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逢瀬
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三階にあるライトの部屋の中は、レイルの寝室よりは小さいが綺麗に整理整頓されていた。というよりも、あまり荷物がないという印象だ。クローゼットが一つ、ベッドにお酒が入った棚、テーブルと椅子、ソファと暖炉だけ。暖炉には火が入っていて、部屋の中は暖かい。
「今、何か持ってくる。寒いなら、暖炉の側で待っててくれ。」
じっと暖炉を見ていた所為か、暖炉のそばに椅子を持って来てくれた。礼を言おうとして振り向いたその時、ライトはもう扉を開けて部屋を出て行ってしまっていた。
椅子に座り、ほっとため息を吐いた。やっと、一人で静かに考えられそうだ。パチパチと薪が爆ぜる音に心穏やかになった。
今日一日、慣れないことばかりで疲れた。目覚めた瞬間にゲームの世界にいる事に気付き、悪役領主のレイルになっていた。それに死にゲーでBLの世界の方なんてなぁ。ツイてない。グランデとライトには疑われ、メイドさんや召使い達に嫌われて、やった事のない山積みの領主の仕事。俺、やって行けるのかな。
「帰りたいなぁ」
「何だよ。来たばかりだろ」
その声に振り向くと、両手にお盆を持ったライトがいた。少しムッとした表情をしたライトを見て、誤解されたと分かった。
「そういう意味じゃなくて」
「もういい。さぁ、食うぞ」
その捨て台詞の様な言葉に痛いと泣いたのはレイルか、それとも俺だろうか。椅子から立ち上がり、両手に持ったお盆をテーブルに乗せたライトの側へと近づく。お盆の上には、鳥肉を焼いたものとパン、果物、何かのスープが乗っていた。二人分にしては多い、食い切れるだろうか。
「すまんな。余りもんの飯で」
そう言ったライトが、酒の入った棚へと向かい酒のボトルを一本持ってきた。
「いや、肉食いたかったから大丈夫だ」
「……そうか」
今の間は何だ。もしかして、レイルはベジタリアンだったとか言うんじゃないだろうな。肉が食えない生活なんて、力が出なくなりそうだ。怪しまれても構わない。取り上げられてしまう前に料理を堪能することにした。
全体的に料理は少し冷め気味だったが、味は美味しかった。こんがりと焼いた鶏肉の上に甘めのソースが掛かっていて、肉の旨さを存分に出している。スープは野菜の優しい出汁が出ていて、中には芋と葉物の野菜がゴロゴロ入っていた。パンも温かみはないが柔らかさを損ねておらず、仄かな甘味が美味だ。
「相当、腹減ってたんだな。食えるなら、全部食ってもいいぞ」
そう言われてライトを見ると、酒を飲みながら料理を摘む程度に食べている。
「食わないのか?」
「久しぶりのレイル様との逢瀬に、ガツガツ食ってたらかっこ悪いだろ」
「おうせ?」
おうせ……逢瀬。デートってこと!?
