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逢いたかった
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「ただいま。」
その声に、無意識に立ち上がった。懐かしい声に、胸が苦しくなる。
「帰って来たみたいですね」
「あ! 良いこと思いついた」
良いことではない。ニヤニヤ笑う拓也の顔は、悪いことを思いついたと描いてある。
こそこそと、聖司に耳打ちする拓也。何を話してるんだろうかと、首をかしげた。
「貴方はよくそんな事思い付きますね。ですが、乗りましょう」
聖司も悪い顔をしている。何を始める気だ。
「彰はここで待ってていてくれ。絶対リビングから出てくるなよ」
「良いものが見れますよ」
そう言って、二人は玄関へと出ていった。兄達よ、弟を虐めて楽しいのか。一人っ子の俺には分からない感情だ。
しかし、良いものって何だろうか。気になる。
こっそりと、玄関へと続く扉に耳を当てて音を聞いた。
「な、なんだ!? 二人して出迎えとか。何か変なこと考えてるだろ!」
日頃の行いで早速疑われていますよ。お兄さん方。
「そんな事ありませんよ」
「それよりも、今日はお前が料理担当だろ。和食作ってくれよ」
「あぁ……。拓也兄さん頼む。俺、疲れたんだ」
少し疲れた様な海斗の声が聞こえてくる。仕事が相当忙しいのだろうか。
「そう言って、その前もその前も俺が作っただろ。今日はお前も、ご馳走作りたくなるから作れよ」
「ふざけんな! 俺は、もう料理なんかしたくないんだ! ほっといてくれ!」
どんどんと、此方に向かって打ち鳴らされる様な足音が響いてくる。
まずい!
このまま扉を開けられたら顔面殴打しまうと思い、瞬時に扉の裏の壁に身を寄せた。
その瞬間に扉が開き、扉が顔面スレスレに迫って止まった。
どうやら、顔面殴打はしなくて済んだ様だ。
海斗がリビングに入って来たようで、部屋の中に甘い香りが漂いだす。鼻腔を満たす甘い香りに胸がきゅんきゅんする。
「俺は、もう作れない。こんなぐちゃぐちゃな気持ちじゃ、美味い料理なんて作れないだよ!」
完全に出るタイミングを失った俺は、大人しく扉の裏にいる事にした。
叫ぶ様な苦しい海斗の声に胸が苦しい。何とかしてあげれないのだろうか。ぐるぐると考えるが何が原因なのか分からない為、どうにもしてあげれなくて辛くなった。
「何でです? 貴方また、子羊ちゃんの事引きずっているんですか。三年も経ったと言うのに」
聖司の言葉に呆然とした。海斗が俺の事を引きずっている? 俺を置いていった二人はてっきり俺なんて何とも思っていないと思っていた。それでも良いから、逢いたかった。二人が俺何かいらないと言ったら、それはそれで諦めがつくと思っていた。
「分かってるくせに! お前達があの子を選ばなければ……。」
「そんなに忘れられない程、ふわふわちゃんが好きか?」
「あぁ、そうだよ。悪いか!」
海斗のその返答に、心が温かくなった。嬉しくて、自分だけじゃないんだって思えた。
「だとさ、彰良かったな」
その言葉と共に扉が俺の前から消えて、海斗の姿が現れた。少しくたびれたグレースーツ姿は銀髪に似合っていて、とても格好良かった。顔も三年前と殆ど変わっていない。若干目の下に隈が出来ているくらいだ。
「え? あ、あきちゃん!? 何で……」
「海斗!」
驚き固まっている海斗に、向かって駆けていく。飛びつく俺に動じずに抱き止めてくれた。海斗の胸元に顔を埋め、両手を背中に回す。
