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目覚めの朝
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目覚めは最悪だった。頭痛が酷い、二日酔いなんて酒飲み始めた頃以来だ。それと、きちんと自分の部屋にいた事にも驚いた。ライトの部屋で飯を食って酒を飲み、押し倒された所までしか覚えていない。
俺は犯されたのか? だが、身体には特に痛みはない。いや、頭以外はと言うのが正しい。
覆い被さってきたライトは何かを求める様に、俺の瞳を覗いてきていた。その瞳は俺を探るように見てきていたのに、俺は何故だか切なそうに見えた。あれはなんだったんだろう。
上半身をゆっくり起こしただけで、ズキズキする。痛む頭を押さえていると、扉が開く音が聞こえた。その方向を見ると、メイドさんが入って来るところだった。昨日の朝に俺を起こしにきてくれた娘だ。
「あ! お、おはようございます!」
俺が起きているとは思っていなかったのだろう。驚きながらも、きちんと挨拶できるなんて良い子だ。今の若い子は挨拶出来ない子が多い。だが、その声が頭に響く。
「あぁ、おはよう。すまないが、少し小さく喋ってくれないか。二日酔いで頭が痛くて」
「畏まりました。その……お薬をお持ち致しますか?」
「あるのか?」
「はい。ただいま、お持ち致します」
この世界に、二日酔いの薬があるとは思っても見なかった。昔の世界をイメージしているゲームだった為、傷薬とかはあっても二日酔いの薬なんてないと思っていた。
「そうか。すまないが頼む」
「……畏まりました」
少し押し黙った彼女が、閉められていたカーテンを開けてから、部屋を出て行った。やはり、謝ったのがいけなかったのだろうか。レイルは、領主だ。メイドや召使いには謝ったりしないのだろう。
窓の外を見ると、澄み切った青空が広がっていた。この頭痛がなければ、清々しい朝だったかもしれない。 確か、レイルの治めるこの領地はフロワードという土地だ。四季があって、平地の多い土地は農業や林業に向いている。そういえば、主人公の領地の名前ってなんだろうか。ゲームでは、領地名は自由に決められる設定だった為、今この世界での名前は知らない。その内、誰かにさりげなく、疑われない様に聞いてみよう。
「お持ちしました」
その声に、振り向くとメイドさんがお盆を持って近づいてきていた。ベッド脇にある小さな机の上にお盆が置かれた。見てみると粉薬と水入ったコップがあった。
「ありがとう」
「あ、あの……怒ってないんですか」
怒る? 何故だ。もしかして、レイルよ。また、何かやらかしているのか……。
「あ、えっと……俺、何で怒っていたんだっけ? 昨日、酒呑み過ぎて忘れちゃって」
飲み過ぎていないが、上手い言い訳が思いつかなかった。それに、何で一杯だけで潰れたんだろう。酒に強い筈なのに……もしかしてレイルは酒に弱かったりするのだろうか。
「その、両親が……ブレイド様の大事なお召し物を汚してしまった事です」
お召し物? と言うことは……服を汚されて怒ったと言う事かよ! 子どもか! 俺なんて、日常茶飯事に汚されてるわ! まぁ、それが介護士の辛い所でもあるが、それ以上に「ありがとう」って笑ってくれる利用者さんが嬉しく……いや、今はそれ処じゃ無い。
「いつも、イライラされていらっしゃったので……その……」
しょんぼりしているメイドさんを見ていると切なくなる。妹もよく何かしら辛い事や悲しい事があった時は、よく泣きついてきたっけ。
「もう、怒ってない」
「え?」
「許してあげるタイミングがなかなか見つからなくて……すまない」
「ブレイド様!」
無意識だった。メイドさんの頭をついつい撫でていた。妹はこうして撫でてあげたら、泣き止んで笑ってくれた。
「その、俺は……不器用だから、だからさぁ。笑って」
俺の顔を見ていたメイドさんが、顔を赤くさせて一歩離れて行ってしまった。あれ、悪いこと言ったか?