「お、俺! そんな気で来たんじゃ!」
「分かってるって、何焦ってんだ。冗談に決まってんだろ」
くそ! こいつも人を馬鹿にしやがって! 痛い痛い、胸が痛い。
「そう、怒んな。ほら、さっき言った酒だ」
そう言って、酒の入ったグラスが目の前に置かれた。黄金色の液体が揺れて、光を反射し輝いた。仄かに香る果実の甘美な香りに、唾液を飲み込んだ。何と言っても酒も久しぶりだった。大学に通う妹の為、断酒し節約していた。
「ほら、乾杯しようぜ」
ライトも自身のグラスに酒をそそぎ、俺の方へとグラスを差し出してくる。
何となく子供扱いされている様に思えてムカつくが、酒に罪はない。グラスを手に取り、ライトが持つグラスに軽く触れさせた。
「乾杯」
ライトの低音で男らしい声が腹に響く。艶かしい唇がグラスに触れ酒が口腔へと消え、酒が喉を通ったのか動く喉仏が扇情的だ。ライトが俺を見ながら、酒に濡れた自らの唇を舐めた。
「どうした?」
その問いかけと相反する様に、瞳は何を考えているか知っているぞと言っている様だった。
「別に、何も」
誤魔化すように、酒を一気に呷った。酒が喉を通った時、焼けつくような感覚にこれは一気に飲んではいけないものだと分かった。アルコール度数が高い酒だ。だが、俺は酒に強いから大丈夫だろう。
「結構、強めだ……な?」
対面のソファに座っていたライトが急に立ち上がり、俺の隣に座ってくる。三人掛けのソファは広いのに何故に隣? どきりと跳ねる心臓が煩い。
「なぁ、レイル様。もう春だっていうのに、今日は少し寒くないか?」
「そうか? 大分暖かくなったけど?」
部屋の中は十分に暖かい。仄かに温かいスープも飲んだからホカホカだ。
「俺は、寒いんだ。レイル様」
耳元で囁かれる声と合間合間の吐息が擽ったい。
「それなら、スープでも飲んだら」
「そうじゃない。体で暖めてくれないか」
その言葉が囁かれ、意味を理解した時には、ソファに押し倒されていた。見上げた先には、ライトの顔が目の前にあった。
「久しぶりに、俺が良いことしてやるよ。そして、腹に抱えているもの全部吐き出してスッキリしようぜ」
「あ、え?」
良いこと? 吐き出す?
言ってしまえば、楽になれるんだろうか。俺はレイルじゃないと。俺は、九条透と言う人間で、夜勤明けで寝て起きたら、レイルになってしまっていたんだと言えば、信じてくれるのか。それとも、変になったと思われ殺されるのか。
ライトのニタリと笑った顔に右手を伸ばし、そっと頬に触れた。
「俺は、ただ帰……」
帰りたいだけなんだ。そう言おうとしたのに、視界が揺れる。この感覚は、酒に溺れた時と同じ感覚。
なんで、一杯しか飲んでないのに……。揺れる視界の中で少し悲しげな表情を見せたライトを最後に、目も開けていられなくなって、意識が落ちると同時に右手もソファの上に落ちた。
「今、何か持ってくる。寒いなら、暖炉の側で待っててくれ。」
じっと暖炉を見ていた所為か、暖炉のそばに椅子を持って来てくれた。礼を言おうとして振り向いたその時、ライトはもう扉を開けて部屋を出て行ってしまっていた。
椅子に座り、ほっとため息を吐いた。やっと、一人で静かに考えられそうだ。パチパチと薪が爆ぜる音に心穏やかになった。
今日一日、慣れないことばかりで疲れた。目覚めた瞬間にゲームの世界にいる事に気付き、悪役領主のレイルになっていた。それに死にゲーでBLの世界の方なんてなぁ。ツイてない。グランデとライトには疑われ、メイドさんや召使い達に嫌われて、やった事のない山積みの領主の仕事。俺、やって行けるのかな。
「帰りたいなぁ」
「何だよ。来たばかりだろ」
その声に振り向くと、両手にお盆を持ったライトがいた。少しムッとした表情をしたライトを見て、誤解されたと分かった。
「そういう意味じゃなくて」
「もういい。さぁ、食うぞ」
その捨て台詞の様な言葉に痛いと泣いたのはレイルか、それとも俺だろうか。椅子から立ち上がり、両手に持ったお盆をテーブルに乗せたライトの側へと近づく。お盆の上には、鳥肉を焼いたものとパン、果物、何かのスープが乗っていた。二人分にしては多い、食い切れるだろうか。
「すまんな。余りもんの飯で」
そう言ったライトが、酒の入った棚へと向かい酒のボトルを一本持ってきた。
「いや、肉食いたかったから大丈夫だ」
「……そうか」
今の間は何だ。もしかして、レイルはベジタリアンだったとか言うんじゃないだろうな。肉が食えない生活なんて、力が出なくなりそうだ。怪しまれても構わない。取り上げられてしまう前に料理を堪能することにした。
全体的に料理は少し冷め気味だったが、味は美味しかった。こんがりと焼いた鶏肉の上に甘めのソースが掛かっていて、肉の旨さを存分に出している。スープは野菜の優しい出汁が出ていて、中には芋と葉物の野菜がゴロゴロ入っていた。パンも温かみはないが柔らかさを損ねておらず、仄かな甘味が美味だ。
「相当、腹減ってたんだな。食えるなら、全部食ってもいいぞ」
そう言われてライトを見ると、酒を飲みながら料理を摘む程度に食べている。
「食わないのか?」
「久しぶりのレイル様との逢瀬に、ガツガツ食ってたらかっこ悪いだろ」
「おうせ?」
おうせ……逢瀬。デートってこと!?
