死にゲーの世界のキャラに憑依したと思ったら、BL版の世界でした。 ~最悪領主になりきろうとしたが、日本人気質の所為でばれそうです~

番傘と折りたたみ傘

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領主の仕事とは

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 正直に言おう。領主の執務なんて何をしたら良いのかなんて分からなかった。

 朝食後、執務の席に座らされてテーブルに置かれた山積みの書類に目が回った。書類の一つを手に取ってみると、領地の云々が延々と書かれた書類に頭がくらくらした。

「目を通して、修正すべき所を提示して下さい。なければ、サインをして下さい」

 俺の様子を見て、ため息を吐いたグランデが俺の見ていた紙を手に取り片隅を指差してきた。

「分かった」

 俺が頷いたのを見たグランデが執務室の片隅にある机に向かって行った。てっきり、グランデの執務室に行くのだと思っていた。椅子に座ったグランデがこちらを見てきた。

「サボっている暇はありませんよ」

「分かってる。その……グランデはそこで仕事するのか」

 正直言うと一人になりたい。色々考えたいのと、グランデと長時間一緒にいると色々とバレる可能性がある。如何にして、グランデを退室させようか。

「貴方がここでやれと、仰ったじゃないですか」

 おっと、レイルの命令だったか……。好きな人と一緒に仕事出来るなんて羨ましい環境だな。その所為で、俺は悪戦苦闘しているって言うのに。

「そうだったな」

「本当に大丈夫ですか? 治ると思いませんが医者でも呼びますか」

「いらない」

 明らかに俺を小馬鹿にした様なグランデの言葉を悔しく思った。俺だって、好きでここにいる訳じゃない。帰りたい……。

「私に構う暇あったら、手を動かして下さい」

 もう、知らん! 無視してやる! 

 こうなったら、執務とやらをやってやる。紙に並ぶ字を見て、ある事に気が付いた。俺、この世界の言葉とか文字とか何で理解出来るのだろう? 日本語と英語を少ししか知らない俺が明らかに海外のヨーロッパ風の世界で苦もなく言語を理解できているのか。思い当たるとしたら、レイルの身体のおかげだろうか。中が入れ替わったとしても体が覚えてくれている可能性があるのだろうか。

 レイルが生きるこの世界は、中世のヨーロッパ風の世界だ。街並みも石畳の道並みにレンガで組んだ様な家が多い。治安は、日本ほど安定していない。戦争、土地や財産の略奪、人身売買などがある世界。俺は生きて元の世界に戻れるんだろうか。書類を手に取って軽く読み、サインをしていく。税について、資源について、少子化と高齢化対策について、軍事資産について等。さまざま問題があるんだなぁと思っていると、次の書類には水源の確保についてと書かれていた。今季に入って雨が少なく作物の育成不良。この領地は水源が少ないのだろうか……。

「レ……レイ……様」

 だとしたら、貯水施設とか作った方がいいんじゃないだろうか。それだけではダメだな。水路とか浄水施設、下水処理もきちんと設備しないといけない。川に汚染された水を垂れ流しにしてはダメだ。資金面、業者についても、細々とした事も決めなければなるまい。

 様々な事を思案していると、耳に生温かな何かを感じた。

「レイル様!!」

「うわっ!!」

 耳元での大きな声に驚き、椅子から転げ落ち尻餅をついた。何が起こったのか分からず、そばに立っていたグランデを見上げた。

「へ?」

「執務に集中されるのは構いません。ですが、面会の方がいらっしゃいました」

 そう言ったグランデの視線を追って視線を向けると、入り口に白髪の老人が立っていた。少し緊張しているのか、両手を握り締めている。まぁ、レイルは一応は領主なのだから当たり前か。いつまでも尻餅をついているは失礼に当たると思い、急いで立ち上がった。

「騒がしくて、申し訳ありません。ようこそ! どうぞ、こちらにいらして下さい」

「「え!?」」

 二人の驚いた声と視線が俺に突き刺さる。

 あ、あれ? 俺、何か不適切な事を言っただだろうか。相手がどんな立場の方か分からないが、年配の方に敬語は当たり前だろうと思ったのだが、何か変だっただろうか。

「レイル様、ソリア村の村長ですよ」

 ソリア村だって! レイルの住む屋敷付近にある大きな町グランドフライから、二日程馬車で揺られた先にある村だ。ゲームでは主人公が、レイルに命令されて遠征してきたライトと初めて会うイベントがそこであった筈だ。