下を向いてしまったメイドさんが、急に顔を上げた。その顔はキリッとしていて何かを心に決めた様な顔つきだった。
「ブレイド様、おこがましい事だと分かってはいますが、どうか! 両親に土地を少しで良いんです! 返して頂けませんか!」
あ、え? 土地? まずい、知らない情報が出てきた。待て待て、情報を整理しよう。メイドさんの両親がレイルの服を汚してしまった。その所為で怒らせた。土地を少しでいいから返して欲しいと……。いや、レイル。服汚された位で、土地を取り上げたのかよ。
「えっと……」
何て答えよう。あまりにも変な事言えない、口滑らせて色々とバレても嫌だしな……。
「その、ご、ご両親は何の仕事してるんだっけ?」
「え? 両親は野菜や米を作っていますが……」
「そ、そうなんだ」
俺は何を言ってんだ。明らかにおかしな質問をしてしまった。メイドさんも眉を顰めてこちらを怪しんでいる。
「それなら、土地ないとダメだよな。でも、俺は忙しいから、グランデに調整しておく様指示しておくよ」
「本当ですか!」
メイドさんの瞳が輝いている。やはり、女の子は笑っているのが可愛いな。
「うん」
「ありがとうございます! あっ、ブレイド様お薬飲んで、お着替え致しましょう。エトワール様がお部屋にいらっしゃると言っておりました」
エトワールって事は、グランデが来るのか。酒飲んで酔い潰れて、二日酔いした。なんて知られたら、最強の悪態吐かれて精神ボロボロになりそうだ。
「そうなんだ。後は自分でするから、今日はもう下がっていいよ。えっと……」
な、名前、何だっけ……。通常版では沢山メイドさんがいた為、あまり覚えていない。BL版では女の子自体、顔や名前無しが多い。男同士の絡みを見たいが為のBL。女子キャラなんて、居ても簡易的な設定しかないのだ。
「メリーナ・ブロッサムと申します」
機嫌が良いのか、ニコニコしながら名前を教えてくれたメリーナ。俺が、明らかに名前を知らないのはおかしい筈なのに……。だが、自己中心的なレイルなら召使いの名前を覚えていない可能性はあり得る。
「メリーナ。ありがとう」
「……ブレイド様、あまりその様な……いえ! 何でもありません。それでは、失礼致します」
頬を少し赤く染めたメリーナは、急ぐ様に部屋を出て行ってしまった。俺、また何かしたのだろうか。ただ、礼を言いたかっただけなのだが……。
俺は犯されたのか? だが、身体には特に痛みはない。いや、頭以外はと言うのが正しい。
覆い被さってきたライトは何かを求める様に、俺の瞳を覗いてきていた。その瞳は俺を探るように見てきていたのに、俺は何故だか切なそうに見えた。あれはなんだったんだろう。
上半身をゆっくり起こしただけで、ズキズキする。痛む頭を押さえていると、扉が開く音が聞こえた。その方向を見ると、メイドさんが入って来るところだった。昨日の朝に俺を起こしにきてくれた娘だ。
「あ! お、おはようございます!」
俺が起きているとは思っていなかったのだろう。驚きながらも、きちんと挨拶できるなんて良い子だ。今の若い子は挨拶出来ない子が多い。だが、その声が頭に響く。
「あぁ、おはよう。すまないが、少し小さく喋ってくれないか。二日酔いで頭が痛くて」
「畏まりました。その……お薬をお持ち致しますか?」
「あるのか?」
「はい。ただいま、お持ち致します」
この世界に、二日酔いの薬があるとは思っても見なかった。昔の世界をイメージしているゲームだった為、傷薬とかはあっても二日酔いの薬なんてないと思っていた。
「そうか。すまないが頼む」
「……畏まりました」
少し押し黙った彼女が、閉められていたカーテンを開けてから、部屋を出て行った。やはり、謝ったのがいけなかったのだろうか。レイルは、領主だ。メイドや召使いには謝ったりしないのだろう。
窓の外を見ると、澄み切った青空が広がっていた。この頭痛がなければ、清々しい朝だったかもしれない。 確か、レイルの治めるこの領地はフロワードという土地だ。四季があって、平地の多い土地は農業や林業に向いている。そういえば、主人公の領地の名前ってなんだろうか。ゲームでは、領地名は自由に決められる設定だった為、今この世界での名前は知らない。その内、誰かにさりげなく、疑われない様に聞いてみよう。