「お、俺! そんな気で来たんじゃ!」
「分かってるって、何焦ってんだ。冗談に決まってんだろ」
くそ! こいつも人を馬鹿にしやがって! 痛い痛い、胸が痛い。
「そう、怒んな。ほら、さっき言った酒だ」
そう言って、酒の入ったグラスが目の前に置かれた。黄金色の液体が揺れて、光を反射し輝いた。仄かに香る果実の甘美な香りに、唾液を飲み込んだ。何と言っても酒も久しぶりだった。大学に通う妹の為、断酒し節約していた。
「ほら、乾杯しようぜ」
ライトも自身のグラスに酒をそそぎ、俺の方へとグラスを差し出してくる。
何となく子供扱いされている様に思えてムカつくが、酒に罪はない。グラスを手に取り、ライトが持つグラスに軽く触れさせた。
「乾杯」
ライトの低音で男らしい声が腹に響く。艶かしい唇がグラスに触れ酒が口腔へと消え、酒が喉を通ったのか動く喉仏が扇情的だ。ライトが俺を見ながら、酒に濡れた自らの唇を舐めた。
「どうした?」
その問いかけと相反する様に、瞳は何を考えているか知っているぞと言っている様だった。
「別に、何も」
誤魔化すように、酒を一気に呷った。酒が喉を通った時、焼けつくような感覚にこれは一気に飲んではいけないものだと分かった。アルコール度数が高い酒だ。だが、俺は酒に強いから大丈夫だろう。
「結構、強めだ……な?」
対面のソファに座っていたライトが急に立ち上がり、俺の隣に座ってくる。三人掛けのソファは広いのに何故に隣? どきりと跳ねる心臓が煩い。
「なぁ、レイル様。もう春だっていうのに、今日は少し寒くないか?」
「そうか? 大分暖かくなったけど?」
部屋の中は十分に暖かい。仄かに温かいスープも飲んだからホカホカだ。
「俺は、寒いんだ。レイル様」
耳元で囁かれる声と合間合間の吐息が擽ったい。
「それなら、スープでも飲んだら」
「そうじゃない。体で暖めてくれないか」
その言葉が囁かれ、意味を理解した時には、ソファに押し倒されていた。見上げた先には、ライトの顔が目の前にあった。
「久しぶりに、俺が良いことしてやるよ。そして、腹に抱えているもの全部吐き出してスッキリしようぜ」
「あ、え?」
良いこと? 吐き出す?
言ってしまえば、楽になれるんだろうか。俺はレイルじゃないと。俺は、九条透と言う人間で、夜勤明けで寝て起きたら、レイルになってしまっていたんだと言えば、信じてくれるのか。それとも、変になったと思われ殺されるのか。
ライトのニタリと笑った顔に右手を伸ばし、そっと頬に触れた。
「俺は、ただ帰……」
帰りたいだけなんだ。そう言おうとしたのに、視界が揺れる。この感覚は、酒に溺れた時と同じ感覚。
なんで、一杯しか飲んでないのに……。揺れる視界の中で少し悲しげな表情を見せたライトを最後に、目も開けていられなくなって、意識が落ちると同時に右手もソファの上に落ちた。
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