海斗だ。夢にまで見た海斗が俺の前にいる。温かく逞しい身体は以前と同じだ。胸元から香る海斗の甘い香りに酔いしれる。部屋に残る香りより断然強いその香りは、俺の求めたものだった。
海斗の両腕に強く抱き締められる。もう、どこにも行かせないと言われている様な抱擁を嬉しく思った。
「何で、ここにいるの? まさか、兄さん達に誘拐されたの!?」
急に身体を離され、心配そうに俺の顔を覗く海斗。だが、俺を腕の中から離そうとしない所を見ると、また守ってくれようとしてくれているみたいでその優しさに顔が綻んでしまう。
「違う。俺、海斗達に逢いたかった。連れて来て貰ったんだよ」
その言葉にほっとしたのか、少し海斗の腕の力が抜け様に思えた。
「海斗、いけない事だって分かってる。だけど、俺二人を忘れられなかった。逢いたいって、ずっと思ってたんだ」
「……あきちゃん。俺も君が恋しかったよ」
海斗の唇が俺の唇に重なる。そっと触れるキスに、寂しいと訴えていた心が静かになった。
「それ以上は二人きりの時にして下さい」
「妬けるな。ここに連れて来てやったんだ俺もして欲しい位だ。」
海斗に抱き締められて、聖司と拓也からの視線から隠される。聖司達が居るのすっかり忘れてた。
「拓也兄さん、俺がしてやるよ」
海斗と拓也がキス……。
甘いマスクのイケメンとヤクザ並の強面がキスするシーン。なんだか恐い。見たいと思わない。
「誰がお前としたいって言った。それなら、象とした方がマシだ」
「馬鹿な事言ってないで、夕食作って下さい」
海斗と拓也の漫才を一刀両断する聖司。やはり、兄弟は面白い。
「ちっ、分かったよ。あきちゃん、何食べたい?」
言葉の始めと終わりで声の甘さが違う事に微笑してしまう。本当に海斗は好きになった相手には甘い。その甘さに特別な物を感じ、嬉しく思う。
「俺、味噌汁が飲みたい。豆腐とわかめが入った温かい奴」
それを聞いた海斗も優しく微笑んでくれた。
「良いよ。君の望むままに」
額に触れるだけの優しいキスが落とされた。そのキスは俺の大好きなキスだった。
その声に、無意識に立ち上がった。懐かしい声に、胸が苦しくなる。
「帰って来たみたいですね」
「あ! 良いこと思いついた」
良いことではない。ニヤニヤ笑う拓也の顔は、悪いことを思いついたと描いてある。
こそこそと、聖司に耳打ちする拓也。何を話してるんだろうかと、首をかしげた。
「貴方はよくそんな事思い付きますね。ですが、乗りましょう」
聖司も悪い顔をしている。何を始める気だ。
「彰はここで待ってていてくれ。絶対リビングから出てくるなよ」
「良いものが見れますよ」
そう言って、二人は玄関へと出ていった。兄達よ、弟を虐めて楽しいのか。一人っ子の俺には分からない感情だ。
しかし、良いものって何だろうか。気になる。
こっそりと、玄関へと続く扉に耳を当てて音を聞いた。
「な、なんだ!? 二人して出迎えとか。何か変なこと考えてるだろ!」
日頃の行いで早速疑われていますよ。お兄さん方。
「そんな事ありませんよ」
「それよりも、今日はお前が料理担当だろ。和食作ってくれよ」
「あぁ……。拓也兄さん頼む。俺、疲れたんだ」
少し疲れた様な海斗の声が聞こえてくる。仕事が相当忙しいのだろうか。
「そう言って、その前もその前も俺が作っただろ。今日はお前も、ご馳走作りたくなるから作れよ」
「ふざけんな! 俺は、もう料理なんかしたくないんだ! ほっといてくれ!」
どんどんと、此方に向かって打ち鳴らされる様な足音が響いてくる。
まずい!