「ソリア村……そんなに遠い所から、お疲れ様でした。さぁ、そちらに座って下さい」

 窓際に置かれた応接セットのソファに座るように促しただけなのに、痛い程の視線が二人から送られてくる。強い視線が痛くて涙が出そうだ。本当に二人の何か気に触ることを言ったのだろうか。

 村長が座ったのを見てから自らも着席した。グランデは俺のソファ近くに立っている。

「レイル様、その……怒りは収まったのですか?」

 グランデが少し戸惑うような、不安そうな表情を向けてくる。その様子にこちらも不安になってくる。

「怒り?」

 レイルが怒っていたと言うのか? 何に? まずい……今更、怒った振りは通じないだろう。それに、状況的に歓迎した後で怒ったらおかしい事になる。

「領主様、老ぼれの非礼を許して頂けるのでしょうか?」

 村長さんも戸惑っているが、この状況に便乗して許しを得たい様子だ。レイルは何に怒っていたのだろう。村長さんは外見的にとても優しそうな年配な方だ。目尻は下がり、口角が緩やかに上がり、垂れ気味ではあるがふっくらとした頬は誰にでも愛される顔つきである。レイルの怒りを買う要素がイマイチ分からない。ここは取り敢えず、遠回しに怒りの原因を聞いて許してやる的な感じで誤魔化してしまおう。

「許すも何もいつの話だ? 俺は忙しい。小さな事は覚えていない!」

 よし、これでどうだ。変だっただろうか。疑われたら、どうしよう……。

「何を言いますか。三日前に、税金を払えぬならお前なんて要らないと仰っていたのは、レイル様じゃないですか」

 グランデの言葉で、レイルの非道な行いがここでやっと見えたきた。いや、もしかすると実は、村長は悪い奴で脱税とかしているのだろうか。

「金貨五十枚なんて払えるわけ無いのに、本当に馬鹿ですか」

「ご、五十枚!!」

 グランデの吐き捨てるような声が聞こえ、無意識に驚いてしまった。このゲームの世界での貨幣は、金貨、銀貨、銅貨、石貨、紙幣の五種類で構成されている。一般市民が使用する貨幣としては、銀貨までで、金貨は資産持ちの大金持ちしか持てないものである。それを五十枚なんて暴動が起きてもおかしくない額だ。

「何を驚いているんですか。それを決めたのはレイル様でしょう」

「そ、そうですね……」

 国税、つまり国王に払う為だとしても、民税がそんなに無謀だとこの領地はどうなってしまうのだろう。民の怒りを買うのは目に見えている。このままだと領地は荒れ、民の暴動エンドが発生してしまう。つまり……死のエンド……。

「それは無理!!」

「領主様、急にどうなさったんですか!?」

「ジグル殿、気にしないで下さい。ただの発作です。レイル様、また壊れましたか」

「いや、壊れてないって! 親しい仲だとしても失礼だろ!!」

 急なグランデのボケについついツッコんでしまった。いや、今はそれ所じゃない。この馬鹿げた税を如何にして自然に、バレないように下げるかだ。特に、グランデに怪しまれない様にするのが絶対条件だ。

「レイル様と親しい仲になった覚えはありませんが」

「くぅ……」

 痛い。特に胸が痛い。グランデの馬鹿野郎、レイルのこと少し位分かってやれよ。

「領主様、その事なのですが……」

 村長、ジグルさんだったか。申し訳なさそうに右手で左手を摩りながら、割り込んできた。おや、これはもしかすると……。

「なんです?」

「大変申し訳ないと、思ってはいるのですが、もう少し下げて頂ける事はできませんか?」

 おお! これは渡に舟って奴では!! 自然に、ごく自然に下げるんだ!

「下げるだと! そんな事はできない!! だがこのままでは、税徴収率が下がってしまうのは事実。しかし、俺は何かと忙しい! と言う訳で、ここはグランデに一任して後で対処させるとしよう」

 よし、これで不自然ではないだろう! グランデなら、丁度いい塩梅で税金の額を決めてくれるだろう。

「全て丸投げとは、あまり良い領主とは言えませんね」

「俺の腹心ならできるだろ」

「レイル様の腹心なんてなりたくないです。不名誉ですが、承知しました」

 な、泣きたい……。そこまで言わなくてもいいじゃないか、馬鹿野郎!!

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