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狼の真実 世界征服
しおりを挟む良太の話では、やはり彼は宗教の教主に騙されていた。
当時十七歳だった良太を教主は言葉巧みに騙し、教団に引き入れた。一年の間で良太は教主に洗脳されてしまった。
一年後、聖司が後を追った時には時既に遅かった。良太は心も身体も教主のものにされていた。教主にバレない様、洗脳された良太をどうにか戻そうとしたが教主は一枚も二枚も上手で、聖司の手には負えなかった。
そのまた一年後に来た拓也と共にどんどん追い詰められていく良太を何とか守ってきたが、等々あの事件を起こす事になってしまったという事だった。
「洗脳がはっきり解けたのは、白くんのおかげさ。洗脳を解除する言葉をお前が言うとは、奴も思って見なかったのだろう」
「言葉……」
言葉なんて、あの時沢山良太にぶつけた。それに、何を言ったかなんて覚えていない。
「お前は、僕に皆を守りたかったんだろって言っただろ。鍵は”皆を守る“だった」
思い出した……。良太に抱きついて、悔し紛れに投げつけた言葉だ。あの時、良太は驚いていたのは、正常に戻ったからだったのか。
「良太……」
「そんな言葉、互いに疑心暗鬼になっていた僕達には言い合えないものだった。教主の戦略に見事に嵌まったものだ」
良太のその言葉に、皆俯いている。海斗の方を向くと視線が合い、苦笑いを浮かべている。
「奴は、母を中心に幸せだった僕達家族を狙った。母を始めに殺し、母を失った父を騙して贄にした」
俺は驚きを隠せなかった。そんな初めの方から、陰謀があったなんて思ってもいなかった。
「父を贄に教団を作った奴は、次に僕達兄弟を狙った。僕を洗脳し兄弟の分断を図ったんだ。見事にバラバラにされ、お互い疑い憎み合うように仕向けられた。僕達は、孤独に追いやられていったんだ」
当時の彼らを思うと胸が痛い。両親を失い、兄弟もバラバラになって行く。たった一人の人間の欲望によって、一家族が潰されてしまうなんて酷すぎる。
「奴の望む未来の為に、僕達は贄にされる所だったのさ。それなのに、白くんは……いや、彰くんは鍵の言葉を呆気なく言って、僕達を奴から解き放ってくれた」
良太が自殺してもしなくても、良太達は贄にされそうだったと言うことか。海斗と大地も居なくなってしまう所だったと言うのか……そんなの嫌だ! 二人がいない世界なんて考えたくもない。待てよ。それなら、今だって奴は狙っているかもしれない。
「教主は今何処に?」
「奴はこの世界から居なくなった。彼方の世界で楽しく過ごしてるだろう」
良太は彼奴の話なんてどうでも良いと言うように、投げやりに言い放った。この態度の良太に詳しく聞いても話してくれなさそうだ。取り敢えずは、教主は居なくなったと聞いて安心した。
「やけにほっとした様な顔だな。そんなに、双子が大事か」
良太の顔が真剣だ。茶化す様な顔ではない。真剣に答える必要があると思った俺は、背筋を伸ばして答えた。
「はい、二人が大事です。でも、誰か一人でも欠けたら、海斗と大地も無事じゃなかった。だから、皆んな無事で良かったと安心しました」
「そうか。話は変わるが、お前の望みは双子と付き合いたいだったか?」
急に変わった話題に驚いたが、良太の真剣な表情は変わっていない為、姿勢を正して答える。
「はい」
「本当にそれで良いのか。お前は僕達の命を救った。恩を受けて返さないほど馬鹿じゃない。何でも願いを叶えてやる。それが例え世界征服でもな」
いや、それが良いって何度言わせれば良いんだ……世界征服だと!?
「お前は、今、何でも願いを叶えてもらえるんだ。世界征服位なら、今の僕達なら可能だ。どうする、世界征服すれば双子もお前の思いのまま。いや、世界中お前の思うがままにできる。」
良太が微笑んでいる。だが、笑っていない眼が本当の事を言っていると伝えてくる。どうやって世界征服するのか聞いてみたい気がするが、恐ろしい事を知ってしまいそうで怖い。やはり、聞くのはやめよう。
「世界を手に入れれば、双子だけじゃない。金から女、地位や名誉、土地から何もかもお前が願ったものは全て手に入る。それでも、お前は双子と付き合いたいを選ぶのか?」
確かに世界を願えば、欲しいもの全て手に入る。しかし、それじゃ俺が欲しいものは手に入らない。遠のいて消えてしまう。そんなの嫌だ。
「俺、やっぱり海斗と大地、二人と付き合える様にして欲しい」
一呼吸置いてから、良太と視線を合わせて答える。
「確かに世界を手にいれれば、全て手に入るかもしれない。でも、俺が欲しいものは二人の優しくて思いやりのある心なんだ。世界を手に入れる為に、良太達が傷付いたら、それ以上に悪事に手を染めたら、二人の優しい心が壊れてしまうかもしれない。そうなってしまう位なら、世界なんていらない」
俺の答えを聞いた良太が盛大に溜息を吐いた。何故だ?
「お前の気持ちは分かった。願い叶えてやるよ」
「本当か!」
良太が頷いてくれた。欲しかった答えを貰えた様で嬉しい。いや、まだだ。俺はまだ欲しいものを手に入れていない。これからが正念場だ。
「良太、ありがとう!」
「ただし、暫くはこの家かお前の家で会うんだ。色々と手配が必要だから、自由に外で会える様になるには、半年近くかかると思ってくれ」
「分かった!」
真剣だった良太が力抜くように肩を落とした。良太は疲れている様だ。仕事の後に問題児が家で喚いていたら疲れるのも当たり前か。
「さて、色々と終わったから飯だ。今日は美味い飯作れよ。海斗」
良太の視線が海斗に移った。海斗の表情は穏やかに微笑んでいた。
「分かってるよ。ほら、あきちゃんも手伝って」
海斗に右手を取られて、強制的に立たされる。
「え!? でも、俺手の込んだ和食は作れない」
「海斗、一人で作れるだろ」
「彰ちゃんは俺達で手取り足取りもてなすから、一人で悠々と作っても良いんだぜ」
慌てる俺を援護しているのか狙っているのか、よく分からない言葉を拓也と幸平が笑いながら言ってくる。
「ぶざけんな。こんな狼だらけの所置いていけるか」
あっ、そう言うことか。海斗なりに守ってくれようとしてくれていたのか。
「あきちゃん、そばにいて欲しいんだ。俺が失敗しない様にね」
にっこりと笑う海斗が、格好よくてドキドキしてしまう。
「分かった」
海斗に釣られて、笑った。
「良い笑顔だ。双子にやるの勿体無いな。僕達で飼うか」
「良太兄さん。貴方までそんなこと言いますか」
「冗談だ」
良太の眼が、獲物を見定める鷹の様に鋭い所を見ると冗談に聞こえない。
逃げる様に海斗の後についてキッチンに入った。
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