このまま扉を開けられたら顔面殴打しまうと思い、瞬時に扉の裏の壁に身を寄せた。
その瞬間に扉が開き、扉が顔面スレスレに迫って止まった。
どうやら、顔面殴打はしなくて済んだ様だ。
海斗がリビングに入って来たようで、部屋の中に甘い香りが漂いだす。鼻腔を満たす甘い香りに胸がきゅんきゅんする。
「俺は、もう作れない。こんなぐちゃぐちゃな気持ちじゃ、美味い料理なんて作れないだよ!」
完全に出るタイミングを失った俺は、大人しく扉の裏にいる事にした。
叫ぶ様な苦しい海斗の声に胸が苦しい。何とかしてあげれないのだろうか。ぐるぐると考えるが何が原因なのか分からない為、どうにもしてあげれなくて辛くなった。
「何でです? 貴方また、子羊ちゃんの事引きずっているんですか。三年も経ったと言うのに」
聖司の言葉に呆然とした。海斗が俺の事を引きずっている? 俺を置いていった二人はてっきり俺なんて何とも思っていないと思っていた。それでも良いから、逢いたかった。二人が俺何かいらないと言ったら、それはそれで諦めがつくと思っていた。
「分かってるくせに! お前達があの子を選ばなければ……。」
「そんなに忘れられない程、ふわふわちゃんが好きか?」
「あぁ、そうだよ。悪いか!」
海斗のその返答に、心が温かくなった。嬉しくて、自分だけじゃないんだって思えた。
「だとさ、彰良かったな」
その言葉と共に扉が俺の前から消えて、海斗の姿が現れた。少しくたびれたグレースーツ姿は銀髪に似合っていて、とても格好良かった。顔も三年前と殆ど変わっていない。若干目の下に隈が出来ているくらいだ。
「え? あ、あきちゃん!? 何で……」
「海斗!」
驚き固まっている海斗に、向かって駆けていく。飛びつく俺に動じずに抱き止めてくれた。海斗の胸元に顔を埋め、両手を背中に回す。
海斗だ。夢にまで見た海斗が俺の前にいる。温かく逞しい身体は以前と同じだ。胸元から香る海斗の甘い香りに酔いしれる。部屋に残る香りより断然強いその香りは、俺の求めたものだった。
海斗の両腕に強く抱き締められる。もう、どこにも行かせないと言われている様な抱擁を嬉しく思った。
「何で、ここにいるの? まさか、兄さん達に誘拐されたの!?」
急に身体を離され、心配そうに俺の顔を覗く海斗。だが、俺を腕の中から離そうとしない所を見ると、また守ってくれようとしてくれているみたいでその優しさに顔が綻んでしまう。
「違う。俺、海斗達に逢いたかった。連れて来て貰ったんだよ」
その言葉にほっとしたのか、少し海斗の腕の力が抜け様に思えた。
「海斗、いけない事だって分かってる。だけど、俺二人を忘れられなかった。逢いたいって、ずっと思ってたんだ」
「……あきちゃん。俺も君が恋しかったよ」
海斗の唇が俺の唇に重なる。そっと触れるキスに、寂しいと訴えていた心が静かになった。
「それ以上は二人きりの時にして下さい」
「妬けるな。ここに連れて来てやったんだ俺もして欲しい位だ。」
海斗に抱き締められて、聖司と拓也からの視線から隠される。聖司達が居るのすっかり忘れてた。
「拓也兄さん、俺がしてやるよ」
海斗と拓也がキス……。
甘いマスクのイケメンとヤクザ並の強面がキスするシーン。なんだか恐い。見たいと思わない。
「誰がお前としたいって言った。それなら、象とした方がマシだ」
「馬鹿な事言ってないで、夕食作って下さい」
海斗と拓也の漫才を一刀両断する聖司。やはり、兄弟は面白い。
「ちっ、分かったよ。あきちゃん、何食べたい?」
言葉の始めと終わりで声の甘さが違う事に微笑してしまう。本当に海斗は好きになった相手には甘い。その甘さに特別な物を感じ、嬉しく思う。
「俺、味噌汁が飲みたい。豆腐とわかめが入った温かい奴」
それを聞いた海斗も優しく微笑んでくれた。
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