「お持ちしました」
その声に、振り向くとメイドさんがお盆を持って近づいてきていた。ベッド脇にある小さな机の上にお盆が置かれた。見てみると粉薬と水入ったコップがあった。
「ありがとう」
「あ、あの……怒ってないんですか」
怒る? 何故だ。もしかして、レイルよ。また、何かやらかしているのか……。
「あ、えっと……俺、何で怒っていたんだっけ? 昨日、酒呑み過ぎて忘れちゃって」
飲み過ぎていないが、上手い言い訳が思いつかなかった。それに、何で一杯だけで潰れたんだろう。酒に強い筈なのに……もしかしてレイルは酒に弱かったりするのだろうか。
「その、両親が……ブレイド様の大事なお召し物を汚してしまった事です」
お召し物? と言うことは……服を汚されて怒ったと言う事かよ! 子どもか! 俺なんて、日常茶飯事に汚されてるわ! まぁ、それが介護士の辛い所でもあるが、それ以上に「ありがとう」って笑ってくれる利用者さんが嬉しく……いや、今はそれ処じゃ無い。
「いつも、イライラされていらっしゃったので……その……」
しょんぼりしているメイドさんを見ていると切なくなる。妹もよく何かしら辛い事や悲しい事があった時は、よく泣きついてきたっけ。
「もう、怒ってない」
「え?」
「許してあげるタイミングがなかなか見つからなくて……すまない」
「ブレイド様!」
無意識だった。メイドさんの頭をついつい撫でていた。妹はこうして撫でてあげたら、泣き止んで笑ってくれた。
「その、俺は……不器用だから、だからさぁ。笑って」
俺の顔を見ていたメイドさんが、顔を赤くさせて一歩離れて行ってしまった。あれ、悪いこと言ったか?
下を向いてしまったメイドさんが、急に顔を上げた。その顔はキリッとしていて何かを心に決めた様な顔つきだった。
「ブレイド様、おこがましい事だと分かってはいますが、どうか! 両親に土地を少しで良いんです! 返して頂けませんか!」
あ、え? 土地? まずい、知らない情報が出てきた。待て待て、情報を整理しよう。メイドさんの両親がレイルの服を汚してしまった。その所為で怒らせた。土地を少しでいいから返して欲しいと……。いや、レイル。服汚された位で、土地を取り上げたのかよ。
「えっと……」
何て答えよう。あまりにも変な事言えない、口滑らせて色々とバレても嫌だしな……。
「その、ご、ご両親は何の仕事してるんだっけ?」
「え? 両親は野菜や米を作っていますが……」
「そ、そうなんだ」
俺は何を言ってんだ。明らかにおかしな質問をしてしまった。メイドさんも眉を顰めてこちらを怪しんでいる。
「それなら、土地ないとダメだよな。でも、俺は忙しいから、グランデに調整しておく様指示しておくよ」
「本当ですか!」
メイドさんの瞳が輝いている。やはり、女の子は笑っているのが可愛いな。
「うん」
「ありがとうございます! あっ、ブレイド様お薬飲んで、お着替え致しましょう。エトワール様がお部屋にいらっしゃると言っておりました」
エトワールって事は、グランデが来るのか。酒飲んで酔い潰れて、二日酔いした。なんて知られたら、最強の悪態吐かれて精神ボロボロになりそうだ。
「そうなんだ。後は自分でするから、今日はもう下がっていいよ。えっと……」
な、名前、何だっけ……。通常版では沢山メイドさんがいた為、あまり覚えていない。BL版では女の子自体、顔や名前無しが多い。男同士の絡みを見たいが為のBL。女子キャラなんて、居ても簡易的な設定しかないのだ。
「メリーナ・ブロッサムと申します」
機嫌が良いのか、ニコニコしながら名前を教えてくれたメリーナ。俺が、明らかに名前を知らないのはおかしい筈なのに……。だが、自己中心的なレイルなら召使いの名前を覚えていない可能性はあり得る。
「メリーナ。ありがとう」
「……ブレイド様、あまりその様な……いえ! 何でもありません。それでは、失礼致します」
頬を少し赤く染めたメリーナは、急ぐ様に部屋を出て行ってしまった。俺、また何かしたのだろうか。ただ、礼を言いたかっただけなのだが……。
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