前に立った。率直に言おう。ちんちくりんだ。袖口が指の先程まで長く、丈も太腿の半分まで長い。ズボンも穿いてみるがどこぞのお殿さまみたいに裾を引き摺ってしまう程長い。

 これは、根本的に直さないといけないかもしれない。まずは採寸をして、それから裾上げや丈を直さないとならない。動きづらい為、ズボンを脱いでから裁縫道具の中を漁ろうとした。その時、ノックの音が部屋の中に響いた。

「レイル様、起きていらっしゃいますか?」

 この声、グランデだ。そういえば、メリーナがグランデが来るって言っていたっけ。

「あぁ、起きてる。入ってもいいぞ」

「失礼致しま……す」

 扉を開けて入ってきたグランデが俺を見て、立ち止まった。その言葉の間は何だろう。

「どうした?」

「ゴホン! 着替え……いえ、採寸中でしたか」

 俺と裁縫道具をグランデの視線が行き来している。その言葉と視線で自分が下半身パンツのみであった事を思い出した。
 シャツと少し長めの上着で大事な部分は見えない。恥ずかしがる必要は無いのに、レイルの体は恥ずかしいのか、頬が熱くなってくる。

「あぁ、これから測ろうと思って……」

「それでしたら、私が致しましょう」

「はあぁぁぁああ! 良いって、自分でできるから!」

「何を言っていますか。一人では布が弛んでしまって、きちんとした採寸が出来ないじゃないですか」

「そ、そうだけど……」

 そんな事は、わかっている。歪んでいても良いから簡単に採寸を取るつもりだった。そこから、微調整しつつ裾上げすれば良い。それなのに、今ではグランデが裁縫道具から巻き尺とまち針を取り出して、迫ってくるこの状況だ。果たして、グランデに触れられてこの体は大丈夫だろうか。グランデが好きなレイルの体だ、不安しかない。

「さぁ、まずは上着から測りますか」

「あ、いや、やっぱり自分で」

「往生際が悪いです。私が嫌ならライトにでもさせますか?」

「え?」

 ライトが採寸を取る? 果たしてそれも大丈夫だろうか。昨日、ライトに触れられただけで、ときめいたこの体。全く、意味がわからない。レイルはグランデとライトどっちが好きなんだろうか。

それとも、まさか……二股!!

「何を考えてるのか分かりませんが、執務に差し支えます。さっさと終わらせますよ」

 その言葉に、思想から現実へ意識を戻すと、目の前にグランデの顔があった。キスできる程の近さにビクッと身体が跳ねた。

 冷たさを抱えている漆黒の瞳に見つめられ、ドキドキと脈打つ心臓がうるさい。この時、初めてグランデの右眼の黒目の片隅に蒼がある事に気付いた。小さいその蒼をとても綺麗だと思ったのは、俺なのだろうか、それともレイルのなのだろうか。

 グランデが更に屈んだ事によって、視界から蒼が消えた。それがとても残念で、落胆した。もっと見て居たかった。

「丈も直す必要がありますね。これなら、新しく仕立てた方が早いと思いますが……」

 前身ごろを測る為か、グランデの手の甲が首元に当たった。肌の上を滑るその感触が、擽ったくて何事もない様に演じるのは大変だった。段々と巻き尺が伸びていき、グランデの手の先が大腿に微かに触れた時、我慢出来ず体がビクっと跳ねた。

「どうしました?」

「な、何でもない。勿体無いから、新しく仕立てなくても良い」

「……そうですか」

 肌質を楽しむかの様に、円を描き動くその指に大腿を押し付けたくなった。そんな事したら、ただでさえ嫌われているグランデにもっと嫌われてしまうだろう。それでも、触れて欲しくて堪らない。太腿を掌全体で愛撫して欲しい。グランデの手の先が不埒に太腿の付け根をなぞり上げて、ゾクゾクとした感覚と羞恥心に、頬が熱くなっていく。

「どうします……」

「も、もっと……」

「もっと、何ですか?」

 分かっているだろうに、俺から言葉を引き出そうとしているグランデは意地悪だ。

「……さ、触って」

「何をです?」

「そ、それは……意地悪しないで」

「意地悪ではありません。貴方様は領主であり、私の雇い主でもあります。命令なしで貴方に触れるのは反逆罪にあたります」

「そう、なのか」

「はい。なので命令して下さい。さすれば、全ては貴方様の思うがまま」

 その言葉は甘い様で、冷たい。グランデの気持ちが何一つ入っていない愛撫なんて悲しすぎる。それでも良いから、快感が欲しいと訴えてくる体に抵抗できない。

「お、お、ちん……ちん」

「はい」

「触っ……て」

「よく出来ました」

 グランデが笑った。その表情を間近で見れて嬉しいと思ったのに、どこか違和感を感じる。そう、この光景どこかで見たような気がした。

 俺の下半身へとグランデの手が伸びていく光景を見て、恥ずかしくなり眼を閉じた。触れられる感覚がいつ来るかのか。じっと、待っていたがいつまで経ってもその感覚は来なかった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

処理中です...